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学ぶことを諦めない(2)札幌市 公立夜間中学 “来日27年目の決意”

ほっとニュースweb

2022年4月20日(水)午後6時07分 更新

4月19日、北海道で初めての公立の夜間中学、札幌市立星友館中学校が開校しました。 夜間中学は、義務教育を十分に受けられなかった外国籍の人たちの学びの場ともなっています。 星友館中学校に入学した新入生の中にも6人の外国籍または外国にルーツのある生徒がいます。 そのうちの1人、来日27年で日本語の読み書きを身につけようと入学したペルー出身の女性の思いです。 (三藤紫乃) 

待ちに待った入学式

札幌市に開校した北海道で初めての公立の夜間中学、星友館中学校。
4月19日、午後7時から行われた入学式には、新入生の1人、ペルー出身のオルガマリアさんの姿がありました。

「あまり寝れなかったの。朝、どうしようと思って。ドキドキします」(オルガマリアさん)

オルガマリアさんは、食品加工工場の従業員として、27年前に、単身、来日しました。
ペルーにいた頃、日本語を勉強していた時期もありましたが、来日した当時、言葉はほとんど分からなかったといいます。

言葉の壁

オルガマリアさんは、来日後、日本人の夫と結婚。3人の娘に恵まれました。
しかし、言葉が分からない中での子育ては苦労の連続でした。

「子どもたち、病院行って、言葉、分からない。どうするの?何、話すの?『せき』ある、『せき』ないとか、いろいろ、先生の話、分からなかった」(オルガマリアさん)

育児に追われ、日本語を学ぶ余裕はありませんでした。
ひらがなも読めなかったため、子どもたちの学校で配られるプリントの内容も1人では理解できなかったといいます。

「子どもが読んで、私に教えてくれる。『本当のお母さんじゃないね。子どもみたい、私』って…。ちょっと、つらいよね」(オルガマリアさん)

転機

6年前、オルガマリアさんに転機が訪れます。
当時住んでいた函館で知り合った高校の校長先生から、自身が勤める定時制の工業高校で勉強してみないかと勧められたのです。
3人の娘も大きくなり、子育ては終わりにさしかかっていました。
オルガマリアさんは、思い切って入学することにしました。
学校では、機械科のコースで旋盤の使い方や溶接の技術を習いながら、合間に日本語の読み書きも教えてもらいました。

子どものときは、家の手伝いなどで学校に通った記憶はほとんどなく、初めての本格的な学校生活でした。

「一番、年上だったけど、クラスが本当にが仲良しで、うれしかった。日本語が読めないけど、先生が『大丈夫、大丈夫、話せるから大丈夫』と言って、先生たちは、ひらがな、教えてくれた。子どもたちに手紙つくる、できるし。ここまで諦めてた、私…」(オルガマリアさん)

日本語をきちんと身につけたい

オルガマリアさんは、4年間、通い抜き、無事に工業高校を卒業しました。
ただ、そこで感じたことがありました。
いくら技術を身につけても、今の日本語のレベルでは、この国で、やりたいと思う仕事に就くことは難しいーー。
星友館中学校の開校を知ったオルガマリアさんは、漢字やカタカナの読み書きも含め、日本語の読み書きをきちんと身につけたいと入学を決めました。

「今日はスペシャルの日」。

星友館中学校の入学式を迎えた日、オルガマリアさんは、私に、そう話してくれました。
「勉強したい」。
学ぶことを楽しみに思う気持ちが、表情からあふれていました。
来日27年。これからも、家族がいるこの国で生きていくため、オルガマリアさんは、新たな一歩を踏み出します。

【外国籍の人たちと公立夜間中学】

全国では生徒の8割が外国籍

公立の夜間学級、いわゆる「夜間中学」は、最近では外国籍の人たちの学びの場ともなっています。
令和元年度に文部科学省がまとめた調査では、全国の公立夜間中学に通う生徒のうち、外国籍の生徒が占める割合は、およそ8割にのぼっています。
その半数近くが、入学の理由を、「日本語を話せるようになるため」としています。

学校はサポートを充実

星友館中学校にも、あわせて6人の外国籍または外国にルーツのある新入生が入学しました。
こうした新入生をサポートするため、学校では、授業を行う教員のほかに日本語を指導する専門の教員を配置しました。
さらに、言葉に不安のある生徒のために日本語を集中的に学ぶコースも設けました。

公立夜間中学の存在を

学校では、「学び」を必要とする外国籍の人たちに、まずは夜間中学の存在を知ってもらうことが必要だと考えています。
市内の在住者が多く使う、英語・中国語・韓国語・ベトナム語の4か国語で書かれたリーフレットを作り、外国人が経営する飲食店などに配る取り組みを進めています。
また、ホームページも、これらの言葉で閲覧できるようにしています。
日本で暮らす外国籍の人たちが、経済的にも、また、精神的な面でも自信を持って生きられるよう、その支えとしての公立夜間中学の役割が期待されています。

札幌局記者 三藤紫乃
2017年札幌局に着任 帯広局を経て、再び札幌局
現在は札幌市政担当

もう一度学び直したいと入学した聴覚に障害がある生徒の思いはこちら

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