NHK札幌放送局

スピードスケート育成改革!

ほっとニュース北海道

2021年5月24日(月)午後3時08分 更新

スピードスケートの若手トップ選手を育てる環境がいま、大きく変わろうとしています。

日本スケート連盟は、高校生の選手育成について新たな強化プロジェクトをこの春から始めました。
その舞台となっているのが十勝です。
十勝から世界を目指す取り組みに迫りました。

エリートアカデミー誕生

ことし4月、日本スケート界、肝いりのプロジェクトがスタートしました。
プロジェクトの名前は「スピードスケート エリートアカデミー」。

エリートアカデミーとは、オリンピックで活躍できる選手を育成するため、有望な若手選手の“英才教育”を行うプロジェクトです。
その先駆けとなったのはJOC=日本オリンピック委員会が卓球やレスリングなどの選手を対象に2008年から始めた取り組みです。
JOCのアカデミーでは、選手たちは東京・北区のナショナルトレーニングセンターを拠点に、近隣の学校に通いながら競技に専念する生活を送ります。
東京オリンピックでの活躍が期待される卓球の張本智和選手も、JOCのアカデミー出身です。張本選手は中学進学を機にアカデミーに入校し、わずか4年後に東京オリンピック代表に内定しています。
張本選手以外にも、卓球の平野美宇選手やレスリングの乙黒拓斗選手などがアカデミーを卒業し、国際大会で成果を上げています。

このJOCのアカデミーのいわばスピードスケート版が、今回誕生した新プロジェクト「スピードスケート エリートアカデミー」なのです。
日本スケート連盟がJOCのアカデミーを参考に、独自に設立しました。

その拠点に選ばれたのが十勝でした。
十勝にはナショナルチームが練習する施設「明治北海道十勝オーバル」があり、練習環境に恵まれているからです。

選手育成に大革命

アカデミーは日本のスピードスケート選手の育成方法を大きく変える試みです。

これまでは、高校生世代の選手は基本的にそれぞれの高校のチームに育成が任されていました。
これに対し、アカデミーは中学生世代から有望な選手を早期に選抜。
連盟のコーチやスタッフが直接指導するなど、ナショナルチームと連携した強化を高校生世代に広げ、一貫した育成の仕組みを作るねらいです。

日本スケート連盟は、2014年に所属の枠を越えてトップ選手を集めて強化するナショナルチームを創設し、2018年のピョンチャンオリンピックでメダル量産の原動力になりました。そこで、ナショナルチームの計画的なトレーニングを若い高校生世代にも適用し、効率的で一貫した強化の仕組みを作ろうとしているのです。

スピードスケート エリートアカデミー 椿 央 ヘッドコーチ
「これまで高校生世代は各高校に強化を任せていたような状況でした。
 新たに誕生したアカデミーでは、各高校に任せるのではなく、日本スケート連盟が一貫教育のような形で強化してトップチームにあげていけるような仕組みを作っていきたいです」

1期生はただ1人

アカデミーの1期生として入校したのは、埼玉県出身の飯田明音選手。15歳の高校1年生です。
専門は中長距離で、昨シーズンの中学生女子3000メートルでは全国でトップの記録を残した期待のホープです。

飯田選手が目標としているのは、オリンピックの金メダルです。
しかし、中学校まで過ごした埼玉では、練習環境が悩みの種でした。
練習できるスケートリンクが自宅から遠く、学校が終わってから2時間ほどかけて母親・香里さんが運転する車に乗り、練習が終わって自宅に帰ると深夜、という日々。
その上、指導者も少なく、1人で練習する時間もありました。
大会では練習環境が整っている北海道や長野の選手に負けて、悔しい思いをしました。
そんな中、エリートアカデミーの誘いを受けて入校を決断。
入校の理由は、やはり、練習環境でした。

飯田明音選手
「十勝はリンクもトレーニングルームも近く、練習環境がすごく整っています。コーチやスタッフの方々もたくさんいて『こんなに自分1人についてくれるんだ』とびっくりしました。練習環境が整っているところで自分を追い込むために入校しました」

選手1人にコーチ2人!手厚い指導

飯田選手が驚いたというアカデミーの練習環境ですが、アカデミーは普通の高校では見られないような手厚い指導体制をとっています。

指導にあたるのは椿央ヘッドコーチと、タッカー・フレドリックスコーチの2人のコーチです。
椿コーチは、スピードスケートの強豪校、山形中央高校の元監督です。元日本記録保持者でバンクーバーオリンピックの銅メダリスト、加藤条治選手を高校時代に指導するなど、数多くのオリンピック選手を育てました。
アメリカ人のタッカーコーチは、現役時代、ワールドカップ男子500メートルで総合優勝の経験があり、現在はナショナルチームで日本のトップ選手を指導しています。

この2人の指導のもと、飯田選手はいま、シーズンに向けて陸上でのトレーニングに励み、自らのスケートを一から見直しています。

陸上でローラースケートをはいてフォームを確認する「インラインスケート」の練習では、コーチ2人が飯田選手のひとつひとつの動作に目を光らせていました。
改善すべきところが見つかると、一度動きを止めて、ひとつずつ丁寧にアドバイスを伝えます。

飯田選手はアドバイスをもとにフォームを基礎から見直し、低く美しいフォーム作りに取り組んでいました。

タッカー・フレドリックス コーチ
「基礎から指導しています。完璧な選手なんていないのでスケーティングの基本となる動きに焦点をあてています。飯田選手には、情熱を持って練習に励み、スケートを楽しんでもらいたいです」

さらに、アカデミーでは「一貫教育」を念頭にした合同練習も行っています。
飯田選手がいっしょにロードバイクの練習に取り組んでいるのは国内トップレベルの選手たちです。

十勝を拠点にする選手たちと合同で練習を行うことで、トップ選手の実力や練習への姿勢を肌で感じることができます。

ウイリアムソン レミ選手
「飯田選手と練習して自分たちもいい刺激になりました。
 アカデミーではすごく恵まれた環境で練習できるのでうらやましいくらいです。飯田選手は将来楽しみな選手です」

2人のコーチからの綿密な指導と、トップ選手との合同練習。
この手厚い指導体制に飯田選手も手応えを感じています。

飯田明音選手
「経験豊富な2人のコーチに見てもらえるだけでなく、レベルが高い先輩方と一緒に練習ができるなんて夢のようです。昔はただ楽しいからスケートを滑っていましたが、今はコーチからのアドバイスをどう生かすのか考えて練習できますし、目指すべき先輩方を近くで見ることができるのでモチベーションが上がります。とても貴重な経験で、どちらも中学校の時までは経験したことがありませんでした」

スケート漬けの日々でも…

スケート漬けのアカデミーの日々ですが、高校生の飯田選手にとっては、勉強も大切な時間です。
日中の練習が終わったあと向かうのは帯広市の通信制高校「星槎国際高校 帯広学習センター」です。
通信制のカリキュラムでは練習に合わせて時間割を組むことができ、競技と勉強の両立を図ることができます。

例えば、練習に集中したい時は授業を入れずに1日中練習を行い、練習がオフの日に集中して授業を組むなど、スケートを優先しながら勉学にも取り組むことができます。
通常の高校では、授業の時間が決まっているため、練習時間が夕方に限られるほか、学校行事などが優先される傾向にありますが、この高校では、大会で長期間不在になっても授業から遅れてしまう心配もありません。

高校の授業とは別に、アカデミーでは独自のオンライン授業も行っています。スポーツ医学や栄養学など、競技に生かせる授業や、引退後を見越したコーチング論などの授業を通じ、専門知識を学ぶことができます。

飯田明音選手
「中学校の時までは練習と勉強の両立は大変でしたが、この高校では練習を優先した上で学校でも効率的に勉強できるのでうれしいです。学年関係なく好きな授業を受けることができるので自分の興味も広がります。学校の先輩や友達が練習頑張ってねと声をかけてくれて、学校に行くのも楽しみのひとつになっています」

十勝から世界へ

学校が終わったあと、飯田選手が戻ったのは帯広市の下宿先です。
ようやく息抜きの時間?と思いましたが、飯田選手は下宿先でもスケートのことを考えていました。

飯田明音選手
「練習ノートを毎日書いています。練習の目標や体調を書いて、その日に何を意識して練習したか、どこを工夫したかを細かく記録して、次につなげることを意識しています。練習ノートは椿コーチに提出して、コメントをもらっています」

さらに、指導してくれるタッカーコーチとの会話をより深く理解するために、英語の勉強にも励んでいます。英語はこれから目指す、世界の舞台でもコミュニケーションツールとして欠かすことはできません。

ふるさとを離れ、十勝で新たに始まったスケート漬けの日々。飯田選手は多くのサポートを受け、世界の舞台を目指しています。

飯田明音選手
「コーチやスタッフ、先輩など多くの人に支えられています。この環境を生かして、結果で感謝の気持ちを返せるように頑張りたいです。アカデミーにいる間に世界ジュニアオリンピックでメダルを取ることが目標です。将来はオリンピックで金メダルを取りたいです」
椿 央 ヘッドコーチ
「アカデミーは、覚悟さえあれば、多くのことを身につけられる環境だと思います。このアカデミーから2030年のオリンピックに出場できるような選手を育てていきたいです。アカデミーを通して、競技力だけでなく人間力も身につけて、魅力的な選手になってほしいです」

取材を終えて

十勝に赴任してもう少しで2年がたちます。取材を通して様々な人と出会い、十勝ならではの魅力に触れ、多くの驚きや感動がありました。その中のひとつがスケートです。帯広では冬の時期になるといろいろな場所にスケートリンクが登場します。通りがかった時にのぞいてみると、びっくり。滑っている人たちが驚くほど上手に滑っているのです。プロの選手かと思い、話を聞いてみると、みんな素人でした。十勝では学校の授業でスケートがあり、十勝人ならほとんどの人がスケートを滑ることができると言うのです。京都で生まれ育った私はスケートを滑ることができず「スケートも滑れないのか」と地元の人の驚いた表情を今でも鮮明に覚えています。
そんなスケートの可能性に満ちあふれた十勝から、スピードスケートの新たなプロジェクトが始まると聞いて取材すると、これも、驚きの連続でした。特に、2人の敏腕コーチが1人の選手をじっくりと指導する光景はこれまで見たことがありませんでした。ここから何かが変わりそうだと実感しました。札幌市が招致を目指している2030年の冬のオリンピックで、北海道で育った飯田選手の活躍が地元で見られることを期待しています。

取材:帯広放送局 原祢秀平記者

2021年5月17日放送

NHK帯広 原祢記者の記事はこちらにも

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