NHK札幌放送局

WEBニュース特集 “切り捨てず大切に”いのち感じる器

北海道WEBニュース特集

2020年6月19日(金)午後5時45分 更新

黒々とした節が側面にはっきりと見える木の器。中には変色した部分がまだら模様となっているものもあります。「きれいに整えられたものだけが美しいわけではない」というメッセージが込められているかのように感じられるこうした器を生み続ける木工作家が札幌にいます。木そのものの魅力を見つめ、木とともに生きる作家の思いに迫りました。

木の魅力 引き出すために

札幌市中心部から車で20分。山や木々に囲まれたところに「チエモク」という名の木工クラフト工房があります。代表を務める三島千枝さんは12年前にチエモクを立ち上げました。千枝さんが「ものづくり」のうえで心がけていること。それは「木のいのちを生かす」ことです。「木を極力捨てるところなく生かすっていうことと、作ったものが長く使われること。木のいのちを生かすためにその両方を心がけています」と千枝さんは静かに話します。

千枝さんが「木のいのち」を考えるようになったきっかけは父・俊樹さんのことばにありました。家具店を営む俊樹さんは木の大切さを常々、千枝さんに説いていたそうです。
今も心に残る俊樹さんのことばは何ですか?と聞くと、千枝さんは「“失敗していいと思うといくらでも材料があるように考えてしまうからそれはダメだ”と言っていました。“木がかわいそうだろう?”とも言っていましたね」と振り返った上で、「“この木も、元はどこかで機嫌よく生えていたところをチェーンソーで切られてこうなったんだぞ”とも言っていました。いま私が工房で“木のいのちを生かす”とか“木のいのちを大切にする”ということを心がけているのも、そうした父のことばから来ているかもしれませんね」と話してくれました。


木の生きた証しがそこにある

工房では千枝さんと夫、スタッフの3人で制作にあたっています。使うのはすべて道産の木材。皿やボウル、マグカップなど100種類以上の木製品を作っています。

千枝さんが作るものには木の生きた証が残されています。工房で千枝さんから見せていただいたものの中で印象深かったのが、サラダやスープなどが入れられる器。その内側には親指ほどの大きさの黒々とした模様のようなものが映し出されていました。「この部分はもともと木の枝だった節という感じですね」と千枝さんは説明します。木には節や変色、虫食いなどさまざまなあとが残ります。千枝さんはそうした部分も木の個性として生かしたいと考えているのです。「節などこうした部分は木が厳しい自然の中で生き抜くための頑張ったあとと言えます。“個性”とも言えますし、それを“欠点だ”と言って捨ててしまうと使えない部分が多くなってしまいます。なのでこうした材料を使う側としてはそういう部分をおもしろがって使えるよう工夫する。そのことが自然を生かす、材料のいのちを生かすことにつながると考えています」と千枝さんは力を込めて言います。


フレンチレストランでも

そんな千枝さんの思いがつまった食器を使っている店があります。札幌市中央区にあるフレンチレストランです。この店はレストランの厳しい格付けで知られるフランスのガイドブック「ミシュラン」で1つ星を獲得しています。

店のメニューでは道産の食材で作ったサラダに千枝さんの食器が使われています。木目が美しい皿の上に美しく彩られた道産野菜。木の節を生かすことでありのままの北海道の自然の姿を表現したそうです。

店のオーナーシェフ・石井誠さんは、千枝さんの器について、「個性があるほうがぼくは面白いと思います。このテーブルに4人お客さんがいて、そこに出す皿の形が全員違ってもいいと思います。同じ形で木が違う、色も違ってそのほうが楽しいじゃないですか。それが自然です。千枝さんがいないと生まれなかったかなと思います」と話しています。


木の魅力 つなぐために

千枝さんは、木製品をつくるなかでもう1つ、大事にしていることが植樹です。12年前から客やスタッフなどを連れて下川町に行って植樹活動を行っています。「使って用が済んだら終わりではなく、その分どこかに植えて育てていかないと自然環境と木工が“とんとん”にならないと思います」と語る千枝さん。その上で木工のあるべき姿について聞くと千枝さんはこう答えてくれました。「私たちが選んで“この部分は要らないから捨てる”と決めたら、その部分は捨てられてしまいます。捨てるか捨てないかは器を使うお客さんは選べません。だからそれを私たちが捨てると決めるのはあまりにも忍びないので、できれば節や変色した部分も“おもしろいね”と感じてくれるお客さんと引き合わせてあげたいです」。


命感じる木の器に触れて

千枝さんに取材させていただくなかで「木のいのち」ということばがとても印象に残りました。自分たちで手を加えるのではなく、もともとある素材を生かしたものづくりへの姿勢がとても素敵だと思いました。私が「節や変色があると目を引くポイントになると思いますがどうでしょうか」とうかがったら、千枝さんは「そうなんです!そう言っていただけるとうれしくて」と笑顔で答えてくれました。器もそうですが、それに加えて、木のいのちを日々感じながら作る千枝さんの人柄もとても魅力的だと感じました。

(札幌放送局・腹巻未来ニュースディレクター 2020年6月18日放送)


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