NHK札幌放送局

市役所がアニメを!? 千歳×邪神ちゃん

ほっとニュース ミニ

2019年12月13日(金)午後6時23分 更新

千歳市が、深夜に放送されていたTVアニメ「邪神ちゃんドロップキック」とコラボし、地元を舞台にした特別編を制作すると発表しました。狙いは観光PR。ですがそれだけでなく、ふるさと納税の仕組みに一石を投じ、アニメ制作者にもメリットをもたらす狙いがあるんだとか。一体どういうこと?

きっかけは、観光への危機感

11月、千歳市内の観光地を、東京から来た「邪神ちゃんドロップキック」の制作チームがロケハンに回っていました。

この作品は、主人公の悪魔・邪神ちゃんと、その仲間たちが繰り広げるコメディアニメ。作品の舞台となってきたのは、東京・神保町です。そのキャラクターたちが千歳市にやってきたら、どんなストーリーが作れるのか?観光地を巡りながら、脚本のイメージを膨らませていました。

この企画を考えたのは、千歳市観光企画課の吉見章太郎さん。実は、アニメとは縁もゆかりもなかったそうですが・・・

市観光企画課 吉見章太郎さん
「ひとつひとつのものの形だとか、コップの柄だとかいろんなことに気を遣ってそれを写真におさめていて、記録としてアニメに反映しようとしていて、我々にはこれまでにないはじめての経験で、すごく勉強になったしワクワクしました」

背景にあったのは、観光客の伸び悩みです。
千歳市にある北海道の空の玄関・新千歳空港は、ここ5年で利用者がおよそ21%も増えているのに対し、千歳市自体の観光客の伸びはわずか6%あまり。目の前を観光客が通り過ぎているのに、地元には寄ってもらえていない。それをなんとかして解消できないかと考えていました。

ヒントは娘さんの言葉
アニメ制作を思いつくヒントになったのは、娘さんに言われた一言でした。

「千歳市出身の鈴木愛奈さんが、『ラブライブ!サンシャイン!!』に出ていてすごい人気なんだよ。千歳市も一緒に何かやったほうがいいよ」

実は吉見さん、人気声優の鈴木さんが地元・千歳市出身であることも、全国に応援してくれるファンがいることも、まったく知らなかったそうです。そんな中、昨年、鈴木さんがチームの一員として活躍する声優ユニット「Aquors」が、NHK紅白歌合戦に出場することが判明。これは応援しなければと、急いで、市役所に懸垂幕をかけました。

すると、予想もしなかったことが・・・!

なんとこの懸垂幕を見るために、市役所にファンが訪れるようになったのです。
驚いた吉見さんは、鈴木さんに観光PRの協力をお願い。道の駅にこんなパネルを置くと、さらに新たな波が!

この道の駅に、全国からファンがやってくるようになったのです。お目当ては、このパネルに書かれた鈴木さんの直筆サインでした。ファンならではの圧倒的な熱量と行動力。それが吉見さんを、アニメとのコラボに駆り立てました。鈴木さんが主人公の声を務めるアニメ「邪神ちゃんドロップキック」の制作につながったのです。

制作費はふるさと納税 全国初の“奇策”
問題は予算でした。千歳編として制作するのは、来年春の放送を予定している全12話のうち、最後の1話。それでも制作費は2000万円にのぼります。どうまかなうか?悩んでいたときに思いついたのが、ふるさと納税を活用する方法でした。
近年大ブームとなっているふるさと納税。でも、ある問題が起きているのは皆さんご存じでしょうか?全国の自治体が寄付を集めようと、こぞって豪華な返礼品を用意。返礼品競争のような様相を帯びていったのです。それを問題視した国は、今年6月、新たなルールを設けました。

・返礼品の返礼割合を3割以下とすること
・返礼品を地場産品とすること

どこでも使える商品券や豪華な家電製品を返礼にするなど、過度の取り組みに歯止めをかける狙いでした。
この新しいルールにも対応しながら、制作費を集められるか? そこで吉見さんが、ふるさと納税を担当する伊藤洋明さんとともに考えた仕組みがこちら。

千歳市へのふるさと納税を希望する人は、HPの画面から、お金の使い道として、「アニメ制作」という選択肢を選ぶことが出来ます。そのお金を資金としてアニメを制作し、アニメを収録した非売品の限定版ブルーレイディスクを返礼品として寄付してくれた人に返すという仕組みです。
千歳市を舞台にした特別アニメなら、千歳ならではの「地場産品」と考えられ、金額も3割以下に抑えられる、と吉見さんたちは結論づけました。
いわば、ソフトとしての地場産品、という発想です。

吉見さん
「ファンと一緒に千歳の観光PR動画を作れるので、千歳市民の税金を使わずして、千歳の観光PRができる。ファンの方はじめテレビを見てくれた方が千歳の良さを知ってくれて、訪ねてくれるんじゃないかなって思ってます」

アニメ制作者にも利点が
今回のアニメ制作には、もう一つメリットがありました。アニメ制作側の事情です。
一般社団法人日本映像ソフト協会が発表しているデータによると、アニメ(子供向けのものを除く)のDVDとBD(UHDを含む)の売り上げは、2013年から減少傾向にあり、過去6年間で、およそ47%減少しています。制作費の調達に、制作陣は頭を悩ませています。そんな中、千歳市からのオファーは、制作チームにとって願ってもないものだったと言います。

宣伝プロデューサー 栁瀬一樹さん
「すべてのアニメを作っている人たちがいまアニメは作りたいけれども、ブルーレイもDVDも売れないからお金が稼げない、これじゃアニメが作れないって思っているわけです。その中で邪神ちゃんが見つけた新しい道って言うのは、税金でアニメを作るって言う道で、ふるさと納税を使ってアニメをつくるっていう今まで誰も挑戦したことがない領域に挑戦していきたいなって思っています」 

果たして、ファンの反応は!?
12月2日、ふるさと納税の募集がスタート。私たちは、その2日後の12月4日に市役所を訪ねました。制作費が集まらなければ、アニメ制作は断念することになりますが・・・

わずか2日で、およそ1000万円が集まりました。
その後、さらに寄付額は伸び続け、12月9日時点で5034万円。アニメ制作の2千万円を超えた分は、来年度の観光イベントなどに使う予定だということです。

取材後記:伊澤光之輔(NHK札幌放送局ディレクター) 

と、ここまで至ってマジメに記事を書いてきましたが、実はこの取り組みを取材してみようと思ったきっかけは「なんで『邪神ちゃん』なんだろう?」という疑問からでした。
昨年夏、この作品の第1期を楽しく観ていましたが、「ドラえもん」のような万人がわかるアニメではなかったので…。
そんな思いからこの企画のウラ側を取材したら、ふるさと納税の新しい可能性が見え、驚きました。
これからも各自治体の新しい動きに注目していきます。

2019年12月13日

                         

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