
ご家庭に届けるところまでが仕事
■入局何年目ですか?
梅内:2019年入局で、2年目です。札幌局が初任地です。
■「送受信技術」はどんなお仕事ですか?
梅内:道央圏を中心に約200万世帯のご家庭に安定した放送を届けるのが仕事です。
送受信技術には、「送信技術」「受信技術」と大きく2つの役割があり、私の担当は主に「送信技術」です。簡単に言うと、放送の電波を発射する設備の整備や維持管理がメインの仕事ですね。「受信技術」はテレビやラジオの放送受信に関する技術相談に応じて、ご家庭等にお伺いして原因を調査・解決する仕事です。各家庭まで確実に放送を届けるところまで取り組んでいます。
NHKは標高1000メートルを超える手稲山山頂の電波塔から電波を送っているのですが、札幌の管轄エリアは手稲山だけではカバーしきれないほどの広範囲。そのため中継局を設置して、北は空知の滝川市から、西は後志の島牧村まで電波をお届けしています。
■手稲山にはたくさんの電波塔がありますよね。
梅内:民放も含め、札幌でテレビが視聴できる全放送局の放送所があります。NHKは、テレビ放送開始当初、札幌市中心部にある「さっぽろテレビ塔」から電波を送っていたのですが、より広い範囲に電波を届けるため、見通しのよい手稲山に放送所を移設したそうです。
■全てテレビ用のアンテナなのですか?
梅内:手稲山にあるNHKの電波塔は、主にテレビとFMラジオの送信用で、AMラジオ用のアンテナは江別市にあります。江別にはラジオ第1と第2のそれぞれ2本のアンテナがあり、特にラジオ第2のアンテナは出力500キロワットで、日本国内でも最大級の放送所の1つです。北海道だけでなく、夜であれば本州でも聞こえるそうですよ!
■札幌が管轄する道央圏以外の地域は、どのように放送が届けられているのですか?
梅内:道内には、札幌局を含め7つの放送局があります。札幌局と各放送局とは専用のネットワーク回線で結ばれており、それぞれの放送局にはその回線を通じて番組を届けています。そして札幌が道央圏のご家庭に電波を送るように、それぞれの放送局ごとに管轄エリアへ電波を届けています。
■アンテナ設備の保守・点検・交換というと、外で作業するお仕事が多そうですね。
梅内:特に夏はそうですね。中継局は、山頂など早く雪が積もる所に多くあるため、雪が降り始める前に作業を終えないと雪の中で作業する事に…(笑)。11月には雪が降り始めるので、それまではほとんど屋外での仕事です。特に今、地上アナログテレビ放送がデジタル放送になって約10年が経つので、各中継所に行っての機材のメンテナンスや全面的な設備の更新もしなくてはならない状況です。
■冬が来る前の作業もあり、地デジの設備更新もあり、この夏は忙しかったんですね。
梅内:他にも、来年に予定されている札幌放送局の新放送会館移転のため、その設備を整える仕事もあったりします。そのため、職場に行っても2~3人しかいない日もあり、みんな外に出払っている状況です。
命を守るために安定した電波を届ける
■お仕事の中で苦労したことは何ですか?
梅内:冬の放送機器のメンテナンスですね。手稲山は普通の車では登れなくなるので、除雪されていない登山道を歩いたり、雪上車を使ったりして山頂の放送所に行かなくてはなりません。スキーシーズンであれば、リュックに機材を入れてリフトで途中まで上がり、そこから雪の中を歩いて頂上まで向かいます。手稲山だけではなく、放送所や中継局の多くは人里離れたところにあるので行くだけでも一苦労です。国立公園内にある中継局では、数百メートルささやぶの中をかき分けて歩くこともあります。
■作業場所に行くだけでも大変ですね……。熊に会ったりしませんか?!
梅内:私は熊には会ったことはないですが、野生動物に出会うことは多いです。作業現場に行く途中で鹿やリスに会って、帰る時にも再会したり(笑)
■体力も必要なお仕事かと思いますが、何か体力づくりはされていますか?
梅内:特にしていないです。むしろこの仕事をしてから体力がつきました。体調管理には気をつけていて、放送をお休みしている夜間に実施する作業もあり、夜勤と日勤が混ざった勤務をしているのでしっかり睡眠をとるように心掛けています。
■送受信技術の仕事の重要性は、特にどんな時に実感しますか?
梅内:私が入局する前の話なのですが。胆振東部地震で道内全域が停電する「ブラックアウト」が起きた時、短時間のバックアップのみができる非常用バッテリーのみが設置されている中継局では、何時間か経つと放電しきって、放送電波が止まってしまうということで、職員で手分けして、非常用電源が切れる前にバッテリーを交換するために走り回ったそうです。NHKはいざという時に、皆さんの命を守る情報を、迅速かつ確実に届けなければなりません。もし電波が止まってしまっては、たいせつな情報が届けられなくなる。電波は何があっても出さないといけないという使命感をもって、私も日頃から仕事をしたいと感じました。
■普段あまり意識しませんが、電波の大切さがわかりますね。
梅内:テレビには信頼性が求められていて、もし止まったら社会に大きな影響を与えてしまいます。最近はコロナの影響で出演者が(通信回線で)リモート出演する番組も多く、たまに映像や音声が途切れたりする場面をテレビで見かけますよね。今までそういったことは無かったと考えると、放送局の先輩方が努力して放送の電波を守ってきたんだなということを実感させられます。
視聴者の方とのふれあいがやりがいに
■専門的な知識もかなり求められると思いますが、大学でも何か勉強されていたのですか?
梅内:学生時代は電波の研究をしていたので、大学で学んだ知識をいかせる時もありますが、業務につながる知識は基本的には入局してから学んだことがほとんどです。OJT(On-the-Job Training:職場で実務を通じて育成すること)のような形で実際に機材を触りながら徐々にスキルを身につけていきました。
■電波の研究をされていたということは、放送関係の企業に就職を考えていたのですか?
梅内:映像制作には興味があったのですが、番組づくりや映像デザインは私には難しいかなと思っていたので、当初は放送機材やカメラを作るメーカーに入ろうかと考えていました。そんな中でインターンに参加したのがきっかけでNHKに関心を持ちました。
■NHKに決めた理由は?
梅内:放送機材メーカーも魅力的な仕事だったのですが、私は放送機材の製作仕様をつくる仕事に面白さを感じたのでNHKを選びました。NHKにはNHK放送技術研究所という研究機関があり、放送技術の研究機関としては最先端だと思いますので、いつかはそこで働きたいという夢があります。そのためにもまずは放送現場を通じてどんな課題があるのかを把握することが大事だと考え、今の仕事を希望しました。
■いつか研究所で働けるといいですね。
梅内:でも最近は、送受信の現場の仕事に魅力を感じています。今はメインの担当業務ではありませんが、「受信技術」の仕事では各家庭を訪問して、視聴者の方と直接ふれあうのもすごく楽しくて。そういう仕事は研究所にはないですし、なかなか他の職種にもないと思うので、やりがいがありますね。「送信技術」の業務では、手稲山で長時間の作業を終えて放送所を離れる時に、山頂から街を見渡しながら「この街に電波を届けているんだ」と思えて嬉しいんです。無事作業を終えられると達成感を感じます。
■現場で働く魅力の一つですね。ちなみに、学生時代は研究の他に何かされていましたか?
梅内:高校時代から映像制作が趣味でした。大学では、周りを巻き込んで放送サークルを立ち上げ、映像作品をつくっていました。市役所の方から、移住のプロモーション映像をつくるお話をいただいて、制作したこともありますよ。
■では、いつかは番組をつくりたいという思いも?
梅内:いや、それは今のところはないです(笑)。 将来、地上波で4K・8Kスーパーハイビジョンの放送を始めることになった時には、その仕組みをつくり上げる仕事をしてみたいです。また、中学生の頃から気になっていたのですが、災害報道でヘリコプターからの中継映像が乱れることがありますよね。どうにかならないのか?とずっと考えていました。いかなる状況でも安定した映像を届けるにはどうしたら良いのか、NHKの技術力で放送の質を向上させていきたいです。
【梅内 哲也 プロフィール】
■局歴:2019年入局
札幌放送局 技術部(送受信技術)
■出身地:岩手県
■趣味:一眼レフでの写真撮影
■学生時代頑張ったこと:映像制作
