バドミントンを“町技”とする北海道の小さな町・白糠町に将来有望な小学生がいます。
小学6年生の松下一誠選手。おととしと去年、小学生の大会で2度の全国制覇を果たしたトップクラスの腕前を持っています。去年の暮れ、小学生最後となる全国大会に臨んだ松下選手を追いました。
(釧路局記者 島中俊輔)
“負けず嫌い”
得意技は1メートル62センチの体から放たれるジャンプスマッシュ。松下選手は姉の影響で小学1年生から本格的にバドミントンを始めました。
「めっちゃ負けず嫌いなんです」。そう語る松下選手はバドミントンを始めたばかりの頃行っていた家族内大会で、両親、姉に次いで、いつも最下位だったと言います。
松下一誠選手
「小さい頃からお姉ちゃんとバドミントンをしていて、ずっと勝てずに怒っていました。それで負けず嫌いになったと思います」

実力開花のきっかけは
負けず嫌いの松下選手。その実力が一気に開花するきっかけとなったのが、1人のコーチの存在です。バドミントンの強豪国インドネシア出身のマデ・チャンドラ・ベラタさん。選手としても活躍し、カンボジアでナショナルコーチを務めるなど指導経験も豊富です。
チャンドラさんを招へいしたのは町です。人口8000人の白糠町はバドミントンを“町技”に位置づけ、競技レベルの向上と普及に繋げようとスポーツ国際交流員として招きました。

チャンドラさんの指導を受け始めて1年あまりのおととし12月。松下選手は全国小学生バドミントン選手権大会(小学5年生以下・男子の部シングルス)で初優勝。去年8月には全国小学生ABCバドミントン大会(小学5、6年生・男子の部シングルス)でも優勝を果たしました。
連覇に向けて二人三脚
松下選手は小学校最後の大会となる「全国小学生バドミントン選手権大会」(去年12月)での連覇を目標に、チャンドラさんと練習に励んできました。チャンドラさんは片言の日本語や英語を交えながら厳しく指導。特に強化を進めていたのが、相手のシャトルを素早く打ち返す“速攻”です。松下選手が得意とする攻撃を伸ばすために、打ち返すタイミングを意識させながら、パターン練習を繰り返します。
自宅に帰ったあとには去年夏から取り組んでいるバイクもこなします。チャンドラさんから言われた1分間全力でこぐことを20回繰り返すという厳しいメニューをこなし、松下選手も手応えを感じていました。
松下一誠選手
「チャンドラさんの練習内容は厳しいですけど、笑って楽しく教えてくれて教え方が上手です。パワーと攻めが伸びたと思います」
コーチ・チャンドラさん
「一誠は本当にうまくなっています。特にパワーがついたし、スピードも増しました。いい質のトレーニングができているので優勝するチャンスはあると思います」

最後の全国大会は…
期待を背負って臨んだ去年12月の全国小学生バドミントン選手権大会(石川県金沢市)。連覇を目指す松下選手は、順当に2つ勝ち進んで準々決勝を迎えます。
相手は同世代「最大のライバル」の愛媛の選手です。チャンドラさんとの練習で磨いた“速攻”を生かしてポイントを重ね、最初のセットを取りました。2セット目は体育館の風の影響もあり、うまく得点を伸ばせず落とします。
互いに1セットずつをとった最終3セット目。最初にマッチポイントを握ったのは松下選手でした。相手のショットがネットにひっかかり、一瞬勝ったかと思いました。しかし、シャトルは自陣コートに入っていて相手ポイントの判定。アンラッキーな形で追いつかれてしまいます。「崩れたというか、弱気な気持ちになってしまった」。これで集中力が途切れてしまった松下選手はデュースの末に敗れ、ベスト8で敗退しました。コートに突っ伏し、涙を浮かべました。
松下一誠選手
「相手はスマッシュのコースがよくて、あと緊張せずに落ち着いてプレーしていたと思います。いい試合はしたと思うんですけど、2連覇を目指してたのでとても悔しいです」
コーチ・チャンドラさん
「2セット目はちょっとミスが多かった。試合はときどき勝つし、ときどき負ける。良い経験になった」

“負けない1年に”
年が明けた2023年1月。地元・白糠町のコートに松下選手の姿がありました。ことし中学生となる“負けず嫌い”な松下選手。悔しい経験をバネに精神面を鍛え、日本一奪還を誓います。
松下一誠選手
「負けてしまったんですけど、次に繋がるようにたくさん練習して負けない年にしたいです。これからは全中でしっかり優勝して、インターハイも優勝して、全日本総合選手権でも優勝できるようになって、将来はオリンピックで金メダルを獲りたいです」

取材後記
松下選手はことし中学生になりますが、チャンドラさんがいる白糠町で強化を続けることにしています。町の人たちは松下選手の活躍を暖かく見守っています。去年8月に全国優勝した際の凱旋パレードでは、町民たちが総出で喜ぶ姿があり、スポーツの価値を感じました。去年暮れの全国大会では残念ながら負けてしまいましたが、今回の負けを糧にさらに実力を伸ばしてくれると信じています。小さな町から出た松下選手が、将来オリンピックという大舞台で表彰台に立つ姿を見るのが楽しみです。

2022年1月13日
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