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津波から逃れたあとも…低体温症から命を守るには

ほっとニュースweb

2022年3月14日(月)午後8時04分 更新

去年12月に国が公表した巨大地震の新たな被害想定では、「低体温症による死亡リスク」が初めて盛り込まれました。日本海溝や千島海溝を震源とする巨大地震では、低体温症によって最大で2万人近くが命の危険にさらされると想定されています。北国で暮らす私たちにとって欠かせない寒さへの備え。命を守るためには何が必要なのでしょうか。(NHK帯広/米澤直樹記者)

真冬に地震・津波に襲われたら…

真冬に大地震が起きたらどうなるのか。寒さが厳しい道内では特に備えが欠かせません。太平洋沿岸の十勝の広尾町は千島海溝を震源とする巨大地震が起きると、最大25点4メートルの津波が押し寄せるとされています。ことし2月、この広尾町で、真冬では初めてとなる津波を想定した避難訓練が行われました。訓練に参加した町の人たちから聞かれたのは、寒さに対する不安の声でした。

訓練に参加した住民
「きょうはカイロなども持ってきていますが、真冬に実際に地震が起きたときに、どのように自分が対処できるのかなというのはいつも不安に思っています」

被災者を襲う寒さ 11年前にも

厳しい寒さの中での被災。その状況に直面したのが11年前の東日本大震災の被災地です。宮城県気仙沼市で高齢者施設を運営する猪苗代盛光さんは、当時、施設の脇にある研修施設にいる時に大きな揺れに襲われました。
津波が来ることを直感した猪苗代さんは、すぐに自らの施設に戻り、入所者や利用者あわせて133人とともに2階に避難しました。しかし、津波は間もなく2階まで到達し、水は胸の高さまで襲ってきました。猪苗代さんや職員は、高齢者を両脇に抱えながら施設の中を流されたといいます。やがて津波は引いていきましたが、直後に襲ってきたのが、寒さでした。

猪苗代盛光さん
「当日は雪の降る寒い日でした。水に濡れなかった備品のオムツを高齢者の体に巻いて、なんとか寒さをしのごうと必死でした」

避難所に逃れても…

翌日、猪苗代さんたちは、避難所となっていた近くの学校の体育館まで避難しました。体育館にはジェットヒーターが3台あったものの、停電で使うことはできませんでした。地域の人が持ち込んでくれた家庭用のストーブ2台を囲むようにして暖をとりましたが、体育館は天井が高く、施設全体を温めることはできませんでした。結局、津波で濡れた洋服は半乾きのままで、食事もまともに取れない中、猛烈な寒さに襲われたといいます。

猪苗代盛光さん
「体育館の寒さとフローリングの冷たさとで、普通の寒さではありませんでした。高齢者はだんだんと言葉を発しなくなり、動きもなくなる中で、夜中に突然車いすごと倒れるなどして亡くなっていきました」

体育館に避難してから4日間で、高齢者12人が相次いで亡くなりました。津波から逃れても襲ってくる寒さに、当時はなすすべがなかったといいます。

猪苗代盛光さん
「自分の服を脱いで高齢者にかけてあげるくらいのことしかできませんでした。津波で助かった命なのに無情ですよね。寒さに耐えていかなければならないということで、津波に加えて二重の困難が襲ってくると感じました」

命を守るために…対策も

津波から逃れた後にどう命を守っていくのか。道内では備えも始まっています。2月に避難訓練を行った広尾町では、避難した住民が数日間暖をとりながら生活できる施設を去年12月、新たに整備しました。

この施設は、およそ10年前から地元の住民らが建設を要望していた待望の施設で、中には薪ストーブもあり、電気がなくても暖房を使うことができます。

低体温症は“防ぐことができる”

こうしたハード面の整備に加えて必要なのが、低体温症を防ぐポイントを事前に知り、備えておくことです。事前の備えの重要性を指摘するのは、低体温症や対策に詳しい大城和恵医師です。

大城医師は冒険家の三浦雄一郎さんのエベレスト遠征にも同行した経験のある国際山岳医です。「低体温症は防ぐことができる」とした上で、ポイントは4つあると指摘します。

北海道大野記念病院 大城和恵医師
「低体温症への対応として『食べる』『隔離』『保温』『加温』の4つのキーワードを覚えてください。軽度の段階で低体温症に気づき、適切に対応することで、自力で回復することは可能です」

【食べる】
4つのキーワードに、それぞれどんなねらいがあるのでしょうか。まずは「食べる」。おしるこやカップラーメンなど、カロリーの高い食べ物を取り、体の内側から熱を生み出します。寒い環境下では多くのカロリーを消費するので、食べられるうちは食べ続けることが重要です。

【隔離】
そして「隔離」。聞きなれない言葉かもしれませんが、熱を奪うものから体を「隔離」することです。まず第一に、雨や風などから身を守るため、建物の中やテントの中に入ります。さらに、ぬれた衣服は脱ぎ、乾いた衣服に着替えます。水は空気と比べて20倍も熱を奪いやすいため、濡れた衣服を着たままにすると、一気に体温が奪われてしまうということです。

大城和恵医師
「10度の空気の中にいるのと、10度の水の中にいるのを想像してもらえれば、いかに水が熱を奪うかが想像できると思います。着替えがない場合には、裸になってビニール袋をかぶり、ぬれた衣服が直接肌に触れないようにするのも1つの手です」

【保温】
さらに毛布などで熱が逃げないように体を覆い「保温」します。この際、帽子などがあればかぶります。頭や首などからも熱が逃げていくため、極力、露出する面積を減らすことが大切です。

【加温】
そして、4つのキーワードの中でも、大城医師が特に効果的だと指摘するのが「加温」です。体を「加温」する際に便利なのが湯たんぽです。湯たんぽを当てる体の場所は胸が最も効果的だといいます。温まった血液を胸から全身に送ることで、体温を効率よく温めることができるからです。一方、注意が必要なのが冷えた手足を温めてしまうことだといいます。

大城和恵医師
「手足を温めると、手足の冷たい血液がむしろ心臓に入り込んできて、もっと体温が下がってしまうので、体に負担がかかり危険です」

同じ理由で、温かいシャワーを浴びたり、入浴をすることも逆に危険だといいます。大城医師は、避難所など、熱が限られた環境下では、空間を温めることに熱を使うよりも、湯たんぽなどを作って体を直接温める方が効果は高いと指摘しています。

低体温症への備えを

低体温症を防ぐ方法を知り備えを進めることで、「低体温症による死亡リスク」は限りなく小さくすることができます。大城医師は北海道のような寒い地域では、いかに低体温症になるのを防ぐかが、命を守るために重要だと指摘します。その上で、防災備品として、防寒具をさらに充実させたり、湯たんぽに使うお湯を作ることができるカセットコンロを加えたりするなどの見直しも進めてほしいと話しています。

北海道大野記念病院 大城和恵医師
「ぜひ多くの皆さんに低体温症の知識を知っていただいて、とにかく自分で身を守るという意識を持ってもらいたいです。助かる命は必ずたくさんあると思います」


私たちは巨大地震にどう備え、行動すればいいのでしょうか。こちらの記事でも特集しています。

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