NHK札幌放送局

地熱発電と温泉が共存するために

番組スタッフ

2021年4月30日(金)午後4時17分 更新

「地熱開発の有望な土地には、温泉が多い。地熱発電も温泉も、ともに地下の熱水を利用する。開発によって、温泉の湯量が減ったり温度が下がったりしないか心配だ」
地熱発電の開発にあたって、地元住民の方々からよく聞かれる声です。

こうした懸念が、世界第3位の地熱資源がありながら、日本でなかなか地熱発電の開発が進まない一つの要因となっています。

温泉への影響を抑えるためにも、そして安定した発電を確保するためにも、地熱資源に負荷をかけすぎない熱水・蒸気の利用がとても重要になってきます。それをどのように実現しようとしているのか、現場での取り組みを見ていきます。

発電所を稼働した後も大事

地熱発電では、「生産井」を使って地下にある地熱貯留層から蒸気・熱水を取り出し、タービンを回して発電を行います。

地下から取り出した蒸気・熱水は、発電に利用された後「還元井」を通じて地中に返されます。地上で温度の下がった水が、地中で再び暖められながらゆっくりと地熱貯留層に戻っていくことを期待しています。ただ、どのくらいの量が、どのくらいの温度になって貯留層に返るのか、不透明な部分もあります(こちらの記事もご参照ください)。

また、地熱貯留層には、新たに、深部から熱や蒸気・熱水が供給されたり、雨水が流れ込んできたりします。

「発電に使うために取り出す蒸気・熱水」と「発電後に貯留層に戻されていく水」+「貯留層に深部から供給される熱と蒸気・熱水」+「雨水」のバランスが保たれた状態であれば、地熱発電は 持続可能な「再生可能エネルギー」となります。

ただ、蒸気・熱水を使いすぎると、「新たな蒸気・熱水」の供給が追いつかなかったり、還元井から戻された水が短期に大量に流れ込むことによって貯留層が冷えてしまったりして、地熱貯留層の能力が落ちてしまうことがあります。すると、十分な発電ができなくなってしまったり、場合によっては周囲の温泉への影響が出てきたりすることもあるのです。

地熱発電の開発を行う時には、地中の重力や電磁場を地表から測定したり、井戸を掘って噴き出す蒸気・熱水の成分を調べたりすることで、あらかじめ地熱資源の量や温度を推定します。

ただ、いくら調査を行っても限界があることを前提にしなくてはいけないと、地熱発電研究の第一人者の一人・九州大学名誉教授の江原幸雄さんは指摘します。

開発の前に出来る限りの調査を行って、地熱資源の量や温度を推定して、それに見合った発電計画を立てることはとても大切です。ただ、どんなに調査をしても、地下にある資源量を事前に完全に把握することはできません。
ですから、発電所を稼働させてからも、どのくらいの蒸気・熱水の利用なら地熱貯留層に負担をかけないのか、その量を探っていく作業が欠かせません。地下の深い所で起こっている現象を想像しながらそれを見極めるのは、簡単なことではないんですが、試行錯誤しながらやっていくしかありません。

「自然相手」は難しい

どのくらいの蒸気・熱水の利用なら、地熱貯留層の使用と供給のバランスがとれるのか。
道南の森町ある北海道電力・森地熱発電所も、長年この課題に取り組んできました。

森地熱グループリーダーの三上隆二さんは、毎日の業務の中でも、地熱貯留層で起こっていることと「対話」しながら、発電を行っているのだと言います。

地熱発電は、季節や天候に関係なく安定的に発電できる電源だとされていて、それは正しいんですけれど、ただ、自然を相手にしているわけですから、当然 地下からの蒸気や熱水の出方には常に変動があります。その変化に対応しながら、私たちは日々の発電を行っているんです。

様々な機器を監視している中央制御室。ここで、その「変動」を強く感じることができるといいます。

地下の蒸気と熱水は、混ざった状態で生産井からくみ上げられ、気水分離器によって、蒸気と熱水に分けられます。蒸気はタービンに送られ発電に利用されます。一方、熱水は、一度「熱水タンク」に溜められ、ポンプで圧力をかけながら還元井に送られていきます。圧力をかけることで、地下の割れ目に効率よく水を吸い込ませる狙いがあります。

熱水タンクに貯められた熱水の量は、モニターで常に監視されています。モニターの赤いラインが、熱水の量を示しています。一定ではなく、常に変動しているのが分かります。

地熱貯留層から蒸気や熱水がたくさん噴き出すと、熱水タンクに送られる熱水の量も増えます。一方で、蒸気や熱水があまり噴き出さないと、タンクへ向かう熱水の量は減ります。
このタンクに溜まる熱水の量に合わせて、還元井に送り出す熱水の量を調整することが重要になるといいます。

もし、熱水が増えすぎてタンクからあふれてしまったら、周囲の機器を傷めてしまいます。また、熱水の量が減りすぎると、熱水を還元井に送り込むポンプが、熱水の代わりに空気を吸い込んでしまって、故障につながる恐れもあります。ですから、タンクの水位が上がってきたら、還元井の入口にあるバルブを開けて、多くの熱水を還元井に送るようにします。一方で、水位が下がってきたら、バルブを閉めて、送る熱水の量を抑えるようにします。この調整は、24時間体制で常にチェックしながら行っています。
こうした熱水の変動を見ていると、改めて、地球のダイナミズムを感じますね。

貯留層を冷やさないために

地下で起こる日々の変化に 細心の注意を払う必要がある地熱発電。
長期的な視点で見て、どのくらいの蒸気・熱水の使用が適切なのか、見定めることは、さらなる困難が伴います。

森地熱発電所は、1982年の開業当初、5万kW の出力で運転していました。
ところが、しばらくすると、出力が低下。設備容量の半分にも満たない状況にまで発電能力が落ち込みました。

地熱発電所の運転を続けていると、時間が経つにつれて井戸の内側に、熱水に含まれる炭酸カルシウムなどが付着していきます。これをスケールと呼びます。このスケールによって、井戸の通り道が細くなり、取り出す蒸気・熱水の量も減って、出力が低下することがあります。

森発電所では、定期的にスケールを取り除きましたが、出力が回復しません。
そこで、新しい生産井を掘り、十分な蒸気・熱水を確保して出力を上げようとしました。しかし、やはり思うように回復しませんでした。

各機器から得られるデータを検証してみると、生産井から取り出す蒸気・熱水の温度が下がっていることが分かりました。

こうしたことから、北海道電力は、

  • 地中に戻す水が、貯留層の温度を下げてしまっている
  • 今のペースで蒸気・熱水をくみ上げ、地中に水を戻し続けたら、さらに貯留層の温度が下がり、結果として出力もさらに落ちる可能性がある

と考えました。

そこで、森地熱発電所では、新しい井戸を掘ることをやめ、くみ上げる蒸気・熱水の量を抑え、出力を最大2万5000kWに減らして運転することにしました。地中に戻す水の量をコントロールすることで、過剰に地熱貯留層が冷えることを防ごうとしたのです。2012年にこの方針に切り替えて以降、蒸気・熱水の温度、発電出力はともに安定しました。「発電のための使用」と「貯留層への補給」のバランスが取れるようになったと、北海道電力は考えています。

森地熱発電所のケースでは、周囲の温泉に影響が出たという報告があったわけではありません。ただ、適正な地熱資源の利用は、事業の安定性に加えて、地域住民とのコミュニケーションの上でも欠かせないと、森地熱グループリーダーの三上さんは考えています。

地熱貯留層を守るという姿勢を示すことは、温泉事業者をはじめとした地域住民のみなさんの安心にもつながると思います。これからも適切な地熱資源の利用に努めたいと思います。

「地熱資源の重さ」から適切な使用量を探れ!

地熱発電に求められる「くみ上げる蒸気・熱水・熱」と「地熱貯留層に供給される水・熱」のバランス。
地熱貯留層の温度の変化については、くみ上げた蒸気・熱水の温度を測れば、ある程度把握することができます。ところが、地下深くの貯留層の「資源量」の変化を正確につかむことは、簡単なことではありません。

九州大学名誉教授の江原幸雄さんは、以前、「くみ上げる蒸気・熱水」と「貯留層に供給される水」の『量のバランス』がどの程度取れているのか、精密な調査を行い検証したことがあります。

場所は、大分県にある八丁原(はっちょうばる)発電所。1977年に5万5000kWの出力で運転を開始し、さらに1990年にも5万5000kWの2号機を稼働させました。

江原さんたちの研究グループは、2号機の稼働が始まる前から、発電所周辺の地表の重力を測っておきました。そして、稼働後にも重力を測り、その数値を比較していったのです。

地下にある熱水の量が少なくなると、その地層の重さは軽くなり、地表で測る重力の値も小さくなります。逆に、熱水が増えれば、重力は大きくなります。つまり、重力を測ることによって、地下の地層が含む熱水の増減を推定することができるというのです。

江原さんたちの研究グループの調査結果では、2号機の稼働当初、生産井近くの重力は急激に下がっていきました。ところが、次第に数値が安定し、7年後には ほぼ増減がない状態で均衡したといいます。

この結果から、

  • 稼働が始まると、地熱貯留層の蒸気・熱水の量が減る
  • しかし、量が減ったことで、地熱貯留層の圧力も低下する
  • すると、吸い込まれるように、周囲から地熱貯留層に水が補給される
  • 最終的に7年程度で、失われる量と補給される量のバランスが取れた

このように江原さんは考えました。
実際、八丁原発電所では、安定した出力での運転を続けています。

江原さんは、今後、このような調査技術を使いながら、結果を地域の人たちに示していくことが、地熱発電の進展には必要なのではないかと考えています。

こうした調査を行うと、地下の状況がある程度皆さんの目の前に見えるようになります。客観的なデータをもとに安定性が保たれていると分かれば、住民の皆さんの地熱発電への理解も深まっていくと思います。
さらに言うと、地熱発電所を作る際には、まず小さめの発電所から始める。そして、調査を行って、大丈夫だと確認できてから、さらに発電機を増やす。このように少しずつ広げていくというやり方が、地熱資源の利用についての最適値を探る上では有効なのだと、私は考えています。

エネルギー取材班
2021年4月30日

※この記事に関するご意見やご感想、関連する情報のご提供などがありましたら、NHK北海道のシラベルカまで、ご投稿ください。

この記事は、3月19日に放送した「北海道道」の取材成果をもとに作成しています。

継続取材の一連の記事は、こちらからご覧いただけます

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