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生乳危機  揺れる酪農王国十勝  #十勝農業放送局

十勝チャンネル

2022年2月9日(水)午後3時05分 更新

十勝の基幹産業である酪農がいま、危機に直面しています。新型コロナウイルスの影響で、全国的に乳製品の消費が落ち込み、年末年始には余った生乳を廃棄するおそれも出ました。廃棄は回避できたものの、バターなどの在庫が過去最高水準に積み上がっていることから、令和4年度には16年ぶりに生乳の生産抑制が始まります。道内の生乳生産量の3割を占める酪農王国十勝に広がる影響を追いました。

(NHK帯広/嘉味田朝香記者)


競りに異変 下落する乳牛価格

最初に訪れたのは音更町にあるホクレン十勝家畜市場です。
この日行われていたのは「初妊牛」と呼ばれる乳牛の初競りです。「初妊牛」とは子牛をみごもった若いメスの乳牛です。

牧場の規模拡大を目指す酪農家は、こうした競りで乳牛を購入し、生乳の生産拡大につなげています。この日も市場には乳牛を求めて、道内だけでなく道外からも酪農関係者が訪れていました。その乳牛の価格がいま、低迷しています。
ホクレンによりますと、この日の「初妊牛」の平均価格は67万46円と前の年よりおよそ16%も下落していました。

コロナ禍前は生乳の増産が呼びかけられていたこともあり「初任牛」の価格はこれまで上昇傾向にありました。平成30年の平均価格は、99万7164円にものぼっていたということです。
競りの価格下落に影響しているのが令和4年度に16年ぶりに行われる生乳の生産抑制です。生産抑制によって酪農家の乳牛への需要が低下し価格の下落につながっているのです。生産者に代わって市場に売却に訪れた農協関係者からは懸念の声が聞かれました。

「生産調整の影響で、値段が下がってきて厳しい状況にあります」
「なるべく高くあってほしいなと思っています」


生産抑制に酪農家は…

酪農の現場はいまどうなっているのか。更別村の牧場を訪ねました。

出迎えてくれたのは、酪農家の渡辺浩明さんです。家族と2人の従業員で240頭の乳牛を飼育しています。生乳に廃棄のおそれが出たこの年末年始は大きな不安のなかで過ごしていたといいます。

渡辺牧場 渡辺浩明さん
「本当に現場で牛乳を捨てなきゃいけないような状況になってしまうのかとすごく不安に感じていました」

生乳の廃棄は避けられたものの、渡辺さんの懸念は続いています。その理由はこれから始まる生産抑制です。
こちらはホクレンが道内の酪農家に配った文書です。

バターや脱脂粉乳などの在庫が過去最高水準に積み上がっているとした上で生産抑制への協力を求めています。生産抑制が求められるのは、道内の酪農家だけです。

渡辺さんは生産抑制が続く間は牛の数を増やすのは難しいと考えています。このため、牧場としての収入を確保しようと、乳牛の飼育だけでなく、肉牛として販売できるオスの乳牛や和牛の生産にも力を入れているということです。

渡辺牧場 渡辺浩明さん
「コロナが明けた後の需要というところもにらむと、生産できる力は確保しながらも生産抑制に協力していかなければならないという状況です。コロナということもあるので、やむを得ないところもありますが、先行きの見通しが立たないままで不安に感じています」


生乳生産急増 そのやさきに…

道内の生乳生産量はここ数年急増しています。背景にあるのは酪農家の大規模化です。国の支援事業の後押しも受けて、生産が減り続けていた本州を補う形で生産を増やしてきました。十勝も生乳生産量は10年連続で過去最高となっています。

生乳増産を進めてきた中での生産抑制に、規模拡大を行っていた牧場には困惑が広がっています。
取材に訪れたのは上士幌町にある乳牛の飼育頭数が4000頭にものぼる道内最大級の「ギガファーム」です。規模拡大に合わせ設備投資も進め、2020年の春には最新の設備を整えた牛舎2棟を新たに建設しました。

中には最新の自動搾乳ロボットや自動餌やり機が設置されていました。
牛舎の建設にあわせ、乳牛も新たに850頭増やし、投資額はおよそ40億円にものぼったといいます。

増産を進めていたやさきに打ち出された生産抑制の方針は、今後の事業計画にも狂いを生じさせかねない状況だといいます。

ドリームヒル 小椋幸男社長
「国は大規模化を推進してきて『どんどん絞りなさい』という方向性で来ていたので、いきなりはしごを外されるという感じです。国の方針に沿って大規模化してきたので、生産抑制が行われる中でこの投資をどういう風に回収していけばいいんでしょうか」

さらに、小椋社長はコロナ禍による生乳の需要低下は全国的な問題のため、生産抑制も北海道の酪農家だけでなく、全国の酪農家で取り組む必要があると指摘しました。そして、16年前の前回の生産抑制の状況を振り返りコロナ後への懸念も示しました。

ドリームヒル 小椋幸男社長
「北海道の生産をメインで抑え込んで、コロナ後にはまた、調整が効かなくなると思います。一度減産してしまうと、再び“バターが足りない”ということになりかねません。また同じてつをふんでいるのではないかと思います」


酪農のあるべき姿は

危機を繰り返さないためにはどうすればいいのか。
酪農経営に詳しい北海道大学大学院の小林国之准教授は、そもそも生乳自体が需要と供給のバランスを安定して取ることが難しいと指摘します。

その上で、今回の危機を乗り越えるためには、全国の酪農家がともに解決策を探っていくことや、国が乳業メーカーを支援し、バターなどの原材料を輸入から国産に置き換えるなど業界を挙げた取り組みが重要だと指摘します。

北海道大学大学院 小林国之准教授
「この危機をどうやって乗り越えるかという中で、非常に厳しい局面をことしは迎えると思います。北海道という場所でどういう酪農が持続的なのか、酪農家だけでなく消費者も互いにコミュニケーションを取りながら改めて考えていく、そういう機会にしなければならないと思います」

2022年2月4日放送


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