NHK札幌放送局

“財産のすべてを失った” 被害者が語る特殊詐欺

道南web

2022年9月13日(火)午後5時00分 更新

「財産のすべてを失いました」 特殊詐欺で5900万円の被害に遭った 函館市の女性が報道陣の取材に応じました。 なぜ詐欺に巻き込まれてしまったのか。 発端は小さな親切心からでした。(取材:NHK函館 奈須由樹) 

気をつけていたのに…

「私はだまされやすい人だから、詐欺には気をつけなければいけないと思っていました。それでも詐欺だと気づくことができませんでした」

函館市に住む70代の女性は今年8月、函館市で5900万円の詐欺被害に遭いました。
同じような被害を少しでも無くすため取材に応えた女性の言葉。
その1つ1つには被害を経験した人にしか言い表せない重みがありました。

発端は親切心

今年6月16日、自宅の固定電話が鳴りました。

野村ホームズ(架空の会社)のゴトウと名乗る人物
「函館に新しく老人ホームを建てるので入りませんか」

女性
「考えておりません」

野村ホームズのゴトウと名乗る人物
「そこの施設に入りたい人がいるので名前を貸してくれませんか」

新しい施設に入りたいという人が安心して暮らせるといいなと思い、
女性は親切心から思わず「はい」と答えてしまいました。

不安をあおられ…

次の日、家の電話がまた鳴ります。

オキタと名乗る人物
「あなた名義貸しをしていませんか。名義貸しは犯罪なので、警察につかまりますよ」

その翌日、今度は金融庁のタナカと名乗る人物から電話がありました。

「名義を貸すことは犯罪だ。あなたの全財産が国に没収される。警察にも捕まるし、きょうだいにも迷惑がかかるがそれでもいいのか」

さらに、電話は弁護士のハセガワと名乗る人物からも。

「財産を守るために私に預けて欲しい。国に没収する前に確保する。金融庁のタナカとは知り合いで、国が動かないようにしている。心配しなくていい」

かわるがわる登場する人物たちの巧みな言葉にだまされた女性は、相手の話を信じました。

自分が犯罪に関わってしまったと思い込み、自分が悪いことをしているのだからと周りに相談することもできません。

そして、指示されるまま10数回にわたって指定先に現金を送った結果、およそ5900万円をだまし取られてしまったのです。

「財産のすべてを失う」

だまし取られたのは、3年前に亡くなった夫とためた預金や、2人で建てた家を売ったお金でした。
将来、施設の入居費用に充てる予定だったということで、老後のための財産をすべて失いました。
「私がおろかだった。夫には申し訳ない」。
夫の遺影に毎日「ごめんね」とあやまっているといいます。

発覚の経緯は

初めて詐欺に気づいたのは郵便局のATMでのことでした。
口座が凍結されていて、通帳が出てこなかったのを郵便局の局長に相談。
すると、警察が駆けつけて詐欺被害が発覚します。
警察に「詐欺に遭っている」と言われても、まだ何のことか分からず、詐欺の詳しい説明をされてようやく被害の実感がわいたといいます。
大きなショックで立つことができず、何も考えられなかったといいます。

不審点は多数

詐欺被害を振り返ると不審な点は多数ありました。
相手の電話番号は頻繁に変わり、振込先の口座も東京、神戸、草津と変わっていきました。
振り込むときも女性本人の名前ではなく違う名前で振り込ませるなど、不審な点は今思えばたくさんあったといいます。
ただ、電話での相手のやりとりがあまりに自然で疑うことができませんでした。

詐欺被害に遭わないために

すべての財産を失った女性は、詐欺被害に遭わないために、次の3つを呼びかけたいと話します。

・知らない人からの電話は受けない
・もし不審な電話を受けてしまったら誰かに相談して人の意見を聞く
・固定電話には録音機能を付ける

コロナも影響か

なぜ被害に気づけなかったのか。新型コロナウイルスも影響していると話します。
女性はコロナの前は習い事に通ったり、友達とランチに行ったりして会話の機会がありました。
しかし、コロナで友達と会う機会も減りました。
友達と会っていれば、詐欺の手口について耳にすることがあったかもしれません。
もし詐欺の話を少しでも聞いていれば、もっと気をつけていたと思うと話しています。

道内で過去最悪のペース

ことしに入ってから8月までに道内で確認された特殊詐欺の被害は200件を超え、去年の同じ時期と比べて2倍以上に増えています。

被害額はおよそ7億9000万円に上り、過去最悪のペースで増えています。
被害者の8割以上が65歳以上の高齢者です。

被害に遭わないため、道警は、留守番電話の機能を使って相手を確認してから電話に出ることや、見知らぬ人から電話で現金やカードを要求されたら詐欺を疑い、警察の相談専用電話「#9110」に連絡することを呼びかけています。

函館放送局・奈須由樹記者が書いたこちらの記事もどうぞ
長万部町 水柱 噴き上がって1か月 勢い止まらず

2022年9月13日

関連情報

発電所故障による水不足  米作りへの影響は?

道南web

2023年7月4日(火)午後6時11分 更新

山荘で楽しむ『ものづくり』 ~矢越クラフトホリデー~

道南web

2023年10月20日(金)午後2時09分 更新

道南ドキュメント7.2時間

道南web

2024年3月15日(金)午後3時20分 更新

上に戻る