NHK札幌放送局

豊漁のサバはどこに消えた? シラベルカ#76

シラベルカ

2022年1月27日(木)午後0時52分 更新

みなさんの疑問に答える、NHK北海道の取材チーム「シラベルカ」。 今回は札幌市の60代の男性から「サバが道内で豊漁と報道されたのにスーパーの店頭に並ばないのはなぜですか?」というご質問を頂きました。たしかに豊漁なら安く出回るはずだというのが消費者心理ですよね。さっそく取材開始です! 

サバの豊漁に湧く漁港

私たち取材班はまず、実際にサバが豊漁なのかどうか調べてみました。すると、昨秋以降のここ数か月、後志の岩内町や寿都町、島牧村、それに道東の羅臼町などで、かつてないほどの豊漁だとわかりました。

そうとわかれば、現場に直行!
積丹半島のつけ根、岩内町を訪ねてみたのですが、この日はあいにくのシケ。
冬の日本海には大きな白波が立っていました。

サバの水揚げはありませんでしたが、漁港の競り場にいた岩内郡漁協の石村康人さんが最近の豊漁について教えてくれました。
石村さんによると、去年12月下旬からサケやホッケをとる定置網に、サバが大量に入るようになったとのこと。
それまでは多くとれても1日200キロほどの水揚げだったのが、最近では11トンにのぼる日もあるそうです。

「今までサバがとれたということがなかったので、ここまでとれるのかという驚きがありました。かなり異例のことだと思っています」 (岩内郡漁協 石村康人さん)

また、道東の羅臼漁協にも問い合わせたところ、去年の秋は豊漁になったとのことでした。
羅臼漁協では去年1年間にサバの水揚げが1594トンを記録し、おととし(22トン)の70倍、3年前(15トン)の100倍を上回る多さだったということです。

スーパーに道産サバが並ぶことはあまりない!?

そこまでサバが豊漁となっているのに本当に店頭に並んでいないのか、今度は、札幌市内のスーパーを訪れました。
売り場にはまるで水族館のように、さまざまな種類の魚がずらりと並んでいました。その中には、サバもありました! ただ、産地の表示を見てみると、一部に岩内産のサバもありましたが、大半は宮城県など道外産が占めていました。

せっかくたくさんとれているのに、商品棚には道外産ばかり? いったい、なぜなのか。
毎朝、札幌市中央卸売市場に足を運んでいるという仕入れのプロ、スーパーの鮮魚担当の斉藤亮彦さんに聞きました。

「宮城県などでは、もともとサバをとる漁師さんが多いですから、安定的に商品が入ってくるということになります」 (スーパー「北海市場」 斉藤亮彦さん)

斉藤さんの話では、スーパーなどの小売店にとっては、サバの品質はもちろんのこと、ある程度の量を安定して仕入れられるかがとても重要だといいます。

一方で、北海道ではサバやアジといった青魚を鮮魚で買って食べる人が本州より少なく、道内でたくさんとれても札幌市などの消費地に送られる量は比較的、少なくなるということなんです。

「道内でとれたサバは、漁港に近い地元ではある程度、商品として流通しますが、札幌の中央卸売市場まで入ってくるということは少ないです」(斉藤さん)

取材班は、道の漁獲統計や、札幌市の中央卸売市場の取引データを集計してみました。
すると、2020年の道内のサバの漁獲量は20,192トンだったのに対し、札幌市中央卸売市場での道内産のサバ取扱量は84トンで、全体のおよそ0.4%にすぎませんでした。

豊漁のサバはどこに?

それでは道内産のサバはどこに行っているのか?
魚の流通に詳しい、北海学園大学の濱田武士教授を訪ねました。

まず、濱田教授が教えてくれたのが、「豊漁」とは言っても、必ずしも道内全体で豊漁とは限らないという事実でした。
サバは群れで回遊し、ある地域の沿岸に近づいた際に定置網に入るため、豊漁は特定の地域で起きる、一時的な出来事ではないかというのです。
そのうえで、道内産サバの流通事情について解説してくれました。

「サバが大量にとれたからといって、すぐに札幌の人にたくさん食べてもらおうというような話にはなりません。漁師さんなど地元の漁業関係者にしてみれば、加工原料としてサバをたくさん買ってくれる千葉の銚子や青森の八戸の食品加工会社に売ったほうが手っ取り早いという事情があるんです」 (北海学園大学 濱田教授)

濱田教授によると、道内産のサバは鮮魚としては流通しにくく、しめさばや缶詰などの「加工品」に多く回されるということです。
それは、宮城のようなふだんからサバがよくとれる産地と、北海道のように急にとれた産地とでは魚の仕分け方が違うからだといいます。

「これは加工向け、これは鮮魚向け、そしてこれはエサや肥料向けといった形で、同じサバでもサイズによって使われ方が違います。それに応じて、サバがよくとれる産地には用途別に仕分けるための専門家がいます」 (濱田教授)

実は、サバはその大きさによって用途が異なり、100グラム単位で細分化されています。濱田教授のお話をもとに大まかに分けると、こんな感じです。

300グラム未満・・・非食用のエサや肥料
400グラム未満・・・缶詰
400グラム以上・・・切り身加工や鮮魚(スーパー)
500グラム以上・・・鮮魚(料理店向け)

たとえば定置網で漁をしたとします。実際にはさまざまなサイズのサバが網にかかるため、水揚げしたらできるだけ早く仕分けていかなければなりません。さらにサイズだけでなく、品質も見分ける必要があり、そこで「目利き」の力が重要になってくるのです。

ふだんサバを扱う機会が少ない道内の漁港には、そうした「目利き」の人が多くいるわけではないので、一時的に大量にとれたからといって産地だけで消費できるということにはならないんですね。

でも食べたい! カギを握るのは街の魚屋さん!?

とはいえ、豊漁ならば食べたいと思う人がいるのも事実です。
濱田教授によると、そのカギを握っているのは街の魚屋さんだといいます。

仕入れを計画的に行っているスーパーに比べ、街の魚屋にはその日の漁獲に応じて柔軟に仕入れを決められる強みがあり、急にとれた魚は大きなスーパーよりも、魚屋で見つけやすい側面もあるということです。

こちらは、札幌市内にある鮮魚店です。店頭には、豊漁に湧く寿都産のサバも並んでいました。しめさばにして刺身の盛り合わせにも入れているということです。
店主の多田健三さんのご厚意でこのしめさばを試食させてもらうと、脂がすごくのっていて甘く、非常に上品な味でした。
私たちが取材に訪れたのは午後3時すぎ。ちょうど店内では、夕飯のための買い物に訪れたお客さんたちが、多田さんからアドバイスを受けながら品定めをしていました。

街の魚屋では売り手と客との距離が近いため、なじみの薄い魚が急にとれたときでも、おいしい食べ方などを伝えやすいといいます。

「お客さんと対話しながら販売できることで、魚の色々な食べ方を提案しやすいし、お客さんも食べ方を聞きやすい。こういう対面式の強みはあると思います」(札幌多田水産 多田健三さん)

実は、こうした街の魚屋さんは札幌市内ではスーパーなどにおされて、この数十年で10分の1ほどに減っていました。
それが、このコロナ禍でいろいろな魚を自宅で調理してみたいという需要が高まり、札幌市内で5つの鮮魚店が新規オープンしたということです。
こうした動きをきっかけにして、もしかすると数年後には、道内産のサバなどさまざまな魚をもっと買い求めやすくなる日がくるかもしれません。

(札幌局 記者 黒瀬総一郎/ディレクター 安田想)

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