ディレクターが地域に滞在して「宝」を探す新番組「ローカルフレンズ滞在記」。4月の舞台は、宗谷地方です。第2週目は、利尻で春を見つめる親子とのあたたかい出会いがありました(越村D)
利尻にいっておいで
ディレクターが1か月、北海道のどこかに滞在するこの番組。地域の魅力を伝えたいとNHKに応募してくれた人を“ローカルフレンズ”と呼び、ディレクターは、そのディープな人脈をたよりに、さまざまな人と出会い、その地域ならではの暮らしを体感していきます。今回は稚内でゲストハウスを営むローカルフレンズ・尾崎篤志さん(尾崎さんについてはこちら)のもとに拠点を置いて、宗谷地方に滞在しています。4月1日の放送でアンケートをとった結果、次の行き先は利尻になりました。
越村「尾崎さん、利尻ってどんなところなんでしょうか?」
尾崎さん「面白い人がたくさんいるよ。次の放送まで帰ってこなくていいからいっておいで」

ということで、滞在8日目にフェリーにのり、利尻島へと向いました。1時間40分ほどかかりますが、だんだん近づく利尻山の景色にみとれているとあっという間に感じます。実は、尾崎さんから紹介してもらった人とは、フェリーのなかで待ち合わせしました。なんでも、直前まで稚内に出かけていらっしゃったので、同じフェリーで利尻に戻るところだったとのこと。

髙橋哲也さん(43)
利尻生まれ利尻育ち 島で商店や日本酒バーを営むかたわら、まちづくり団体の代表なども務める
フェリーを下りたあと、髙橋さんが車で島を案内してくれました。髙橋さんは、島で100年以上続く商店の店主をしています。売っているのは、酒や土産物、つり具、家電など多岐にわたります。さらに、小売だけでなく、電気工事のお仕事もされていて、町の“頼れる兄貴”といった風格を感じます。
髙橋さん「尾崎さんにバトン渡してもらったからにはちゃんと島を知ってもらわないとな!」
髙橋さんとローカルフレンズである尾崎さんとが知り合ったきっかけは、町づくりだったといいます。髙橋さんは、利尻で町づくりイベントを企画する際に、稚内で同じような活動をしていた尾崎さんによく相談していました。そして、髙橋さんは、ここ数年で次々と新たな挑戦にうってでています。

上の写真は、髙橋さんが3年前にプロデュースした日本酒「麗峰の雫」です。高橋さんを含めた、利尻町、利尻富士町、礼文町にある商店などが連携して生み出したもので、島の南西でわく「麗峰湧水(れいほうゆうすい)」から水をくみとり、倶知安町にある酒造会社に運んで作っています。

さらに、同じ年には「銘酒BAR Tecchi」をオープンしました。オシャレな店内には、100インチのスクリーンがあって、利尻島で撮影された映像などを楽しむことができます。観光客と地元の人がこのお店で語らいあう光景も珍しくないそうです。居心地が良い場所なのに、閉店は23時と少し早めに設定しています。なぜなのか、聞いてみました。
髙橋さん「ここで飲んだあと、他のお店に誘導できればと思ってね。助け合っていかないと」
ほかにも、バーでだす食べ物を島内の他のお店からデリバリーで頼める仕組みを取り入れたりするなど、エリア全体で、どう相乗効果をだしていけるかを考えつづけているといいます。
髙橋さん「島を盛り上げていくってことは一人ではできないことだからさ。一人でも仲間を増やしていきたいよね」
春を見つめる親子
利尻といえば、ウニやコンブといったように夏を連想する方が多いのではないでしょうか。事実、僕もそうです。そんな僕に対して、高橋さんが“利尻の春”に詳しい人がいると、ある人を紹介してくださいました。フェリーターミナルの近くでゲストハウスを営んでいるということで、翌日会いにいきました。

西島徹さん(51)
福岡県出身 2004年に利尻に移住し、ゲストハウスを営むかたわら、ネイチャーガイドとして活動する
西島さんは、冬季休業をへて4月下旬からゲストハウスを再開させる準備の真っ最中。話を聞いていくと、いまならではの利尻の楽しみ方があるといいます。西島さんはなにやら荷物をもって、港にむかっていきます。
西島徹さん「僕が一番すきな季節は春ですね。春のよさを味わうとっておきの方法があるんで教えます」
岸壁に到着した西島さんが取り出したのは、キャンプ用の椅子とマグカップ。なんでも、何もせずただ座って景色を眺める“チェアリング”が、春の贅沢な楽しみ方だといいます。さっそく僕も試してみました。その眺めがこちらです!

西島徹さん「春の利尻山は、雪解けが進んで緑に見える部分と残雪の白い部分とのコントラストが美しいです。住んでみて、春もいいなと気づきました」
徹さんと一緒にチェアリングをすすめてくれた人がもう一人います。徹さんの長男・一樹さんです。

西島一樹さん(13)
利尻生まれ利尻育ちの中学2年生 愛用のカメラで利尻の野鳥を写真におさめるのが趣味
一樹さんの趣味は、野鳥の写真をとること。利尻には、数百種類の野鳥がいて、季節ごとに見ることができる鳥の種類が変わっていくので、飽きないといいます。島の鳥について、話を聞いていると、一樹さんがこんなことを言ってくれました。
西島一樹さん「森のなかではクマゲラが見れることもありますよ!」
さっそくクマゲラがいる森に案内してもらいました。夏はササが生い茂って入っていけない場所でも、早春であればスノーシューをはいて散策することができます。冬に比べると気温が高く、薄手の上着だけで心地良く感じました。

しばらく歩くと、突如、徹さんが上空を指さしました。
「コロコロコロ♪」
クマゲラの鳴き声です。僕には“コロコロ”あるいは“ピロピロ”というふうに聞こえました。一樹さんが双眼鏡をのぞきながら、必死にクマゲラがとまっている箇所を教えてくれましたが、残念ながら映像でとらえることはできません。ということで、ゲストハウスに戻ってから、一樹さんが以前撮ったクマゲラの写真を見せてもらいました。

これはクマゲラのメスが、巣のなかにいるひなに食べものを与えようとしている瞬間をとらえたもの。警戒心を与えないように離れたところから観察しながら、シャッターチャンスを狙います。一樹さんは、ゲストハウスに泊まりにくる客に、こうした利尻の魅力をたくさん伝えているといいます。
楽しいから伝える
翌日、一樹さんがいつも野鳥を撮影しているスポットがあるということで、徹さんの運転で連れていってもらいました。すると、島の南側で思わぬ“春の訪れ”に出会うことができました。海岸に近寄ってみると、そこにはなんと大量の卵が!

これはニシンの卵。前日の利尻島では、ニシンの産卵のために海が白く濁る「群来(くき)」が観測されていました。群来を見たことがあった西島さんでも、卵が海岸におしよせているのは初めて見る光景だといいます。
西島徹さん「ニシンの別名は“春告魚”(はるつげうお)。春ならではですね」
さらに車を走らせると、いよいよ一樹さんイチオシの撮影スポットです。お目当ての鳥はこちら。

ウミネコです。利尻島は国内有数の繁殖地となっていて、春をむかえるこの時期、南から利尻島にわたってきます。西島さん親子は、それぞれファインダーを覗き、島の春をきりとっていました。ゲストハウスに戻ったあと、お二人に利尻の魅力を伝えていくことについて、話を聞いてみました。
西島徹さん「住んでいるからこそ気づけることが利尻ではたくさんあります。ただ、その魅力を伝えるためには、観光客のような新鮮な目線を持ち続けるのが大切だと思っています」
西島一樹さん「難しいことは考えたことないです。自分が好きな鳥のことや利尻のことを人に教えるのが楽しいからやっているって感じかな」

利尻の西の端にできた新スポット
西島さん親子を紹介してくださった髙橋さんからは、もう一人素敵な方をご紹介してもらいました。利尻島の西端に位置する沓形岬(くつがたみさき)でお店を営んでいる張間さんです。

張間綾さん
函館出身 去年沓形岬に「CHICO GARAGE」をオープン
張間さんは沓形フェリーターミナルのすぐ近くにお店を去年オープンさせました。お店では、カフェとしてゆったり過ごすこともできれば、張間さんが仕入れた雑貨や輸入菓子を買うこともできます。なかには、張間さんみずからデザインした雑貨もあります。

写真左上は利尻の海でとれる銀杏草(利尻では“みみこ”と呼ばれる)をあしらったポーチ、右側は同じく利尻でとれるエゾメバル(利尻では“がや”と呼ばれる)のイラストがはいったバッグです。どちらも、主に家庭料理でふるまわれるもので、観光客の目にふれることは多くないといいます。張間さんは、そういった地元では“あたり前”のものにこそ光を当てたいと考えています。
張間さん「観光客ももちろんですけど、地元の人にも普段使いしてもらいたいなとも思っています」
張間さんは、冒頭でご紹介した髙橋さんにもTシャツをデザインしてあげたとこのことで、髙橋さんは日本酒バーの店頭にたつ時に、そのTシャツを着ているそうです。逆に、張間さんのお店には、髙橋さんがプロデュースした日本酒が置いてありました。「島を盛り上げていくことは一人ではできない」という髙橋さんの言葉の意味を垣間見た気がしました。
昔からあるわき水を日本酒へ、風景を春の魅力に、あたり前の海の幸をデザインに。地域の姿は、とらえ方一つで違って見えてくるのかもしれません。そんなことを思い、滞在12日目を迎えています。
第2回放送は 4月8日(木)午後6:10~
「ほっとニュース北海道」

2021年4月8日