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WEBニュース特集 “さよなら”地球岬の毒まんじゅう

北海道WEBニュース特集

2020年10月12日(月)午後2時11分 更新

「ど、毒まんじゅう!?」 9月に室蘭放送局に赴任したばかりの私は、いきなり衝撃を受けました。地元の観光名所を見ておこうと訪れた地球岬で偶然目にしたそのお土産は、雄大な景色と全くマッチしませんでした。
しかし、インパクト十分の名前と怪しげなパッケージにひかれ、私はつい、手を伸ばしてしまったのです。そして、この「毒まんじゅう」がまもなく販売を終了することを知らされ、取材を始めました。
(取材:篁慶一)

遊び心から生まれた「毒まんじゅう」

太平洋を一望できる地球岬には、自然が織りなす絶景を一目見ようと、昨年度は27万人余りが訪れました。今から28年前、この地で「毒まんじゅう」(正式名称は「炎の毒まんじゅう」)は誕生しました。
箱の中には一見ごく普通のまんじゅうが6個入っています。しかし、実は1個だけ、とうがらしが練り込まれています。そう、いわばまんじゅうのロシアンルーレット。味だけでなく、スリルも楽しめるのです。

この「毒まんじゅう」を考案したのは、地球岬の駐車場の隣で唯一の土産物店を営んできた品田徹さん(79)です。昭和60年に岬の展望台が整備されたあと、それまで経営してきた電器店をやめて、土産物の販売を始めました。

店の看板商品を作ろうと考え抜いた末にたどりついたのが、この思いもよらない商品だったのです。品田さんは開発の経緯をこう明かしてくれました。

「私の子どもの時からのいたずら好きがここまで来てしまいました。どうせならインパクトあるお土産を作りたいなと考え、練りに練ってできた商品なんです」

“広告なし”でヒット商品に

品田さんの狙いは大当たり。毒まんじゅうに広告費は一切使っていないそうですが、メディアに取り上げられ、すぐに店一番の人気商品になったのです。
私が取材をしていた日も、ツアーバスで地球岬を訪れた関西からの観光客が次々と買い求めていました。

大阪から訪れた男性
「『毒』でなかったら買わへん。普通のまんじゅうやったらどこでも売ってるやん。毒まんじゅうやと楽しくなるな」

毒まんじゅうを買ったあと、店の前でグループで食べる光景もおなじみだそうです。奈良から訪れた家族5人は別のツアー客を強引に巻き込み、6人で一斉にパクり。当たったのは、お父さんでした。

「辛い~」と思わず声を上げてもん絶し、子どもたちに笑われている姿を見て、取材中の私も思わず笑いがこみ上げてきました。

地球岬への強い愛情

ヒット商品になった「毒まんじゅう」は、デパートの物産展や駅の土産物店などへの出品も求められましたが、品田さんはすべて断ってきたと言います。それは、できるだけの多くの人に地球岬を訪れてほしいという強い思いからでした。
地球岬のそばで生まれ育ち、子どもの頃は虫取りなどをして遊んでいた品田さんにとって、地球岬はふるさと同然です。

「観光客に『こんないいところがあったんですか』って、結構言われるんです。そういうの聞いているとうれしいです。さも自分の持ち物がほめられたような感じがします」

インタビューの間、品田さんは短い言葉で淡々と答えることが多かったのですが、地球岬の魅力を訪ねると、とたんに言葉があふれてきたことが強く印象に残りました。

「暖かくなってくるとイルカが肉眼で見えて、秋口になってくると視界が開けて青森県の下北半島が見える日もあります。吹雪のあとの雪景色も美しいんです。毎日風景が変わるので、見飽きることはありません」

熱く語る品田さんに、地球岬に対する強い愛情を感じました。

コロナが追い打ち 10月末で閉店へ

しかし、品田さんは10月で店を閉じることにしました。80歳を前に体力の衰えを感じていたので、閉店は前々から念頭にあったと言います。そこに新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけたのです。
ことしの春先には地球岬が閉鎖され、土産物店も2か月間の休業を余儀なくされました。「これ以上、気力が続かなくなったんです」と品田さんは少し寂しそうにつぶやきました。

9月下旬に閉店を知らせる張り紙を店に出すと、「毒まんじゅう」を買い求める人が次々と訪れ、「今までお疲れさまでした」と品田さんに声をかけていました。10月前半までは持つだろうと思って準備した在庫も、9月28日にはやばやと無くなってしまいました。

最後の「毒まんじゅう」を手にしたのは、札幌から車で訪れた観光客でした。何度も道を間違えながらも、どうにか地球岬にたどり着いたそうです。「間に合ってよかった」と安どの表情を見せつつも、「名物が無くなってしまうので、寂しくなりますね」と話していました。

「毒まんじゅう」が完売したあと、品田さんに思いを尋ねると、こう答えてくれました。

「寂しいようなありがたいような気持ちです。ここまで皆さんに愛され、商売を続けられたのだから、店を閉じることに未練はありません。地球岬が今以上にお客さんに好かれて、たくさんの方に来ていただければありがたいです」

毒まんじゅうが残した思いは

実は土産物店の閉店を知り、業者から「毒まんじゅう」の販売を引き継ぎたいという話もあったそうですが、品田さんは断ったと話していました。地球岬でしか買えないことに意味があり、自分で区切りを付けたいと考えたからです。
室蘭名物とも言えるお土産が姿を消すことは残念ですが、品田さんが「毒まんじゅう」に練り込んだ地球岬への強い愛情は、多くの観光客にしっかり伝わっているように思います。

(室蘭放送局・篁慶一 2020年10月8日放送)

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