NHK札幌放送局

防風林が生物の”シェルター”に

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2022年9月1日(木)午後5時45分 更新

農地の脇にずらーっと並ぶ防風林。風から農作物を守るのが役目で、北海道を代表する農村景観としてもお馴染みではないでしょうか。実は最新の研究で、防風効果にとどまらない、動植物の多様性を守る”シェルター”という新たな側面があることが分かってきたんです。
(NHK帯広放送局 米澤直樹記者) 

防風林に絶滅危惧種!?

さっそく、十勝の更別村にある防風林に取材に向かいました。案内してくれたのは、防風林と生物の関係を研究している道総研=道立総合研究機構の速水将人さんです。

今回案内してもらったのは、自治体などが管理する「防風保安林」。幅数十メートルに渡って立ち並び、農地と農地の間に、まるで森のような空間を作り出しています。防風林に入るには管理者の許可が必要で、今回も更別村の許可を得て入林しました。

防風林の中に入ろうとすると、さっそく、速水さんがある生き物を見つけました。「ゴマシジミ」です。北海道・東北で見られる亜種は環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されていて、交尾の様子が見られるのは珍しいといいます。

さらに、防風林の中に入っていくと、足もとに珍しい植物が見つかりました。がく片が鐘のように見える「クロバナハンショウヅル」です。環境省が絶滅危惧種に指定している希少な植物です。

さらに、絶滅危惧種の樹木も見つかりました。「ヤチカンバ」です。これまで国内では更別湿原と別海町の西別湿原でしか確認されていませんでしたが、4年前、速水さんらがこの防風林の中で自生しているのを初めて見つけました。

防風林がシェルターに

話は戻りますが、ここは人里離れた山奥ではなく、十勝平野に広がる防風林の中です。どうして希少な動植物が生息しているのでしょうか。

道総研林業試験場 速水将人 研究主任
「実はこのあたりは、もともとかなり広い範囲で湿原が広がっていたということが、過去の航空写真からわかっています。湿原のなごりの植生が防風林の中に残っていたと考えられています」。

1947年に米軍が撮影した航空写真を見ると、この防風林の周辺には、およそ600ヘクタールに及ぶ湿原が広がっていたことが分かります。

農地開拓が進む中で湿原は姿を消していきましたが、同時に植林が進んだ防風林の中で、湿原性の植物が適応し生き延びてきたと考えられているのです。防風林が生物にとっての避難場所、「シェルター」として機能しているのです。

人間の管理も重要な役割

シェルターとしての機能をどうすれば維持できるのか。実は、防風林をそのままにしておくだけで、希少な動植物を守れるわけではないといいます。速水さんらの最新の研究で、「人間が防風林を管理すること」が、重要な役割を果たしていることが分かってきたのです。

防風林は樹齢を重ねると防風効果を保てなくなるため、定期的に植え替えが行われています。植え替えが行われた場所では、苗木の成長を助けるために「下刈り」作業が行われます。

下刈りによって苗木がほかの植物に覆われて光合成できなくなってしまうのを防ぐのです。すると、防風林のあった場所が、「更新地」と呼ばれる明るい空間になります。

こうした明るい空間を好む植物もいるのです。十勝地方の別の防風林のそばの土地を、速水さんに案内してもらいました。そこで見つかったのは、マメ科の「ナンテンハギ」という植物です。この植物は、下刈りが行われる明るい場所でしか生育できません。

ナンテンハギを唯一のエサとしているのが、近年急速に数を減らしている「アサマシジミ北海道亜種」というチョウ。シマフクロウやタンチョウと同じ、国内希少野生動植物種に指定されていて、ごく近い将来の野生での絶滅の危険性が極めて高いとされています。人間が防風林を適切に管理することが、絶滅が危ぶまれるチョウの保全につながるのです。

道総研林業試験場 速水将人 研究主任
「ナンテンハギは草刈りが行われることで競争相手に負けないで生育することができます。チョウですから、飛んできてもしかしたら卵を産んでくれるかもしれない。アサマシジミ北海道亜種が好む生息環境を残していくことは、保全上重要なことではないかと考えています」。

速水さんと、「兵庫県立人と自然の博物館」の中濱直之研究員らの最新の研究によりますと、人間が防風林を管理することで、4種類の異なる環境が生まれるということです。
▽「防風林内」、▽「林の縁」、▽植え替えが行われた「更新地」、そして▽防風林の周辺にできる「草原」です。人間が作り出す防風林周辺の様々な環境。それぞれをよりどころとする生物がいるのです。

生態を踏まえて植え替えを

希少な動植物を守るシェルターとなっている防風林。しかし、防風林の多くが植えられて半世紀ほどたち、植え替えの時期を迎えようとしています。速水さんは、防風林に守られている動植物の生態をふまえて植え替えを進めることが、生物多様性を守るために欠かせないと考えています。

道総研林業試験場 速水将人 研究主任
「生物多様性を維持、保全していくという世界的な目標に応じて、今後どんどんニーズが高まってくると思います。人間が作りだす環境といっても、防風林の中ではそれぞれ別の環境ができて、重要な役目を果たしている。適切に維持管理していくことが生物多様性の保全にとってもかなり重要だと思います」。

防風林は大きく分けて、今回取材した自治体などが管理する「防風保安林」と、農家個人が所有する「耕地防風林」の2種類に分かれています。十勝地方では近年、耕地防風林が大幅に減少しています。いったいなぜ・・・。それはこちらの記事から。「北海道農業の転換点?消える防風林」。

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