NHK札幌放送局

北海道でオーロラが見られるって本当?

北海道道

2022年11月18日(金)午前11時46分 更新

オーロラといえば、北極や南極などの高緯度地域だけで見られる絶景と思っていませんか?実は、北海道でも、これまで何度もその姿が目撃されてきています。その名も“低緯度オーロラ”。通常のオーロラとは異なり、夜空を“真っ赤”に染めるというその光景は、目にした人が「生涯忘れることのできない夜空」と語るほど。
およそ三十年に一度目撃記録があるこの低緯度オーロラ。実は今、再び出現する可能性が高まっているんです。 

奇跡の絶景 ~生涯忘れることのできない夜空~

1958年の冬。
中川一江さんは、生まれ育った平取町の空が、一面真っ赤に染まるのを目にしました。

「一般的にいうオーロラのカーテンのような光景ではなくて、赤にオレンジ色が混ざったような、そういう燃えるような赤がずっと見えました。そのときに怖いとか、そういう風に思った記憶はなくて、神秘的というか」

農家を営む大家族、六人兄弟の末っ子として育った中川さん。赤いオーロラを目撃したのは、家族がそろっていたときのことでした。それは、夕食後、子供たちが眠りにつく直前の出来事。

中川さん「家の北側に廊下があったんですけれど、その窓から見たんじゃないかと思います。そこに兄弟が集まっていて、みんな山火事ではないか?と言っていた」

「二階でみんな、子供たち寝ていたでしょ。だから、廊下を通らなかったら二階に上がれなかった。もう子供だから早く寝なさいっていうことで、みんなで廊下に行ったら、すぐにオーロラが見えた。そしたら、あれなに?赤くなって、見てみて、っていうような感じだったと思うんだけどね」

中川さん「私の記憶では、母が、火事ではないよ、オーロラだよって教えてくれた気がします」

その後両親は他界し、きょうだいは就職や結婚を機に離れて暮らすようになりました。今、鮮明によみがえる赤いオーロラの記憶。それは、家族をつなぐかけがえのない光景だと教えてくれました。

「共通の記憶という財産です。この歳になって、そういうのを見つけられた。共通した記憶を辿れるっていうのが、すごく嬉しいですよね」

なぜ北海道でオーロラが見られるの?

そもそも、オーロラとはなんなのか。皆さんはご存じですか?
低緯度オーロラ研究の第一人者、名古屋大学の塩川和夫教授に、そのメカニズムを教えてもらいました!

①太陽などから放出されたプラズマが、地球の磁力(磁気圏)の影響で高緯度地域に降りこみます。
②すると、その宇宙空間から降りこんだプラズマが、高緯度地域の大気と接触。
③その反応として、大気が光り、オーロラがあらわれるんです。

私たちがテレビでよく目にする、あのカラフルなオーロラは、高緯度地域の「大気」が光っているもの!
一般的には、その高度によって色が違うと考えられていて、高度150km以上が赤色、高度100~200kmが緑色、高度90~120kmが青色と考えられています。
※オーロラが光るのは、高度80~600km付近。なかでも100~300kmが最もよく光るそうです。

では、どうして北海道でオーロラが見られるのでしょうか?しかも、赤いオーロラが。

④高緯度地域に発生するオーロラは、北海道から北の空をみたとき、地平線の下に隠れて見えません。
⑤しかし、太陽での大規模フレア発生などの要因で、大量のプラズマが地球に降りこむと…
⑥オーロラの発生範囲が低緯度側に広がります。
⑦この低緯度側に発生したオーロラ=低緯度オーロラの“上部”を北海道からは観測していると考えられます。

そう、だから、北海道で観測されるオーロラは、低緯度オーロラと呼ばれているのです。
色が赤い理由は2つ考えられています。
一つは、通常と同じく高度により色が違うオーロラの、上の方を見ているという可能性。
もう一つは、低緯度オーロラは全体が赤い特殊なオーロラで、北海道ではその姿を見ているという可能性です。
塩川先生の研究では過去の記録を参照し、どちらの場合でも、実際に北海道で赤いオーロラが見られていると指摘しています。めったに出現しない低緯度オーロラなだけに、まだまだ研究が進んでいる最中とのことです。

まもなく見られる!?北海道のオーロラ

では、いつ北海道でオーロラを見ることができるのでしょうか?
塩川先生によると、「正確な日時や時期を予言することはできない」とのことですが、そのヒントはあると教えてくれました。それが、上の説明にも出てきた「太陽での大規模フレアの発生」です。
こちらは、NASAの人工衛星が特殊なカメラで撮影した太陽の写真。このなかで、緑白色の光が飛び出しているのが、太陽フレア=太陽表面での爆発です。この爆発が起きると、太陽からプラズマが放出され、2~3日後に地球へと届きます。そして、地球の正面で、大規模な太陽フレアが発生したときこそ、北海道でオーロラが観測されるかもしれないというんです。

そして、まさに今、大規模な太陽フレアが発生する可能性が高まっています。もう一枚、画像を見てください。これは、同じくNASAの人工衛星が太陽の表面を撮影した写真です。オレンジ色の表面のなか、黒く見えるのが“黒点”と呼ばれる部分です。周囲よりも温度が低いこの黒点こそ、太陽フレアが発生しやすい場所なのです。

したがって、黒点が増えれば増えるほど、北海道でオーロラが観測される可能性が高まるわけですが、実は黒点は約11年の周期で増えたり減ったりすることがわかっています。そして、今は黒点が増加する太陽の活動が活発な時期へと突入し、今後数年間、その可能性が高まっていくと考えられるのです。

町の歴史を変える!?赤いオーロラの写真

まもなく北海道で観測されるかもしれない赤いオーロラ。その魅力は、ある町の歴史を変えてしまうほど。
こちらは、1989年10月21日に北海道陸別町で撮影された赤いオーロラの写真です。撮影したのは、当時役場の農林課で働いていたアマチュア天文家の津田浩之さんでした。この一枚をきっかけに、陸別町の町づくりは大きく変化していくことになります。

撮影当時、世紀の大発見として新聞各誌にカラーで掲載されたこの写真。世界的なオーロラ研究の泰斗、名古屋大学の上出洋介教授の目に留まります。研究拠点を探していた上出教授、陸別町を視察したのち、次のような言葉を残しました。

「陸別町は低緯度オーロラの理想的な観測拠点」
「陸別町はまさに宇宙への窓」

このことをきっかけに、国内外の研究者の注目を集めた陸別町では、ある計画が立ち上がります。
それが「銀河の森天文台」の建設計画でした。チームのリーダーを務めた野下純一さんは、こう振り返ります。

「小さな町の大きな挑戦。小さくても、遠くても、きらりと光る町なんだよと知ってもらおうと。どうしてもこれは失敗できないぞっていう緊張感があった」

山に囲まれた陸別町は、周囲に大きい市街地がなく天体観測の最適地。天文台の建設予定地に選ばれたのは、なかでも、電気や水道、道路さえ通っていない山の上でした。前代未聞、多額の予算がかかる計画に町民の理解を得るため、オーロラの勉強会や国際会議の開催、星空の観測会などを開催した天文台建設チーム。町民のなかで次第に「オーロラのまち」というイメージが育っていきました。
そして、1998年。国内最大級直径115cmの望遠鏡が設置され、銀河の森天文台は完成したのです。

現在、天文台では、館内に宇宙を楽しめる展示が施され、もちろんオーロラにちなんだものも!天文台をきっかけに、陸別町は正真正銘「オーロラのまち」とも呼ばれるようになり、国内外にその存在を知られています。

夜空を眺めると、満点の星空が広がっています。

そして、今年4月。新たに三代目となる館長が就任しました。1989年に赤いオーロラの写真を撮影した、津田浩之さんです。津田さんは、赤いオーロラがもたらした奇跡を、こう語ります。

「あのとき赤いオーロラに出会っていなかったら、銀河の森天文台につながるすべての動きはなかったなと思いますね。オーロラにまつわる話が全くゼロになるわけですから、考えてみたらすごいことだったと思います。そして、今では館長にまでなってしまっているわけですから、それは人生変わりましたよね」
「世界を変える力を持っている。そういうオーロラじゃないかと思います」

現在名古屋大学などと協力し、最先端のオーロラ研究を進めている銀河の森天文台。津田さんは、今後北海道でオーロラが再び見られる可能性について、最後にこう話してくれました。

「非常に期待感はありますね。オーロラが来週出ないかっていうとそうとは言い切れないというレベルの状況ではあると思います。一か月先はもう本当にわからないですね。出ててもおかしくない。それくらいの太陽の活動期に入っていると思います」

見た人の人生の記憶のなかに鮮明に焼き付くという赤いオーロラ。
またある人は、人生を変えられたとさえ表現する奇跡のオーロラ。

みなさんは、そのとき、どこで、誰と、どんなことを想いながら、眺めるでしょうか。
ふとした日常に、夜空を見上げてみませんか?

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