全国的に深刻な問題となっている子どもを取り巻くいじめ。旭川市では、ことし3月、雪の積もった公園で、当時中学2年生だった廣瀬爽彩さんが亡くなっているのが見つかりました。現在、市の教育委員会は背景にいじめがなかったか、第三者委員会による調査を進めています。
子どもの命どう守る?
いじめを抑止し、子どもたちの命をどう守ればいいのか。旭川市の教育現場や行政では、日々模索が続いています。その中で、旭川市の今津寛介市長は、行政の立場からもいじめ対策に乗り出そうと、ある自治体へ視察に行くことを決めました。

いじめ対策の専門集団“監察課”
大阪府の寝屋川市です。寝屋川市ではおととし、行政の立場からいじめ対策を行う「監察課」を設置しました。教育現場だけにいじめ対応を任せず、行政の立場から積極的に相談を受け付け、調査を行っています。そして、教育現場へ、加害児童・生徒の出席停止などの「勧告」を行う権限も持ち、これまでの教育現場の対策と並行して、いじめにアプローチしています。

行政だけでは動けない…?
監察課設置までには、大きな壁もありました。それが、「教育の独立性」です。地方教育行政法では、教育委員会は自治体の首長からの独立性を担保するべきと定められています。しかし、寝屋川市の広瀬市長は、教育現場からのアプローチだけでは、いじめが起きた際、子どもを丁寧に指導しようとするがゆえ、適切な報告が遅れてしまったり、深刻化してしまったりする可能性があると判断。そこで、市の教育長や議会に理解を求め、おととし、いじめ防止に関する新たな条例を制定。この条例に基づき、今の監察課ができあがったのです。
相談受け付け、即対応
いじめの問題を、学校現場だけの問題としてではなく、市民の「人権問題」として捉えた寝屋川市。監察課には、生活保護を担当してきたケースワーカーや弁護士資格を持つ人などを配置し、直接、対応にあたります。

電話での相談受け付けに加え、月に1度、市内の小中学校に向けてチラシを配布。このチラシは、折り目の通り切ると、宛先を書いたり、切手を貼ったりする必要がなく、子どもでも簡単に自分で出すことのできる“助けを求める手紙”になるのです。

監察課の取り組みは徐々に浸透し、昨年度は69件だった相談件数が、今年度は11月末時点で91件に上っています。受け付けた相談に対しては、原則その日のうちに学校と連絡を取るなど、スピード重視で対応にあたります。
スピード感に驚き…実際に相談した親子は
実際に監察課に相談し、救われた親子がいます。寝屋川市在住の、小学1年生の娘とその母親です。ことし9月、学校のトイレで同級生からドアをたたかれたり、嫌なことを言われたりしたという娘は、大きなショックを受けて帰ってきました。そのことを打ち明けられた母親は、「担任に、なんとかしてほしいと頼むほどのことなのか…」と悩んだといいます。そこで、娘の気持ちの整理が付くのであればと、選んだのが、毎月学校で配られていた相談チラシでした。娘自身が悩みを綴り、自分の意思で送ることを決めました。そして、数日後、監察課の職員2人が学校に訪れ、関係者に聞き取りを行い、その後、相手の子や担任と話し合った結果、トラブルは解決に向かったそうです。

相談した母親
「誰でも体験するような本当に小さなことで、市の職員さんに2人も来ていただき、何より迅速に対応してもらい驚きました。子どもを学校に行かせている親としては、心強いです」
誰かが味方になってくれる環境づくりを
寝屋川市の広瀬市長は、子育てのしやすい町を目指し、深刻ないじめ問題が起きる前に、制度の充実を図りました。その結果、「何かあれば監察課がすぐ動く」という意識が、いじめの抑止にもつながっているといいます。

広瀬慶輔 市長
「行政と教育委員会、制度上の壁はあるが、子どもたちにとってそれは関係ない。両方のアプローチで、被害者といわれる子ども、加害者といわれる子ども、どちらにも、『必ず誰かが自分に寄り添ってくれるんだ』と認識してもらいたい。そのような関係性を市民のみなさんや子どもたちと、つくっていくべきだと思います」
旭川市では、こうした寝屋川市などの先進的な自治体の取り組みを参考にしようと、市長自ら現地に視察に行くほか、今後、いじめ防止に関する条例の制定も目指しています。寝屋川市が、深刻な問題が起きる前、いわば「平常時」から対策を進めてきたことは、どこの自治体にとっても参考になるのではないでしょうか。
2021年12月21日 内匠彩果
道北とオホーツクのニュースをまるっとお届け
「道北・オホーツク スペシャル」
旭川局ニュースは
「道北チャンネル」!
北見局のニュースは
「オホーツクチャンネル」!