こんにちは。道北・オホーツク担当の舛川弥生です。突然ですが、メープルシロップの生産地を聞かれたら、どこを思い浮かべますか?やはりカナダではないでしょうか。カナダに住んでいる友人の話では、春先には各地でお祭りが開かれ、さまざまな種類のメープルシロップやシロップを使った料理が売られてにぎわうそうです。
そのカナダと気候が似ている北海道でもメープルシロップが作られていて、オホーツク海側の美幌町では高齢のご夫婦が極上のシロップを作り出しています。豊かな森の恵みを生かしたメープルシロップの魅力を紹介します。
美幌町のメープルシロップは「イタヤカエデ」と「カラコギカエデ」の2種類の樹液から作っています。メープルは英語でカエデを意味します。カラコギカエデは海外のメープルシロップに似た味がする一方、イタヤカエデは澄んだ色をしていて上品な香りが特徴です。

原料の樹液は雪どけが進む3月から4月にかけてのおよそ1か月間に集めます。カエデの幹に小さな穴を開けてチューブを刺し、ポタッポタッとゆっくり流れてくる樹液をボトルにためていきます。今シーズンは約5000リットルを集めました。

採れたばかりの樹液を試飲させていただきました。透き通っていて、見た目は水のようです。飲んでみると、かすかに甘みを感じる程度で、やはりおいしい水を飲んでいるように思いました。
それもそのはず、樹液の糖度はわずか2度しかありません。この樹液からメープルシロップが作られるなんて驚きました。

集めた樹液は鍋で煮詰めていきます。大きな鍋をかけられる薪ストーブでおよそ2日間煮詰めて、糖度が50度を超えたら出来上がりです。何度も薪をくべて、あくをすくう地道な作業が続きます。

このメープルシロップを作っているのが平野茂夫さん(86)、祥子さん(81)ご夫妻です。もともと美幌町で酪農を営んでいましたが、子どもの時に味わったカエデの樹液のおいしさが忘れられず、60歳を過ぎてからメープルシロップ作りを始めました。

平野茂夫さん
「小学生のころ、近所のお兄ちゃんが木にナタで穴を開けて『樹液が出てくるから、あすの朝凍ったらなめてみなさい』と。戦時中だから甘いものは貴重で、今よりずっと甘く感じて、これはうまいなと思いました。研究を始めてからはイタヤカエデをもっと利用したい、できればこれを産業にしたいと思うようになりました」
夫婦で始めたメープルシロップ作りは試行錯誤の連続で、樹液の採集方法や加工のしかたを確立するまでに長い年月がかかったと言います。とりわけ樹液の煮詰め方は妻の祥子さんが熱心に取り組んできました。
平野祥子さん
「お父さんが採ってきた樹液を家のガスで煮詰めたら、ほんの少しの量だけど甘いメープルシロップが出来ました。ただ、あまりに長い時間煮詰めていたので、ガス漏れをしたんじゃないかとガス屋さんが飛んできました。それからいろいろ工夫して、出来上がりまでは10年かかりました。夜中の2時から毎日煮詰めて、出来上がったメープルシロップは私の宝物です」

手をしっかりつなぎながらインタビューに答えてくれたお二人。メープルシロップ作りはお互いを信頼し、尊敬しているからできたのだと話してくれました。お二人の姿があまりにステキで、「メープルシロップは愛の結晶ですね」とお伝えすると、茂夫さんは「甘いですよ」と返してくれました。
平野さんのメープルシロップは地元の人たちに協力してもらいながら生産量を増やしていて、今では美幌町のふるさと納税の返礼品にもなっています。今後は道内各地にメープルシロップの作り方を広めて、北海道の名産品として世界に売り出していく目標があるそうです。
今シーズンのメープルシロップは3000本を出荷する予定で、5月1日からJR美幌駅にある「物産館ぽっぽ屋」で販売されます(インターネット販売もあります)。美幌の森の恵みを夫婦で生かしたメープルシロップをぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
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