NHK札幌放送局

「ススキノ大学」開校!

ほっとニュース北海道

2021年4月14日(水)午後1時35分 更新

「隣の店と争っている場合じゃないんです。この街全体にお客さんが来るか、来ないかという話なんです」―そう語るのは、ススキノエリアを中心に20を超える飲食店を経営するグループ会社の社長 青木康明さんです。この春、青木さんは社長仲間と共に、従業員教育を行う「ススキノ大学」という取り組みを始めました。”来てください”でも”待っています”でもなく、なぜいま人材教育なのか。その理由を探りました。

「すすきのアップデート ススキノ大学」と名付けられたこの取り組み。ふだんならライバルとなる店が従業員教育を共同で行おうというものです。立ち上げたのは札幌市を拠点に飲食事業を手掛ける企業3社とPR会社の社長、4人です。

3月中旬。初めて開かれた「ススキノ大学」の講義の初回、大学発起人の社長らが経営する飲食店に勤める従業員に向けて、青木さんが挨拶に立ちました。

コロナになって、われわれ経営陣もいろいろ考える時間が多くなり、ススキノの未来を考えました。その結果、現状を1社だけで盛り返すのは厳しいという結論に至りました。普段、店舗で働いている皆さんも感じていると思いますが、まだまだお客様は戻ってきていません。ただ、私たちにコントロールできることではありません。では、何ができるのか。それは、いつお客様が戻ってきてもいいように準備を整えることです。皆様がレベルアップした状態で、新しいススキノをつくり、お客様にご満足いただく。今回は3社の従業員の皆様が対象ですが、これをきっかけに、賛同いただける店舗、企業を増やしていきたいと思っています。本格稼働の前の0期生の皆さんは、これまで営業が忙しかったころにできなかった勉強をして、お客様が戻ってこられた時にぜひ発揮してください。よろしくお願いします。

ライバル関係は「お休み」

「ススキノ大学」のテキストは、ある企業が去年3月に開発した人材教育プログラムが元になっています。

飲食からアパレルまで幅広く経営するグラフィックホールディングスの山本壮一社長です。いわば財産ともいえる自社のノウハウを提供した理由を聞くと、繁華街ススキノが置かれている現状が見えてきました。

もともとは切磋琢磨するライバル。以前は「差別化を図る」ことしか頭になかったと言ってもいいくらいでした。私たちは、高齢化や人口減少をとめることが難しい中、止まることはないと考えたグローバル化に注目してインバウンドを主戦場に経営をしてきました。インバウンドにおいてもススキノは集客の要です。しかし、新型コロナで一変し、いつしか国道36号線より南には行かない方がいいとまで言われるほどになりました。ススキノが活気を失うということは札幌、北海道の魅力が落ちるということとも言えます。なぜなら、多くのお客さまはススキノに行きたいから札幌に2泊するので。とはいえ、当時はまだそこまで考えず、生まれた時間を有効に使おうと去年3月、自社の人材研修に本格的に取り組み始めました。これも「差別化」という戦略でしたし、教育がビジネスにもつながると考えていたからです。その後、去年末、青木社長と話をする機会があった時に考えが変わりました。コロナ禍でも前を見続ける姿に共感をしました。それであれば、一緒にススキノ再興につながることをしようと話が進みました。全国どの繁華街も厳しい状況は一緒。その中で、連帯してススキノで新しい動きが出ているというメッセージは、他の繁華街にも勇気になると思うんです。なので、いまは、惜しみなくノウハウを提供するつもりです。そして、将来、その必要がなくなった時にはまた適正距離に戻って地域を盛り立てていきたいと考えています。

❝ゼロに戻った❞街のために

ススキノでは新型コロナウイルスの感染拡大以降、数百の店舗が移転、閉店を余儀なくされています。状況が改善しない中、社長4人はススキノがこれまで積み上げてきたものが、いったんリセットされ❝ゼロに戻った❞と感じています。

苦境に嘆くのではなく、街全体をもう一度盛り立てたい、新たなススキノにアップデートさせたい。そうした思いがこの取り組みの根底にはありました。中でも、ススキノ地区で40年以上、飲食店を経営する父親を見て育ったAPR TRADINGの青木社長(写真左)は、街全体でという思いが人一倍強くありました。

これまでススキノには多くのお客様がいらしていて、はっきり言えばそのマーケットを取り合っていたというのがリアルなんです。ただコロナ後はススキノを選んでくださるお客様をどれだけ増やせるのかという闘いが待っています。ゼロからの出発という気持ちです。新宿なのか、中洲なのか、ススキノなのか。そう考えた時に、どんな店づくり、社員づくりが必要なのかをこれまで以上に真剣に考えるようになりました。店舗を守るという従来の取り組みに加えて、未来への投資。つまり、ひとりひとりの従業員にしっかりと投資をすること。人こそ差別化を図る最大のコンテンツだと信じています。しかも、1店舗、1社ではなく、ススキノという街単位でやることで、面的な打ち出しができるわけです。これまでにはない、新たなアピールにつながると考えています。

ブレストから開校までわずか3か月!

この取り組みは、最初のブレインストーミングからわずか3か月で実施にこぎつけました。複数の企業がまたがるプロジェクトにもかかわらず、このスピード感で実現に至ったのには理由があります。その理由を聞くと、全員が口をそろえてこう言います。

村があったから

そう、ススキノには「村」があるんです。そのコミュニティーが大きな役割を果たしました。ススキノに「村」をつくったのは、「ススキノ大学」の発起人のひとり、鈴木慎也さん(下の写真右側)です。札幌駅前やススキノで複数の飲食店を経営しています。「村」の誕生も、やはりコロナがきっかけだったと言います。

僕が経営する飲食店は、宴会やパーティーといった団体客が多く利用してくださっていたんです。しかし、コロナになって利用するお客様がいなくなってしまったと。先が見えなくなり、店舗を清算することも考えたのですが、どうにかこの場所を残すことが出来ないか考えたんです。その結果「1社が持つのではなく、例えば100人でシェアする」という考えが浮かびました。それで、Wi-Fi環境を整え、各テーブルにコンセントを配置して去年9月からシェアオフィスとして利用できるようにしたんです。それが村です。朝から夜まで、会員=村民(月額1万円)の皆さんが好きなように使える場所として開放しています。一人一人の時間もあれば、プロジェクトが自然発生的に生まれたりと、シェアオフィスでありコミュニティーでもある不思議なものです。いまでは130人を超える利用者がいて、旭川にも新たな村を開設したところです。

村民は、企業の社長から学生まで幅広く、「そこに行けば誰かに会える」まさに村のような空間になっています。発起人も全員村民です。今回の取り組みに唯一飲食店ではなく、PR会社の代表として参加する伊藤翔太さん(上の写真左)は、コロナ禍において村が果たす役割をこのように話しています。

例えば、あるプロジェクトを実行するために複数の企業が打ち合わせをしましょうと集まって話をした場合、当然、打ち合わせ後にそれぞれ自社に帰りますよね。でも村は、同じ場所に基本いるので、打ち合わせとヨタ話がシームレスなんです。その余白時間も共有することで、様々なタイムラグがなくなり、プロジェクトが加速するんですよね。考えてみてください。通常複数の企業によるプロジェクトって結論を出すために各社会議をそれぞれして、合同会議のためにまた新たな資料を作って、会議の後には考えを持ちかえって、話を揉んで、再度集まる。こうした手続きを繰り返しますが、ある程度責任のある立場の人が常にここにいるので、それも省略できると。やりながら進められる場所が村特有のものなんです。村はいわば各社合同の事業部のようなもの。コロナがなければこんなつながりは生まれなかったでしょうし、何よりも、コロナ禍でも前向きに何かに取り組みたいという人が集まっているというのが面白いところです。

ススキノ大学が生み出す価値

3月に受講した従業員17人は0期生と呼ばれています。今後、学びの場としての「ススキノ大学」を本格稼働させる前に、どのような課題や可能性があるのかを探るために行われた為です。3月15日~31日までの計6回行われた講座内容も幅広く、マナー講座、接客スキルのほか、6つの企業の社長による講演などバラエティーに富んでいます。従業員は4時間分の給料をもらいながら、計24時間学びの時間を持ちました。35歳以下という年齢制限を設けたことから、それよりも上の世代からは「自分たちの時代にもあればよかった」という声もあがったといいます。

受講した従業員は、それぞれ違うグループ会社に所属していて、普段働いている店舗もバラバラです。スキル獲得はもちろんですが、普段接することのない人たちとの出会いを通じて、自然と”ススキノで働く仲間意識”も芽生えていました。

≪参加者の声≫
・スキルとか価値観を新しく獲得するというところで、このメンバーと一緒にできたことは将来大きな財産になる
・ススキノが一体となって盛り上げていくことがひつようだということがよく分かった
・同業他社の人たちと触れ合うことで俯瞰することができ、自社の強みや特色の理解につながった
・モチベーションの向上につながったし、大きな刺激になった

村を通じて社長のつながりが生まれ、開校につながった「ススキノ大学」。将来的には、ススキノエリア全体の飲食店を対象に受講生を募集し、限られた人材の共有も図っていきたいとも口にする学長の青木康明さん。最後に、この取り組みにかける思いを伺うと、このような答えが返ってきました。

繰り返しになってはしまいますが、このコロナがいつ終わるのかも、お客様がいつ戻ってくるのかも、僕らには天気や自然災害のようにコントロールができないものです。でも、私たちでコントロールできるものもあります。それは、かつてのようにお客様がいらっしゃれるようになった時に、あたりまえに最高のおもてなしでお客様を迎えられるような準備を整えておくことです。それが1社ごとではなく、1店舗ごとでもなく、ススキノという街単位で取り組めさえすれば、また来たいススキノ、また行こうと思っていただける。「ススキノ大学」はそんな街づくりの一助になれればと思っています。厳しい現状はたくさんあります。それでも、自分たちはコロナがあったからこそ変われたというような、前向きな言葉で将来表現できるように、いまは目の前の時間を有効に使っていきたいと思っています。なので、コロナが収束したらみなさま、ぜひススキノへということで、よろしくお願いします。

取材を終えて

「人財」=人は宝だとよくいいますが、経営が厳しい中、どれだけの企業がこの視点で人を見られているのでしょうか。そこには「これまで現場任せで十分ではなかった」という反省の思いもあるかもしれませんが、それ以上に、ひとりひとりを守ることが、ひいては街を守ることにつながるという、温かみのある強い決意に感じられました。この取り組みがどのような結果を生み出すのかはまだまだ未知数ですが、少なくとも、こうした経営者、従業員がつくる店にはこれからも足を運びたいと思いました。

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