NHK札幌放送局

ロシアのウクライナ侵攻 子どもたちにどう伝える?

ほっとニュースweb

2022年4月27日(水)午前11時19分 更新

札幌市のデザイン会社が中心となり毎月発行されているタブロイド紙「庭しんぶん」。5年前に発行が始まり、4月で56号目を数えました。
編集長、デザイナーはいずれも40代の父親で、子どもの疑問に答える特集を毎月組んでいます。最新号で取り上げたのは「ウクライナとロシア」。きっかけは当時小学2年生だった編集長の息子の「どっちが勝つと思う?」という問いかけでした。
二人の父親は子ども達にこの”戦争”をどのように伝えたのでしょうか。

「そう思っているんだって、戸惑った感じです」

「庭しんぶん」編集長の藤田進さん(41)。
3人の子どもの父親で、本業は絵本やおもちゃの販売代理店の代表です。

ロシアによる軍事侵攻が始まって2週間ほど。
ウクライナの各地で市民が犠牲になっていることが連日、新聞やテレビ、WEBで伝えられる中、息子からこう問いかけられたといいます。

ねぇ、お父さん。
この戦争、どっちが勝つと思う?

この問いかけに「戸惑った」と語った藤田さん。
その理由をこのように振り返りました。

食事しているときに「どっちが勝つの?」と聞かれて、「そうか、そう思っているんだ」と、戸惑ったというのが正直なところです。
大人としては勝ち負けではなく、殺しあっている現状に対して不安や理不尽さ、あるいは理由を探すと思うんです。
子どもたちは流れてくる情報をもとに、もしかしたら小学校でそんな話をしているのかなって。子供たちなりにリアリティーの捉え方は当然あって、いまはそうとらえているんだなと気がついた瞬間でした。
その考え方がいい悪いではなく、現実にはもっといろんなことが起きていて、本当は彼らも理解できるはずだから、一緒に考えられる材料を届けたいと思ったんです。それで特集することにしました。

この時の会話については、「庭しんぶん」に掲載されている編集長コラム「虫めがね日記」にも記されています。

想像以上に子ども達の日常に入り込んでいたこと。
子ども達がそう感じている、あるいはそう表現しやすい状況になっているんだという気づき。
リテラシーが十分ではない子ども達に次々に伝えらえる戦況や現地の様子を親としてどう伝えればいいのかという悩み。
さまざまな思いが交錯していたことが感じられます。

こうして、当初4月号で特集する予定にしていた「自給自足」を先送りし、「ウクライナとロシア」について取り上げることにしました。

では、どのように何を伝えていくのか。
ともに製作するメンバーと検討が始まりました。

”戦争”そのものを伝えたいわけではない

まず決めたのは、戦争ど真ん中を取り上げないということ。なぜなら「戦争」そのものを伝えたいわけではないから。

いま足りていない情報、現状と未来を考えるために必要な視点を届けることに重きを置きたいと考えたといいます。

そして、特集のキーワードが決まりました。

「暮らし」です。

国や地域は「暮らし」の積み重ね。
それを破壊する行為がいま起きていると伝えることにしたのです。

社会を分割していくと複数の家族にわかれますよね。
その家族や、暮らしというのは住んでいる場所や文化は違えど、ある程度普遍的なものだと思います。これなら子どもたちも自分に引き寄せて考えられるんじゃないかなと思って「暮らし」に焦点を当てることにしたんです。

ウクライナとロシア
「対等に表現」を

特集する上でもう一つ大切にしたのが「対等」に表現することでした。

争いではなく比較。
それぞれを知ることが、まずは重要だと考えたからです。

その思いはデザインで表現しました。

「庭しんぶん」は札幌市のデザイン会社 3KG が中心となり発行しています。

複数のデザイナーらと議論を重ね、伝統料理や民族衣装、代表的な建物などをイラストで表現。あわせて子供たちが読む民話や昔話も紹介することで、ウクライナとロシアで生きる人たちの「暮らし」を少しでも身近に感じてもらおうと工夫が凝らされています。

自らも父親で、創刊時からデザインを担当している佐々木信さん(47)。
デザインに込めた思いを、こう話しています。

どちらが強い。人口がどう、国土がどうと見せるのではなく、掲載面積は均等。あくまでも一つの国として対等であるという意味で二分割にしました。
加えて、戦っている、争っているというようにも見せたくありませんでした。注目してほしいのはもっと根源的な暮らしなので。
そのため、取り扱う項目をそろえ、冷静に比較できるように並べていきました。それも単純にとか、整然とではなく、一つのかたまりとして認知できるようにと考えて取り組みました。

「一緒に考える存在でありたい」
40代のふたり 自らの子ども時代を重ねて

こうして完成したのが「庭しんぶん」の最新号でした。

発行部数は毎月9000部ほどで、道内のカフェや保育園、個人が購読しているほか、道外では北から宮城県、福島県、栃木県、埼玉県、神奈川県、長野県、愛知県、奈良県、滋賀県、兵庫県、和歌山県、徳島県、福岡県、佐賀県、長崎県にも発送しています。

なお「ウクライナとロシア」の特集号は現在、入荷待ちとなっています。

今回の取材の中でふたりは、今の子どもたちにとっての「ウクライナとロシア」を、自分たちの子ども時代に起きた「湾岸戦争」に重ねて、こんな話をしていました。

≪編集長 藤田さん≫
僕らでいうと「湾岸戦争」に近いのかなと。
当時の様子は映像として覚えていますが、その時に起きていることについてあまり説明されていなくて、イメージだけが残っているんですね。その経験から、子どもが敏感に感じ取る時に、その疑問や違和感に並走して一緒に考えてくれる人が必要な気がしているんです。
特に隠しておけないほど、子どもの日常に入り込んでしまった「戦争」のようなニュースについては。
これは日常的に感じていることで、日本にいると感じにくいことなのですが、そもそも紛争や内戦などの争いは世界で結構起きていて、多くの難民も生まれています。今回は大きく取り上げられているだけなんですよね。そうした現実への理解を進めるきっかけ、種をまく存在に「庭しんぶん」がなれたら嬉しいです。
≪デザイナー 佐々木さん≫
「湾岸戦争」の話でいうと、僕もその時にリアリティーを持って感じられたかというと、そうではないなと思っています。
でも、息子たちには自分よりも事象との距離を詰めて感じておいてほしいと思っています。自分の子どもたちを意識して、何かを変えたいとすると、その意識、間接的なものとして捉えないで、感覚が少しでもいい方向に向いたらいいと思っています。
何かが起きてからデザインができることはどうしても限られてしまうけど、起こさないためにデザインができることはあると思っているので、できることをやりたいと思います。

”戦争は人類の未解決の課題”
”この課題に一緒に取り組みませんか?”

ふたりは二つの国の「暮らし」を紹介したうえで、「平和な暮らしって?」をタイトルに記事をまとめました。

そこにはこのような思いが記されています。
「庭しんぶん」より一部抜粋してご紹介します。

これだけは覚えておいてほしい。どの国に住んでいようと、どんな状況であろうと、人がいるところには暮らしがあります。僕ら人間は毎日ごはんを食べ、誰かと話したり、笑顔をかわしたり、抱きしめ合い、歌ったり踊ったりするんだ。暮らしって生きることそのものだからね。それを知ることは人間を知ることだし、世界を知ることにもつながる。
だけど戦争は暮らしを暴力でばらばらにする。
自分たちの暮らしを壊されないようにすること。それは、誰かの暮らしを壊さないということでもある。そんな暮らしをつくるんだ。僕たちの頭の上に爆弾が落ちてこないように。そして、僕たちが誰かの上に爆弾を落とすようなことがないように・・・。それはとっても知恵と勇気がいることです。君もこの課題に取り組んでみませんか。

「ウクライナとロシア」子どもにどう伝える?
 取材後記:瀬田宙大

「庭しんぶん」を知ったのはNHK札幌の広報職員との会話の中ででした。

「子育て中の親が中心となってつくっているタブロイド紙があって、いつも子どもの疑問に寄りそっていて面白いんですよね」

そう聞いて、記事を確認。
初めて読んだのはことしの3月号でした。
特集テーマは「じしん」。
どのような備えが必要なのか親子で会話が進めやすいような内容になっていました。

興味を持って過去の特集を見ると「死」「性のはなし」「うそ」「プラスチック」「ともだち」「子どもの権利」など興味深い特集テーマが並んでいました。

その最新号で「ウクライナとロシア」を取り上げていると知り、すぐに取材に動きました。

編集長の藤田さんとデザイナーの佐々木さんに、なぜ特集しようとしたのか、伝えたかったことは何かなど様々な質問をぶつけながら、私自身もこの企画を通して何を伝えたいのか、どう伝えるのがいいのか考え続けました。

ロケの中で印象に残ったやりとりがあります。
それは私が藤田さんに「『どっちが勝つの』と聞かれ、この庭しんぶんで答えをだしていますが、お子さんの反応は?」と聞いたところ、藤本さんは「ドライなんですよ。『こんな感じになったんだ』って言って、彼は彼でラフの時とかにも見ていたんですが、そんな感じで…結構難しいんですよね」と答えました。
自分の子ども時代を思っても、確かにそうだなと納得。
すると佐々木さんが「でも、それがあとになると効いてくるのよ。うちの息子は藤田くんのところよりも3つ上なんですけど、伝わっていると思うよ。『ふーん』とは言うけどね。わかりやすい答えがあるはずがない問題だからね。考えているんじゃない?」と話をつづけました。

すると藤田さんは「子どもたちは大人が思っているよりも文化的だし、たくさんのことを吸収していますからね。簡単ではないけど、その積み重ねが大事なんですよね。息子たちは20年先には20代、30代になっていますが、おそらく変わらず、この問題を考える機会があるのではないかなと考えています。残念なことに。少しでも未来を変えるためにも、この戦争が終結して、しばらくして忘れてしまうのではなく、親子ともに宿題として『これでいいのか』という問いを持ち続けることが大切だと思います」と言葉を重ねました。

このやりとり、私もしっかりと心に留めて、今後の取材・放送に向き合っていこうと思います。

ウクライナとロシアの暮らしを見つめたこの「庭しんぶん」が家族の会話を生むきっかけになること、そして冷静にこの現実を見つめ続けることにつながることを期待しています。

同時に、「暮らし」がいまも破壊され続けている現状がいち早く収束し、不条理な思いをする人がこれ以上でないことをただただ願うばかりです。

この特集も含め5月2日(月)のおはよう日本では子ども達にロシアのウクライナ侵攻をどう伝えるのかをテーマにした放送が予定されています。

NHK札幌放送局 アナウンサー瀬田宙大
2022年4月27日

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