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優しさ循環カフェ 北海道安平町 0755DDチャンネル

  • 2023年3月31日

まちの人たちの優しさが集まる不思議なカフェが、北海道安平町にあります。その名も「こま猫屋」。薬局と病院の並びにあります。
カフェを作ったのは薬局に勤めている菊地さん。病院にやってくる地域の人たちのほっとする場所であると同時に、小さな望みを叶える場所になっています。
(取材:廣田匡志 NHK札幌放送局)
再放送 2023年4月1日(土) 午前11:47〜 
番組HPはこちら 

まちの人が教えてくれた

私が、カフェ「こま猫屋」のことを知ったきっかけは、2022年9月、安平町のとあるお宅で話をしていたときのことでした。

「最近、町内にカフェをオープンさせた人がいます。その人は、薬局に勤めながら、お年寄りがバスを待つ時間を快適に過ごしてほしいと、トレーラーハウスを購入してまでカフェを始めたそうです。ぜひ行ってみてください」

カフェを始めた人は、一体どんな人なのでしょうか。後日、青色のトレーラーハウスを訪ねました。

笑顔で出迎えてくれたのは、カフェ「こま猫屋」の菊地和世さん。菊地さんに、このお店の存在を知ったいきさつを伝えると—

「まちの人にご紹介いただいて、嬉しいです。私は、薬局に来るお客さんと話をしているうちに、お年寄りの身近な困りごとに気づいたんです。それで、この地域のお年寄りのために、少しでも役に立ちたいと思って、薬局の同僚やまちの人たちとカフェを始めたんです」

そのカフェの様子はこちら。8席の店内は、木目調に統一された椅子や机、棚が並んでいます。こま猫屋らしく、棚には、猫の形をした雑貨や猫の画が壁に飾られていました。メニューは、ドリンク5種類と焼き芋です。

お客さんと、お店の人たちの笑い声が聞こえてくる「こま猫屋」。このカフェはどんな人たちの思いで成り立っているのでしょうか、取材を始めました。

薬局と病院のあいだに

菊地さんは、こま猫屋の隣にある薬局で従業員として働いています。薬局で働く様子を取材していると、あることに気づきました。
それは、薬局まで調剤にやってくるお客さんと楽しそうに話をしながら、あたたかい言葉をかけていたのです。
お客さんとのやりとりについて、菊地さんに聞くと—。

「私はお客さんの顔と名前を覚えるのが得意で、一度来てくれたら忘れないんです。それに、定期的に来てくれるお客さんが来なくなると心配になります。薬局のお客さんに来てよかったと思ってもらえるように、来てくれた方とお話しながら、元気の確認をしているんです」

菊地さんが気づいた「お客さんの身近な悩み」についても教えてくれました。

「薬局ではなかなかバスが待ちづらいようです。それに特にお年寄りは、町内でも気軽に買い物に行けないことに気づきました。同僚2人と話すうちに、なんとかしてあげたいと思っていました。それで、薬局や病院、バス停を利用するお客さんが安心できる場所を作りたくて、トレーラーハウスを買って、カフェをオープンしたんです」

みんながみんなのために

カフェこま猫屋の看板メニューは、焼き芋です。取材のため通っているうちに、焼き芋をお目当てにやってくる人が多いことに気がつきました。
11月のある日、お店の前で焼き芋を買ってカフェから出てきた方に話を聞くことができました。

その方は、病院に来たところ、その向かいに見えた「焼き芋」ののぼりが気になって、立ち寄ったところでした。

ところで、このお客さんが手にしている焼き芋が入った包み紙。こま猫屋の仲間が手作りして届けてくれているものでした。包み紙を作っている鳥越真由美さんを訪ねました。

鳥越さんが包み紙1個を折り上げるのにかかる時間は、1~2分くらい。サクサク手を動かして作っていきます。実はこの包み紙作りに、さりげない工夫があることを教えてくれました。

「包み紙の表に安平町の話題や明るい話題がくるようにしているんです。見た人が悲しい気持ちにならないように作っているんです」

この包み紙には、鳥越さんのやさしさが込められていました。

こま猫屋のウッディな椅子と机、棚にも、お店を応援しようという地域の人の思いが込められています。制作したのは安平町在住の米田典勇さん。材料費のみで作ってくれました。

「自分は東京に40年住んでいて、14年前に安平町に戻ってきました。菊地さんたちは、町外から通っているのに、自分よりまちの人たちのことを知っていて、驚いたんです。町外の人が安平町のためにこんなに頑張ってくれるのは、今まで経験したことがない。力になりたいと思うのは自然ですよ」と米田さん。

さらに、菊地さんの薬局の同僚の2人(林さん・瀬戸川さん)は、千歳や苫小牧から薬局に通勤しているのですが、薬局勤務の休みを利用して、ボランティアでカフェの営業を手伝っています。
2人には「自分のすき間時間で、お年寄りの力になりたい」という思いがあります。
2023年2月現在、菊地さんとこま猫屋を支える仲間(会員)は12人です。

一人ひとりにお話を伺ったところ、「町外の菊地さんたちは、安平町のために頑張ってくれているから、取り組みを少しでも応援したい。できることがあれば手伝いたい」という思いを明かしてくれました。
なかには、時々しかお店には顔を出せないけれど、「困ったときは力になりたい」という人もいました。
12人のうち1人は札幌から陰ながら応援しているということでした(取材・撮影NGでとのことでした)。
どうしてここまで、集まってくれたのでしょうか、菊地さんに聞いてみました。

「みんな町のためにと思って手伝ってくれているんだと思います。みんなから可愛がられているなって思います。本当に感謝です。私がすごいんじゃなくて、みんながすごいんです」

サツマイモ畑で起きたこと

菊地さんを助けてくれる人は、こま猫屋の仲間だけではありません。それは、こま猫屋の裏にある畑でひょんなことからわかりました。
この畑では、看板メニューのひとつ焼き芋をつくるために、2022年夏からサツマイモの栽培を始めました。しばらくすると心温まる事件が起きたのです。それは・・・。

菊地さんたちが知らないうちに、畑に、ミニトマトやインゲン、ズッキーニ、ナスの苗が植えられていたのです。
さらに、台風が近づいてきた日に畑の様子を見にいくと、野菜の苗を固定する支柱が立てられていました。誰がやってくれたのか、今でも分からないそうです。

菊地さんは、「頑張ってほしいという応援がそれになっているんだと思います。でも、植えていったものは教えてほしいです(笑)」と幸せそうに話してくれました。

冬にも不思議なことが起きました。
12月中旬のある朝7時頃、カフェの準備のためいつものように菊地さんがお店にやってくると、トレーラーハウスの前の階段とスロープが除雪されていました。これも誰がやってくれたのか、分からないそうです。

この日、菊地さんはカフェの入口にメッセージを掲げました。

「雪かきしてくれた方へ 本当にありがとうございました!!」

もう一つのメニュー 届けるのは

こま猫屋には、カフェのメニューの他に、もう一つ大事なメニューがあります。それは、買い物代行サービスです。商品の代金に500円を追加すると、こま猫屋が届けてくれます。
このサービスを最初に利用した人は、まちのベテラン理容師さん。一体どんなものを注文したのでしょうか。

それは苫小牧のお弁当屋さんが駅弁として長年売っているサーモン寿司でした。
そのサーモン寿司、40年以上前に、愛犬が苫小牧の病院に通院していたときに、昼食を飲食店で食べることができず、駅でよく購入していたそうです。
鉄道で移動することもなくなった今、食べることを諦めていましたが、こま猫屋から届けられた、20年ぶりの思い出の味でした。
「おいしいんですよ」とにっこり。

さらにもうお一方、買い物代行サービスを利用したお客さんのもとを訪ねました。

こちらの方が注文したものは、求肥つるの子という和菓子でした。
昭和30年代、苫小牧の高校に通っていた頃、期末テストが終わると苫小牧の菓子店や映画館を訪れることが楽しみの1つだったそうです。
「昭和の時代から食べているんですよ」とにっこり。

カフェの買い物代行サービスは、地域のお年寄りに笑顔を届けるサービスでもありました。

優しさが循環するカフェ

こま猫屋は、地域のお年寄りの身近な困りごとを解決したいと、仲間うちで話をしていた菊地さんの「優しい気持ち」から始まりました。それが今では、助けてくれる人が次々と現れて、大きくなり、優しさが循環しているようです。

菊地さんは「このかたちになったのは、まちの皆さんのおかげだと思っています。私がやりたいと言っただけで、できたことではないので、本当に感謝です」と笑顔で話をしてくれました。

取材後記

2022年10月、こま猫屋の菊地さんにお会いし、取材を申し入れると、「なんでこま猫屋なんですか?まだ始まったばかりで何もないですよ(笑)」と驚きつつも、「こま猫屋の取り組みをまちのお年寄りに知ってもらえるきっかけになれば」と期待を話してくれました。

取材を続けていくと、菊地さんやこま猫屋の皆さんが協力しあいながら、まちのお年寄りのため、こま猫屋のために行動していることを知りました。
一人ひとりのお話を聞いていくと、とてもあたたかい気持ちになりました。
取材・撮影にご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。

2023年1月27日、こま猫屋を訪れたときのこと。
この日、店番をしていたのは、仲間の花田さん。実は、菊地さんは雪の上で転倒・骨折し、自宅療養中でした。
花田さんが焼き芋の包み紙に紐を通す作業をしながら、「こま猫屋レスキュー」と書かれたカレンダーを見せてくれました。
それはシフト表で、菊地さんの分をカバーしようと、こま猫屋の仲間の名前がずらり書き込まれていたのです。
これを見たときに、「地域のお年寄りのために、少しでも役に立ちたい」という菊地さんの当初の思いが、こま猫屋の仲間全員の思いになっていると感じました。菊地さん一人の思いではなく、仲間の思いがあるからこそ、「こま猫屋」という憩いの場が、地域に開かれた場所として続いていくのだと思います。

(取材:廣田匡志 NHK札幌放送局)

追伸【番組その後】

3月19日、菊地さんにお会いしました。そこで、菊地さんから放送後に新たな動きがあったことを教えてもらいました。
なんと放送をご覧いただいた町の方が、ボランティアとしてこま猫屋を支えたいと声をかけてくれたそうです。
さらに買い物代行サービスにも、新たな注文が入りました。放送では、駅弁「サーモン寿司」や和菓子「求肥つるの子」を依頼したお客さんを紹介しましたが、新たなオーダーは「昔食べたししゃも弁当」ということでした。
このことについて菊地さんは、「このままでは、うちはお弁当屋さんの宅配になってしまいます(笑)注文していただけて、すごく嬉しいと皆で盛り上がったんですよ」と笑顔いっぱいでした。
安平町内のお年寄りにとって、こま猫屋のサービスが身近な困りごとを解決したいときの選択肢になる日が近いかもしれません。
2022年9月から始まったこま猫屋の取り組みが、徐々に広がっていました。

(廣田 記)

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