NHK札幌放送局

“孤独に寄り添う”小樽のシンガーソングライター

ほっとニュースweb

2022年8月26日(金)午後7時44分 更新

「ひとりじゃないとか、寄り添うからとか、そんな言葉すら聞きたくないときに音楽でそっと心に忍び込んで一緒にいたいなって」

札幌市出身のシンガーソングライター花男さん(はなお)、43歳。
 小樽を拠点に活動し、これまでにCD23枚を制作しています。

 花男さんが目指すのは、“孤独を感じる人に寄り添う”音楽です。 誰もが感じたことのある孤独な瞬間に同じ目線でいてくれる。そっとそばにいてくれるような温かい歌詞とメロディーで人々の心に響かせます。 

「家のスピーカーの中 君のヘッドフォンの中 会いたいときにいつでも呼べよ
待ち合わせ場所は君の胸の中 ドーナツ一つ食べながら 
キミのためだけのライブをしよう」          SOUNDONUT/花男

“音楽で孤独にそっと寄り添いたい”思いの裏にある辛い経験

(メジャーバンド時代にライブで歌う花男さん)

花男さんは25歳のとき、バンドのボーカルとして東京でメジャーデビューを果たし、一度は夢を叶えました。10代、20代に向けて歌っていましたが、自分たちが歳を重ねるにつれ、若い人に受け入れられるような曲を作れなくなっていったといいます。

37歳の頃には、バンドが活動休止。子どもが生まれたこともあり、音楽の道を諦め就職すべきか、独り、孤独に悩んだといいます。

花男さん
「メンバーが抜けたり、曲作りでうまくいかなかったりが続いて。それでも何とか続けたんですけど、CDの売り上げ枚数が減ってきたタイミングでレコード会社との契約がなくなって。よくいえばフリー、わかりやすくいえば戦力外通告を受けたのが30歳前半、気がつけばずっと100メートルダッシュしてみたい感じで心もちょっと疲れてしまって。」

悩む花男さんを支えた周りの人たちの温かさ

子育てのため、妻の出身地である小樽に移住。音楽をやめて就職するか悩んでいた時に
“やれるところまで歌ってみれば?”という妻の言葉に背中を押されます。1人で音楽活動を再開した後も小樽の仲間たちが支えてくれました。花男さんを音楽の道に引き戻したのは、温かい周りの人たちの存在でした。

かつての自分のように孤独を抱える誰かの支えになりたい。

花男さん
「バンドを休止したことを『みっともねぇなぁ』とか『元バンドマンがソロで活動してる』って見られ方するのがすげー悔しかった。でもずっとうまくいってる人にはできないことなんじゃないかなぁって思って。キラキラ輝いてる歌は聴けないけど花男みたいなどろんこだらけの歌は音楽を聴けるなぁと。」

ソロ活動を本格化させた矢先、新型コロナが流行

2016年、花男さんはソロ活動を再開。孤独を感じている人にそっと寄り添いたいと日本全国どこへでもギターとスピーカーを持って出向き、時には居酒屋で、時には美容室でライブを行ってきました。

しかし、新型コロナウイルスの流行により、花男さんはライブ活動を制限せざるを得なくなってしまいます。

コロナ禍でも小樽から何かできることはないか。悩んだ末に始めたのがインターネットでの配信ライブでした。

毎月2回、47都道府県をテーマに、日本全国にいる人たちの心にそっと寄り添いたいと小樽から配信ライブをスタート。2020年から2年間、このライブに全力を注いできました。

花男さんの配信ライブは、まるで観客がそこにいるかのように「○○さん、ありがとー!仕事お疲れー!」とオンラインで参加してくれた、ひとりひとりに丁寧に呼びかけます。「拍手や歓声はなくても、コメント欄を通じて観客の風景が伝わってくる」配信ライブには配信ライブの良さがあったといいます。

待望の有観客ライブを開催

7月30日。47都道府県すべてで配信ライブを終えた花男さんは、2年半ぶりに有観客ライブを開催。これまでも有観客ライブへの出演を依頼されたことはありましたが、コロナ禍以降、最初に人前で歌うのは配信ライブを見てくれていたお客さんたちの前、そして自身にとって第2の出発点、小樽で、そう心に決めていたといいます。

「少しでも温もりを感じてほしい」
ライブ会場の設営も手作りにこだわります。家族や周りの仲間の手を借りながら作り上げます。

花男さんからお客さんへ。私たち取材陣にまで、ひとりひとり、丁寧に直筆のメッセージが添えられます。

さらにはトイレにも。ライブ中、ふとひとりになる瞬間にもそっと寄り添いたいと、メッセージを添えました。

午後5時。ライブが始まりました。
お客さんや関係者には抗原検査キットを事前に配布し、検査をした上で参加。宮崎県や愛知県など全国から約30人が集まりました。

それぞれの胸にはチャット欄で使われていたハンドルネームが書かれたワッペン。これまで花男さんも、お客さん同士も、お互い文字でしか知らなかった人たちの名前と顔が一致し始めます。

花男さん
「人生で一番胸がいっぱいなライブです。小樽までありがとうございます本当に。みんなの顔を見てると泣きそうになる。。。。配信見てくれてる皆もありがとねー!」
「最高でした。」
「初めて生で花男くんの声を聞けて感動です」。
「曲の中にあるたくさんの人に届ける曲っていうよりもたったひとりの誰かに向けて作ってるっていうのが誰かの何かに刺さってる、そんなところが花男くんの音楽の魅力です」
「ずっとそばにいてくれるような、元気がない時とかも曲を聴いていろいろ頑張ろうって思える」
「涙流してる方とかゲラゲラ笑ってる人とか何もかも忘れてその瞬間を楽しんでくれてる顔がうれしかった。格好悪い気持ちとか弱い気持ちをこそっと持ってる人はたくさんいると思うんですけど、俺の歌で人生がちょっと温かくなったりふんばれたりする人がいるなら、転がり続けていくしかねーなって」

お客さんに会えるのが夢みたいと話してくれた花男さん。ライブ会場には、たくさんの手書きのメッセージやお客さんひとりひとりにあてた手紙など、花男さんの届けたい思いがたくさんちりばめられていました。その場にいた小樽の仲間やお客さんたちと花男さんが作り上げる空間には、“自分のちょっと弱い部分のそばにそっといてくれる”そんな温かさがありました。取材をしていて、花男さんの音楽は、メジャーでの活動や小樽、これまでに出会った人達などさまざまな経験や思いが詰まっていて、それがたくさんの人に影響をもたらしているのだと気づかされました。毎日を過ごす中でふと感じる“ひとり”の時間。そんな時間にそっと忍び込んでそばにいてくれる、そんな音楽をこれからも届け続けてほしいと思います。

「会いたいときにいつでも呼べよ 待ち合わせ場所は君の胸の中 君のためだけのライブをしよう」

(札幌局 三砂安純)

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