NHK札幌放送局

”安全があっての商売” 知床・観光船沈没事故 国のチェックは機能したのか

ほっとニュースweb

2022年5月26日(木)午後1時19分 更新

「安全があっての商売」。
去年、桂田社長はこう説明し、運輸局は「以前より安全と法令順守意識が向上したことを確認できた」と結論づけていました。 

知床半島沖で観光船が沈没した事故から1か月、運航会社のずさんな安全管理体制が明らかになった一方、国がチェックできる機会が何度もあったのに見過ごされていたことがわかってきました。 (札幌放送局 小栗高太) 

タイミング①「運航管理者」の自己申告 書面でしか確認せず

国によるチェックの機会、その1つは去年3月、桂田精一社長が、会社の「運航管理者」になったと届け出たときのことでした。
当時、会社側は北海道運輸局に対し、桂田社長に「船舶の運航の管理に関して3年以上の実務経験」があり、資格要件を満たしていると自己申告しました。

それを運輸局は書面で確認しただけ、つまり自己申告の通り認めていました。
この対応については、事故のあと、「管理者の要件を満たしているか、裏取りをして確認するべきではなかったか」という指摘が出ています。

タイミング②不自然な「運航記録」 問題指摘できず

その次のタイミングは、すぐそのあとに訪れました。
桂田社長が運航管理者になってから2か月後の去年5月と翌6月、今回の事故で沈没した観光船「KAZU1」は航行中に漂流物に接触したり、浅瀬に乗り上げたりする事故を相次いで起こし、運輸局は特別監査の結果、行政指導を行いました。
これを受けて去年7月、運航会社から「改善報告書」と一緒に、運航記録が提出されましたが、そこに不自然な点がありました。
具体的には、提出のあった16日間分の記録を見ると、連日のデータが“風速0.5メートル”、“波の高さ0.5メートル”、“視界5000メートル”とほとんど同じ数字が並んでいたのです。

これについて、運輸局は当時、問題を指摘していませんでした。
今回の事故のあと、知床周辺の同業他社の運航記録を確認したところ、同じような数字ではなかったと説明していて、国土交通省は、「不自然な点がありながら確認や指導が十分できていなかったと認識している」としてチェックが不十分だったと認めています。

タイミング③抜き打ち検査で安全教育の記録確認せず

安全管理をチェックする機会はそのあとにもありました。
去年10月、運航会社が改善報告書の内容を守っているか確認するために運輸局が抜き打ち検査を行いました。
改善報告書で、運航会社は「安全教育を定期的に行う」などとしていて、抜き打ち検査のチェック項目にもなっていましたが、当時、担当者が不在で安全教育の記録は確認できませんでした。
一方、運輸局は、電話で応対した桂田社長から「安全があっての商売」、「安全運航に努める」といった説明を口頭で聞いた上で、「以前より安全と法令順守意識が向上したことを確認できた」と結論づけていました。

国土交通省は、「さらなる確認や指導が十分にできていなかった」としています。

国交相「どこが足りなかったのか検討」

国のチェック体制に問題はなかったのか。
斉藤国土交通大臣は、「特別監査、指導、抜き打ち検査などを行っても事故が起きたことは重く受け止めている。我々としてどこが足りなかったのか真摯(しんし)に検討し再発防止策に全力を挙げたい」と話しています。

専門家「性善説の監査」

船の安全管理に詳しい東京海洋大学の竹本孝弘教授は、「性善説にもとづいた制度で、書類が正しく作られ、 記載されているかどうかは監査の対象になるが、その中身が正しいかどうかまで チェックされていない。
書類があったからといって、しっかりと事業者が安全管理規程を守って運航してるかどうかの証拠にはならない」などとして、いまの監査の体制の課題を指摘しています。
そして、今後の監査のポイントについて、「安全に関する意識や知識、それに技術を経営トップがしっかりと持っているのかどうかを、しっかりと監査で確認するのが大事だ」として、特に規模の小さい事業者を中心に経営者の資質をチェックすることが重要だと指摘しています。

国「安全管理規程によるセーフティーネット機能せず」

国は、事故からおよそ1か月がたった5月24日、今回の沈没事故を受けた特別監査の結果を公表しました。その中で、事故の直接的な原因は現時点では不明としながら、会社側による数々の違反について「安全管理規程によって構築されるべきセーフティーネットが機能せず輸送の安全確保の仕組みが破綻し、今回の重大な事故の発生と被害の拡大の大きな要因となった」と指摘しています。
その上で、「前回の監査で指摘された事項の 再犯も確認され、安全管理体制への改善意識が全く見られない」として、事業を継続させれば再び重大な事故を起こすおそれがあるとして、観光船事業の許可の取り消しが適当だとしています。
事業許可の取り消しは最も重い行政処分で、国土交通省は会社側の言い分を聞く聴聞を開いた上で処分を行う方針です。
一方、運航会社が指摘された違反は、去年、運輸局が行った特別監査や抜き打ち検査などのチェックでは指摘されなかったり、指導や確認が不十分だったりしていたケースもあります。

命を預かる観光船事業 実効性あるチェック体制を

国は今回の事故を受けて、今後、「運航管理者」については筆記試験を取り入れ、業者側の届け出に対し、国が事実関係を確認する対策を検討することになりました。
また、監査については、指導した内容を継続的に、徹底的にフォローしていくといった方向性が示されています。
観光船事業は危険を伴う海の上で人の命を預かることから、国の許可事業になっています。国にはずさんな安全管理体制を見過ごしてしまった今回のことを教訓に、チェック体制について実効性のある改善策を実行に移してほしいと思います。 

知床・観光船沈没事故について、元従業員による新たな証言も取材しました。
運航会社元従業員が証言 安全教育・出航判断の実情

2022年5月26日

関連情報

北海道新幹線開業5年 札幌延伸へ のしかかる課題

ほっとニュースweb

2021年3月25日(木)午後3時40分 更新

どうなるサケマス交渉、専門家に聞く

ほっとニュースweb

2022年4月12日(火)午後4時02分 更新

PCR検査・抗原検査 予約集中で受けづらい状態

ほっとニュースweb

2022年1月21日(金)午後7時11分 更新

上に戻る