NHK札幌放送局

サケ日本一のまち 斜里町で web前編

0755DDチャンネル

2020年10月10日(土)午後3時00分 更新

北海道の各地から、「サケが不漁」の声が聞こえてくるなか、サケの漁獲量日本一のまち、斜里町の漁師たちは、海だけではなく、川に目を向けていました。彼らが目指すのは、ふ化放流に加えて、川で自然産卵するサケ・カラフトマスを増やすことでした。【web前編】
初回放送:2020年10月10日(土)あさ7時55分~
※web版動画掲載しました。

斜里漁港の午前7時

知床世界自然遺産のまち斜里町は、サケ日本一のまち。9月、知床連山が朝焼けの空に浮かび上がるなか、斜里川の河口わきにある漁港から、漁船が次々に出港していく。それぞれ、沿岸にしかけてある定置網に向かうためだ。

斜里漁港でのサケの水揚げは、午前7時から。
クレーンがついた独特の定置網漁船が作業用の小船を曳航しながら岸壁の2か所に交互に着岸。長い柄で操る大きな網を使って、船倉からサケをすくいあげていく。
サケを仕分け用の台に下ろす人、サケを仕分けする人、フォークリフトで魚が入った箱を運ぶ人。それぞれが持ち場で、忙しなく動き回る。1日でもっとも忙しい時間を迎えていた。

ひとつだけ違うスロープ

仕分け台には、サケをオス・メスや傷のあるなしで分けるスロープがついているが、ひとつだけ、サケ以外の魚がすべってくるスロープがある。
滑ってくるのはブリ。かつて定置網にかかることがなかった”暖かい海”のブリが、いま知床の海でとれている。
こうした”異変”とともに、斜里町のサケの漁獲量は、減少してきた。2019年の漁獲量は7,860t。17年連続で日本一となったものの、1万トンを割り込むのは1992年以来のこと。現場には危機感が広がっている。

「この地区だけでなく、北海道全体で減っているんで…。いままで通りで大丈夫でない状況。何かできることをやらなければいけない」

若手サケ漁師 川を行く

7月、オホーツク海の浜辺から6キロ内陸の河畔林脇に、若手サケ漁師たちが集まった。手には、スコップとのこぎり。斜里町にある2つの漁協、斜里第一漁協とウトロ漁協の青年部と組合職員、それに町の水産担当者たちだ。
準備が整うと、彼らはイタドリの切れ目から土手を降りて川へ。幅数メートル、膝くらいの深さの流れを歩き出した。水産関係者が「陸」にやってきた目的は、魚道のメンテナンスだ。

この川は、1.4kmの区間に11基の魚道が設置されている。魚道は、箱状のコンクリートの両脇の窪んだ場所から水が流れる構造。その窪みに枝や土砂が溜まるとサケやカラフトマスはそれ以上、上流にのぼることが出来なくなる。

若者たちは、つまった場所を見つけるたびに、スコップで土砂を掻き出していく。倒木をのこぎりで切って運び出し、魚の通り道を確保していく。漁協青年部の若者に聞いてみると…

「これで少しでも魚が上流の産卵場所に向かってくれれば、がんばった甲斐があります」

目的は明確だ。

魚道に必要なメンテナンス

魚道の中には、底付近で穴があいて水が抜けてしまっている場所もある。同行していた町の水産林務課の担当者は、持ってきた木の合板をコンクリートのきわにそって差し込み、穴をふさいだ。みるみる水位が上がって「通路」は復活した。

「このタイプの魚道は2年に一回くらい、メンテナンスする必要があります」

ふ化放流と自然産卵と

サケやカラフトマスの資源の減少にどう立ち向かうのか。水産庁が進める「浜の活力再生プラン」を、斜里町にある2つの漁協と町が策定している。その基本方針の最初の方に書かれているのは—

  • サケマスふ化増殖事業の安定化
  • 海域や河川の環境保全とサケマス⾃然産卵環境の再⽣

これまでの、ふ化放流事業の強化に加えて、川での自然産卵についても目を向けている。

帰ってくるサケにしめる自然産卵由来のものは、2割から3割と見られている。これを少しでも増やすためには、川の環境を再生させて自然産卵できる場所を増やすこと。そして多様な場所で産卵することになれば、遺伝的健全性を確保することにもつながるという狙いがある。

斜里第一漁協 馬場組合長
「サケ漁は我々の代で終わることはない。将来のことを考えていかなければならない。ふ化放流を含めて、自然産卵を含めて、取り組んでいくことが大事。斜里町でのサケの漁獲量は、全道から見ればまだいい方。恵まれている中でしっかり考えていかなければ」

【サケをテーマに特別展開催】
斜里漁港にほど近い斜里町立知床博物館では、10月7日から12月20日までの日程で、「サケと川と人と」題した特別展が開かれている。オスとメスが並んで砂利のくぼみに卵を産みつける産卵行動をジオラマや映像で紹介。町内の川に住むサケ科の魚類たちの展示や、アイヌ文化とサケをテーマにした資料も紹介している。

11月8日には、ゆめホール知床を会場に、「サケの現在と未来 〜今私たちにできること〜」と題した特別講演会も開催。サケ研究、ふ化放流事業、行政の、それぞれの現場の第一線の担当者が、最新の知見や事例を紹介、これからのサケとの付き合い方を考える。

2020年10月10日

後編に続く

後編では4年前に始まった斜里町内のサケマス産卵環境調査と、その結果、漁業者たちが出した要望を受けて網走南部森林管理署が進めている魚道づくり。さらに、ポータブル魚道を研究開発している香川高等専門学校の高橋研究室と斜里町の取り組みをお伝えします。

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