NHK札幌放送局

確認から40年 謎の樹木は新変種だった!

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2022年8月4日(木)午後4時21分 更新

北海道の人里離れた山奥にひっそりとそびえる夕張山地の崕山(きりぎしやま)。聞き慣れないこの山で今年、新たな樹木が見つかりました。およそ40年以上前から存在は知られていたものの、詳しい正体は不明とされてきました。突き止めた専門家は、山の名前にちなんで「キリギシナニワズ」と命名。植物の分類や研究が進んだ現代において、国内で新たな樹木がみつかるのは非常に珍しく、道内ではおよそ90年ぶりの大発見です。(帯広放送局記者 米澤直樹)

入山規制中の高山植物の宝庫

キリギシナニワズが見つかったのは、夕張山地の山奥にある標高1066メートルの「崕山」です。石灰岩の岩肌が南北2キロ以上に渡ってむき出している特異な山容をしています。

空からみた崕山 まるで森の中の城塞だ

道内でこれだけの規模で石灰岩が連なる場所はほかに無く、独特の地質には数々の高山植物が生育していて、およそ350種類が確認されています。そのおよそ1割が、絶滅危惧種に指定されている希少種です。

「キリギシ」の名を冠する3種の植物の1つ「キリギシアズマギク」

しかし、1980年代、国道が整備されアクセスが良くなったことで、登山者が急増。踏み荒らしや、盗掘が相次ぎ、希少種の絶滅が危ぶまれる事態になりました。地元の芦別市などは1999年から入山禁止の措置をとり、今でも規制を続けています。その結果、徐々に植生が回復してきています。現在も、崕山には研究や調査目的以外での入山は制限されていて、芦別市が年に2度募集しているモニター登山を除いて入山することができません。

鋭く尖った石灰岩の岩峰が南北に連なる

40年間、謎に包まれていた樹木

今回新たな樹木として発表された樹木は、崕山の稜上に生えています。実は、40年以上前から存在自体は確認されていました。葉の特徴などから、ジンチョウゲ科の低木「ナニワズ」の仲間だとみられていました。しかし、ナニワズが春になると黄色い花を咲かせる一方、この低木は白い花を咲かせるという明確な違いがありました。当時の知見では細かい分類はできず、図鑑にも「ナニワズに似た不明種」として記載されたまま、時間が経過していきました。

梅沢俊(2012)『北の花名山ガイド』北海道新聞社

10年間、正体追い続け

道総研=道立総合研究機構の新田紀敏専門研究員らの研究グループは、およそ10年前から崕山に通い、この樹木の特定を試みてきました。まず、種が近いとみられる樹木と花の色や葉の形、そして花の開花時期などを比べていきました。しかし、さっそく壁にぶつかったといいます。

道総研林業試験場 新田紀敏専門研究員
「研究は“その植物が何に近いのか”というとっかかりを探るところから始まりますが、見当が付かない状態がずっと続いていました。日本では花が白いナニワズは知られておらず、前に進むことができませんでした」。

およそ2年後、ようやく事態が動き出します。ロシアの植物学者が出版した図鑑に載っていた1枚の写真に、白いナニワズが写っていたのです。新田さんは、図鑑で紹介されていたこの「カムチャツカナニワズ」が崕山の樹木に近いと見当を付けました。2017年8月、新田さんは実際にカムチャツカ半島に調査に向かい、このナニワズの芽や茎の特徴を記録するとともに、現地で多くの標本を調べました。カムチャツカナニワズとの違いを明らかにするには、季節ごとの葉の変化など、より詳細なデータを積み重ねる必要があります。しかし、何度もカムチャツカ半島で調査を行う事は難しく、すぐに結論を出すことはできませんでした。

カムチャツカ半島の湿地帯 提供:道総研林業試験場

斜里町での発見が大きな契機に

こうした中、おととし、大きな契機が訪れました。これまで日本国内には存在しないとされていた「カムチャツカナニワズ」を、新田さんらがオホーツク海側の斜里町内で自生しているのを発見・発表したのです。道内での発見を機に、新田さんはカムチャツカナニワズと崕山の低木を、徹底的に比較できるようになりました。

国内で初めて確認されたカムチャツカナニワズ 提供:道総研林業試験場

ついに変種と判明

その結果、崕山の低木にはカムチャツカナニワズに特徴的な▼地下に長く伸びる茎がないこと、そして▼夏の間も落葉せず、葉をたくさん茂らせることなど、はっきりとした遺伝的な違いがあることを突き止めました。こうした研究結果を論文にまとめ、ことし6月、崕山の低木をカムチャツカナニワズの変種として発表したのです。新田さんらはこの低木を、見つかった崕山にちなんで「キリギシナニワズ」と命名しました。

夏期も葉を生い茂らせるキリギシナニワズ

“小さな違い 積み重ねて”

北海道で新たな樹木が見つかるのは1930年の「アポイカンバ」以来、92年ぶりの出来事です。本格的な研究が始まって10年以上たって正体が明かされたキリギシナニワズですが、新田さんは「決して長い時間ではなかった」と振り返ります。謎を解き明かしたいという探究心が結実した研究結果でした。

常に目的の植物を探しながら歩く新田さん

道総研林業試験場 新田紀敏専門研究員

「1つ1つの違いっていうのは非常に細かくて、詳しく、長く見ていないと分からないものでしたが、それをいくつか積み重ねることができたので発表に至ることができました。北海道とか日本では、こういう発見は今後もそれほどないのではないか、歴史的な発見だったのではないかと思います。そして、植物に自分で名前を付けることができるというのは非常に貴重な体験だったなと思います」。

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