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5分以内に家を出られる? 白糠町で“新・避難訓練”

  • 2022年12月15日

12月16日に運用開始の「北海道・三陸沖後発地震注意情報」。マグニチュード7クラスの地震が発生したあと、さらに巨大な地震が起きるかもしれないと注意を呼びかけるものだ。大津波警報や避難指示などとは違ってすぐに避難する必要はないものの、日常の生活を維持しつつ、すぐに行動できるよう備えておくことが求められる。
12月10日、運用開始を前に北海道白糠町で新たな避難訓練が行われた。訓練からは後発地震注意情報が発表された場合に、どう行動したら良いかのヒントが見えてきた。
(釧路局記者 島中俊輔) 

白糠町 人口の7割死亡の想定

道東の白糠町。海沿いに住宅が建ち並んでいて、千島海溝沿いの巨大地震では最大16.5mの津波が想定され、最悪の場合、人口の7割にあたる5000人が死亡すると推計されている。

役場がある白糠市街地区は約1.5km離れた高台が避難場所になっている。そこまで20分以内に徒歩で避難できるよう、町は住民を対象にした避難訓練を繰り返して行ってきた。ただ、地区の高齢化が進み、訓練への参加者が年々減っているのが課題となっていた。

白糠町地域防災課 菊原秀雄課長
「高齢者からは『足腰が弱くなってなかなか歩くのが大変』『冬になると高台に行くのが億劫だ』という声が上がっていた。津波指定避難場所への避難訓練の参加者が少なくなっていることを町として危惧していた」

新・避難訓練 家を出るまで5分以内に

そこで町が企画したのが高台まで逃げない“新・避難訓練”だ。身支度をして家の外に出たら終わり、という新たな方法で行われた。家を出るまでの目標タイムは5分以内。1分でも、1秒でも時間を短縮することが命を守ることにつながる。

白糠町地域防災課 菊原秀雄課長
1分1秒でも早く避難していただくといった啓発をしていかないといけない。家から外に出るまでの時間をいかに短くするというところが目的としてある」

訓練に密着!①準備していても…慌てる

訓練当日。2つの家庭に密着取材した。

共栄町内会の会長を務める笠原邦夫さん。妻の茂子さんと2人で海から50m離れた自宅で暮らしている。朝9時、サイレンの音とともに「大津波警報が発表されました」という防災無線が流れる。笠原さんは事前に用意しておいた非常用リュックを手に取る。この訓練のために「緊急時に必ず持って行くものリスト」をリュックにつけておいた。携帯電話、両親の遺影、鍵。笠原さんはリストを読み上げながら、ストーブを切り、電気を消して外へ出ようとしたときだ。茂子さんが家の中に戻ってしまった。「鍵!」。リストにも書いていた鍵を忘れてしまい、少し時間をロス。
家を出るまでにかかった時間は3分57秒だった。

笠原邦夫さん
「5分以内に準備して逃げましょうという訓練だったので、何を選択して詰めたらいいかを考える1つの判断の場になったと思います。チェックリストがあった方が慌てずに避難用具を詰め込むことができると思って今回の訓練のために作りました」

訓練に密着!②すでに防寒着…実は大切

真下功さん、キンコさん夫婦の家庭。功さんは足が悪いため、訓練が始まる前にすでに防寒用ズボンを履いていた。訓練が始まると玄関に置いてあった上着だけを羽織り、非常用のリュックを背負う。冬用のブーツをはいて、外に出た。そのタイムはわずか1分37秒だった。

功さんがあらかじめ防寒用ズボンを履いていたのは一見ズルをしているように映るが、実は必要な備えだ。特に冬場に後発地震注意情報が発表された場合、すぐに外に出られるよう防寒着を着ておくなどの対応が求められる。

真下功さん
「すぐに避難する心がけができたから、これまでとはだいぶ違うと思う。これからは本当にすぐに避難しなくちゃという気持ちになりました」

お年寄りも、体に不安がある人も 大勢が参加した意義

今回の訓練には共栄町内会の20人以上が参加した。町内会長の笠原さんは、これまでの徒歩訓練には参加していなかったお年寄りや足の不自由な人なども参加してくれたことが嬉しかったと話す。

共栄町内会会長 笠原邦夫さん
「高齢者の中には諦めの気持ちも強かった。『どうせ私たち高齢者だし、足も遅いし、20分以内に避難場所まで行けないから、皆さん元気な人だけで逃げて』と。ただ今回は家の外に出るだけなので、高齢者や体の不自由な方も参加してくれていたので、大変よかったです」

「常に逃げる準備態勢を整えておけば5分以内で逃げられる。そうすると何千人もの命が助かるわけですから、そういう意識付けができたのは、すごくいい訓練だったと思います」

最も重要な“すぐに避難を始められる準備”

今回の避難訓練は、以前からもともと予定されていたものだ。しかし、白糠町地域防災課の菊原秀雄課長は後発地震注意情報が発表された場合、「すぐに避難を始められる準備をしておくこと」が最も重要なポイントになると指摘する。

白糠町地域防災課 菊原秀雄課長
「道の被害想定では、いち早く逃げることによっておおむね被害を5割から9割は低減できるとしている。津波避難は基本的には事前の準備がとても大事。訓練を通じて、避難を始める準備時間がどれくらいかかったのか、それをどれだけ短くできるかということを確認してもらうきっかけになったと思う」

取材後記

情報が出た場合でもすぐに避難所に向かうことは呼びかけられないし、すぐに避難する必要はありません。ただ、求められるのは各家庭での「備え」や「確認」です。

▼防寒具などを身につけておくことや枕元に置いておくことは有効です。
▼いつも使っている薬や子ども用のミルクなど各家庭で必要なものが準備されているか、確認しておくことも大切です。

このほかにも次の点は出来ていますか。
▼非常用持ち出し袋はすぐに取り出せるか。
▼備蓄品の賞味期限は切れていないか。
▼家の中でタンスなど倒れやすいものはないか、家具は固定しているか。
▼避難経路や避難場所はどこか。

「後発地震注意情報」の運用開始にあわせて、日頃の「備え」や「準備」をもう一度振り返る機会にしてみてください。

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