NHK札幌放送局

豊富町 未利用の天然ガスで発電  目指せ!企業誘致

道北チャンネル

2022年11月25日(金)午後3時04分 更新

北海道宗谷地方にある人口およそ4000人の豊富町。町の自慢は「日本最北の温泉郷」と呼ばれる豊富温泉です。この温泉と一緒に湧きだしているのが天然ガス。しかし、そのほとんどが使われずに自然放出されています。世界的にエネルギー価格が高騰するなか、何ともったいない!この“天の恵み”を有効活用しようと、町では新たな挑戦が始まりました。(稚内支局 山川信彰) 


豊富町の“天の恵み”  温泉に天然ガスも

豊富温泉の泉質は独特です。色は茶褐色。お湯の表面には油が浮いていて、灯油のようなにおいがします。この油の成分を含む温泉がアトピー性皮膚炎や乾せんなどの皮膚病に効くとされ、全国から多くの湯治客が訪れています。

今から100年近く前に石油の試掘を行ったところ噴出したとされていますが、温泉と一緒に湧きだしているのが天然ガスです。その産出量は一日あたりおよそ1万1000立方メートル。貴重なエネルギーとして昔から重宝されてきたといいます。

豊富町商工観光課  菊地昌宏 係長
「天然ガスを温泉旅館の暖房や、お湯を沸かす用途で使っていたという記録が残っています。ガスのメタン率は95パーセントと不純物が少ないため、調整をしなくてもほぼすべての機器でそのまま使えます」


天然ガスは町が採取し、町内の温泉旅館やヨーグルト工場など18の施設に供給しています。地場のエネルギーとあって、輸送コストがかからないため、料金は市場価格の半額ほどです。


7割未利用も…  増え続けるガス

“天の恵み”とも言える天然ガスですが、町を悩ませている問題があります。町内の施設で使うには「量が多すぎる」のです。現在、産出量の7割にあたる8000立方メートルが使われず、そのまま空気中に放出されているのです。さらに困ったことに…。

豊富町商工観光課  菊地昌宏 係長
「令和元年(2019年)の12月12日に豊富町で震度5弱の揺れを観測する地震があり、その2日後にガスが新たに噴出したのです。ことし6月の地震でもガスの量が増えました。まったく想定していないことでした」

町によりますと、地震後、湧きだすガスの量が1.4倍に増えたということです。


天然ガス→水素→電気 モデル事業の実現性は?  調査始まる

増え続けるガスを持て余す町。活用策をさぐるなか、エネルギー関係の事業を手がける団体や民間企業から町にある提案がありました。“未利用の天然ガスを次世代エネルギーの「水素」に変えて活用してはどうか”というのです。

豊富町は快諾。団体や企業は、国の交付金を活用して、天然ガスから水素、水素から電気を生み出すモデル事業を行い、その実現性の調査を行うことになりました。

関係者が一堂に会した初会合で、豊富町の河田誠一町長が訴えたのは地域のエネルギーを地域活性化のために使う、“エネルギーの地産地消”の実現です。

豊富町  河田誠一 町長
「貴重なエネルギーを有効活用するために地産地消の事業モデルを構築してほしい。企業誘致や雇用創出という地域振興につながる、よい結果が導かれることを期待しています」


モデル事業の流れです。まずは、天然ガスに含まれるメタンを特殊な機械で水と反応させて水素と二酸化炭素に分離します。水素を一日に2万4000立方メートル製造する一方で、不要な二酸化炭素は「CCS」と呼ばれる技術で地下に封じ込めます。水素は燃料電池に送り、電池で発電した電気を企業などの情報の保管や処理を行うデータセンターに供給。大量の電力が必要になるサーバーの冷却にあてるという構想です。

現在、データセンターの多くは関東や関西に集中していますが、政府は大規模災害に備え、地方への分散を目指していて、各地の自治体が誘致を進めています。

事業の調査を行う団体は、町内の1か所で安定的にエネルギーを生み出せるのが豊富町の強みだと強調しています。

一般財団法人エンジニアリング協会  山口隆志 研究主幹
「エネルギーの地産地消の観点で見ると、豊富温泉1か所ですべてまとまってしまうところが大変珍しく、非常に大きなインパクトがある取り組みだと思います。地元の人たちといろいろ会話をしながら連携を深め、事業を成功させていきたいです」


初会合に出席したエネルギー工学の専門家も期待しています。

東京工業大学  岡崎健 特命教授
「これまで捨てていた天然ガスを利用することで温室効果ガスの削減につながり、さらに、CCS技術で二酸化炭素を地下に封じ込められれば、環境対策でダブルの効果があります。今回の取り組みが成功して、モデルケースとして広がっていくことを期待したいです」


モデル事業はまだ調査段階で、事業化のメドは立っていませんが、豊富町では、エネルギーの地産地消を進め、企業の誘致や雇用の拡大につなげたい考えです。

豊富町商工観光課  菊地昌宏 係長
「いま世界情勢を見てもエネルギーが大変貴重になっています。豊富温泉で産出する天然ガスを使う企業が増えるということは、当然町内で雇用も生まれると思います。貴重なエネルギーを活用して、地域内で経済がうまく循環するようなシステムをつくっていきたいです」


取材後記

豊富温泉と一緒に天然ガスが出ていることは分かっていましたが、その7割が使われずに空気中に放出されていて、さらに、地震の影響で湧きだす量が増え続けていることまでは知りませんでした。ロシアによるウクライナ侵攻もあり、エネルギー問題への関心が高まるなか、エネルギーの地産地消を目指す取り組みは注目を集めそうです。道北地方では、再生可能エネルギーの風力発電の開発も急速に進んでいます。今回の取材で、改めてエネルギーの一大産地としての北海道の可能性を感じました。今後もエネルギー問題をテーマに、各地の動きを追い続けたいと思います。

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