ばんえい競馬史上、最高齢の新人騎手 小野木隆幸騎手。2022年にデビューしたばかりの40歳の新人騎手です。幼い頃からの夢を叶え、新たな世界で奮闘するオールドルーキーの思いを聞きました。
(NHK帯広 前嶋紗月)
オールドルーキー誕生!
帯広市が主催する「ばんえい競馬」。ばん馬と呼ばれる体重およそ1トンの大型の馬が鉄製のそりを引いて速さを競うもので、全国で唯一、帯広競馬場で行われています。
2023年2月までの馬券の売り上げはすでに518億円を超えて過去最高を更新するなど、ますます盛り上がりをみせています。
そこに現れたのが2022年にデビューした新人、小野木隆幸騎手です。同期の2人とは、20歳近く離れています。

新人騎手をお披露目するイベントでは、自身のモットーとして、何度失敗しても志を曲げないことを表す「百折不撓」をあげました。そして「くじけず立ち上がり、前を向いていきたい」と誓いました。

30代で訪れた人生の転機。憧れの競馬の世界へ
帯広市出身の小野木さんにとって、「ばんえい競馬」は幼い頃から身近な存在でした。冬休みなどの長期休みには度々、祖母と競馬場を訪れていたといいます。家でも、テレビで放送される「ばんえい競馬」を見ながらひもを振り回し、騎手遊びをするほど。観客とレースの距離が近いばんえいの魅力に惹かれ、特に騎手は憧れの存在でした。

しかし、高校を卒業しそのまま憧れの競馬の世界へ…!とはならず、自衛隊員のほか、パチンコ店や飲食店などの仕事を転々としていました。
そのまま時は過ぎ、34歳になった小野木さんに突然転機が訪れます。競馬場で馬の世話をする厩務員の求人を偶然見つけたのです。

小野木さん
「あっ募集している!行きたい!ってその場で奥さんに相談したら「いいよ」と。自分のやりたいことをやった方がいいと後を押してくれました」

ついに、競馬の世界に入った小野木さん。かつて抱いた騎手の夢も消えていませんでした。学科試験に苦戦しながらも、39歳の時、最後の挑戦と決めた4度目の試験で騎手に合格したのです。

小野木さん
「うれしさと同時になってしまったなあと。厩務員に応募するときは、わくわくしかなかったですけれど、シビアな世界なので実際うまくできるかとか不安の方が大きかったです」
苦戦するなか勝ち取った初勝利
不安の通り、デビュー後は苦戦が続きます。一方で、同期の新人は勝利を重ねていました。
そんなとき、支えになったのが厩務員時代から励まし続けてくれた先輩騎手の言葉でした。新人は、そりの重さを一定量、減量できるハンディキャップが与えられます。減量があることを生かし、ライバルよりもっと前で勝負するようアドバイスをもらいました。

忘れていた「前への姿勢」。そしてデビュー14戦目で…。
レース実況
「5番イワキテンリュウ。小野木隆幸 初勝利です!!」
念願の1勝をつかみました。

小野木さん
「やっと勝てたというほっとした気持ちになりました。その時も結構前の方でレースができていたと思います」
同世代のばんえいファンも頑張る姿に励まされるといいます。
40歳男性
「この年になると新しいことを始めるのはなかなか難しいですよね。応援したいです」
50歳男性
「僕もいま50歳で負けないように頑張りたいなあと思いますね」
夢を諦めている人へ伝えたい
日々、奮闘する小野木さん。自分の姿を見て、ばんえいで一緒に働く仲間が増えてほしいと願うのと同時に、夢をあきらめている人の希望にもなりたいと考えています。さらにその思いは、自分を奮い立たせるといいます。
小野木さん
「どこで人生うまくどう変わるかも分からないので。諦めないでほしいなあと。だからこそ自分も頑張ろうという風に思います。僕がこの年で騎手になりました。だけど結果うまくいきませんでした。例えば2、3年で騎手やめましただったら意味がないというか。結局なったけどだめじゃないかという風にはなりたくない」
目の前のレースを大切にして、さらなる高みを目指します。

小野木さん
「1つ1つのレースを大事にして、1つでも多く勝てるようにしていきたい。努力していくのでこれからもよろしくお願いいたします」
【取材後記】
取材の中で小野木さんが、競馬の世界に足を踏み入れるきっかけとなった厩務員に応募したときについて「不安は無かった。わくわくする気持ちでいっぱいだった」と話していたことが印象的でした。
その「わくわくする気持ち」を胸に前へ前へと突き進む小野木さん。私も仕事をするうえで見習わなければいけない姿勢だと感じました。
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