農作物を食い荒らしたり交通事故を起こしたりとエゾシカによる被害は後を絶ちません。シカの駆除も進んではいますが、そのほとんどは廃棄物として処分されています。そんなシカの命を「余さず活用しよう」という動きが中標津町で進んでいます。(中標津支局 原田未央)
駆除シカ活用を考える催し・「えぞ鹿フェスティバル」


11月下旬、町内で開かれた「えぞ鹿フェスティバル」です。20あまりの個人・団体が参加しシカの魅力をPRしました。中でも人気だったのは「中標津レザー」の商品。柔らかく自然の風合いがいかせるとして東京の革製品の職人も作品を販売しました。

革製品職人・おのめぐみさん
「ありがたい気持ちです。工場で作った布とは全く違う、本当に命のものを使っているから」
このイベントの目的、それはシカの命を余すことなく活用しようということです。

中標津町エゾシカ対策協議会会長 武田健治さん
「少し前まで駆除したシカは全部、産業廃棄物ということになっていたんですよ。それは、ちょっと違うんじゃないかと。みんなで話し合って命に対して向き合っていきたいということになった」
ペットフードでシカ肉を活用

中標津町では5月から9月までがシカの駆除期間。およそ900頭が駆除されますが、その98パーセントが有効活用されています。それは町内の2つの民間の加工施設がシカを受け入れているから。この施設では、町内で駆除されたシカの3分の2が解体されます。春から夏に駆除されたシカは脂が少なく食肉としての需要は多くありません。しかしペットフードであれば肉を活用できます。鮮度によって生肉やレトルトなどに加工していてアレルギーのあるペットにも安心して使えると評判になっています。

in-u代表 菅美子さん
「実際に目の前に使われないシカがいるとしたら、それはちょっと見ていられないですよね。農業被害のため、駆除はしかたない部分もあるので、そのシカたちをちゃんと使ってあげようという、本当に素直な気持ちですね」
みんなで考えよう、シカの活用

道によりますと、中標津町のように活用率を公表している自治体は珍しく、道内の各地域におけるシカの活用率は分かっていないのが現状です。ただ、道内では毎年8万頭前後が駆除されていて、その多くは活用されていません。中標津町では、加工施設の他、ハンターや消費者なども協力しておよそ10年かけてシカを産業として成り立たせました。同じようなことをほかの町で根付かせることは簡単ではないかもしれませんが「命を余さず活用する」ことは今後、道東の地域全体で考えていくテーマではないでしょうか。
(2023年1月16日)
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