NHK札幌放送局

千島列島 歴史と大自然に閉ざされた島々

北海道クローズアップ

2020年1月31日(金)午後4時55分 更新

息をのむような大自然が、私たちの住む北海道のすぐ隣に広がっているのをご存知でしょうか。日本とロシアの国境に位置し、立ち入りが厳しく制限されている“ 千島列島 ”です。今回、道北の天売島在住のカメラマン・寺沢 孝毅さんが特別な許可を得て千島列島へ。人を恐れず近づいてくるトドの大群や、世界でもここでしか見られない海鳥など、数々の貴重な自然の姿を映像に記録しました。さらに、千島列島中部にあるライコケ島で95年ぶりの大噴火にも遭遇。知られざる千島列島の姿をお伝えします。

人から遠ざけられ、残された自然

今はロシアの支配下にある千島列島。日本との国境地帯ということもあり、立ち入りが厳しく制限され、NHKも長年取材することができませんでした。しかし、今回粘り強い交渉の末、カメラマンの寺沢 孝毅さんがロシアの科学調査船に乗り込むことに成功したのです。

「地理的に、北海道からずっと北に向かって島が連なっています。島では今まで人間の活動がほとんどなかったため、手つかずの自然が残っている。つまり北海道のもともとの原風景、ありのままの自然が見られるということで、どうしても行きたかった」(寺沢さん)

撮影場所となったのは、千島列島北部。

この海域の調査に何度も参加したベテランのクルーたちとともに、カムチャツカ半島最大の都市、ペトロパブロフスク・カムチャツキーの港から出発です。

船が進むにつれ、不思議な岩肌が見えてきました。

これは、溶岩が噴出して固まってできた断崖です。カムチャツカ半島から続く千島列島は、すべて火山活動でできています。

奇妙な形の岸壁は、海鳥たちの子育ての場所になっていました。日本では天売島でしか繁殖しない絶滅危惧種・ウミガラスも千島列島ではおびただしい数が生息しています。

繁殖期になると顔が赤くなる、ウの仲間・チシマウガラスの姿も見られました。

さらにトドオットセイの姿も。沖合いの岩場は、トドたちの格好の住みかとなっています。

2つの海流がぶつかり合う場所にある千島列島では、海藻や魚など多くの生き物が育ちます。豊富な食べ物が海鳥やトドなどを支えているのです。

人の手が入っていないからこその貴重な映像の連続。寺沢さんは、海の中で見たトド・オットセイの姿が特に印象に残っていると語りました。

「北海道でも見ることのできる場所は数か所あるんですけど、やはり圧倒的に違うのは数ですね。繁殖場所があって、そこでたくさんのトド・オットセイが上陸している。私が海の中に入ると、逃げるのではなく逆にどんどん寄ってくるんですね。その数が非常にすごくて、ヒレで身体を触られるんじゃないかと思うくらい。訪問する人間はほとんどいないので、私のことが珍しくて興味を持って確認をしに来たという風に見えました」(寺沢さん)

限られた場所でしか出会えない鳥

寺沢さんはどうしても撮りたいという海鳥・シラヒゲウミスズメを探しに、面積およそ5平方キロほどの小さな島・ウシシル島へ向かいました。

この島の岩壁の内側には入り江が広がっています。島が噴火した時にできた“ カルデラ ”と呼ばれる窪みに、海水が入り込んだものです。

早速、ミツユビカモメという大きさ40センチほどの海鳥の姿を発見。

日本国内では繁殖は観察されていませんが、ここにはたくさんの巣がありました。

夕方近くになり、カルデラの湾内にエトロフウミスズメという鳥の群れがやって来ました。

大きさ25センチほどで冠のような羽根が特徴です。そしてとうとう、この群れの中にお目当てのシラヒゲウミスズメを発見しました。

大きさは20センチほどで、“ ヒゲ ”のように見える羽根が特徴です。観察を続けているとペアの求愛行動、そして交尾も観察することに成功しました。

「この鳥は繁殖期の中でも、繁殖期の前半が美しいんですよ。というのは、白くて目立つ名前の由来にもなっている飾り羽がありますよね。これが非常に目立つのが繁殖期の前半。しかも、くちばしが真っ赤に変わる。そういう時期に最高の場面を撮影することができたのです」(寺沢さん)

シラヒゲウミスズメは分布が非常に限られていて、ほとんどこの周辺でしか見ることができません。ウシシル島は、カルデラの穏やかな入り江が求愛行動を行うのに適し、また島の草地が穴を掘って巣を作るのに適しているなど、好環境が整っています。

日が暮れかけると、外海から島へと大群が戻ってきました。

海でエサを食べた後、巣へと向かう鳥たちです。ウミスズメはヒナがかえってしばらくすると、島から離れてしまいます。この大乱舞は、一年のうちでもごく限られたときだけに見られるものだったのです。今回、シラヒゲウミスズメをはじめとする鳥たちのおよその数を把握できたという寺沢さん。今後の研究にも役立つのではないかと語ります。

「シラヒゲウミスズメについては、約3000羽。エトロフウミスズメはなんと100万羽、大雑把な数ですけれども。この数字はこれからこの島を訪問して、色々調査する方たちの足掛かりになると思います。例えば環境の変化で鳥の数が変わったときにはそこから増えたとか減ったとかいうことも言えるので、一つの基準として役に立つんじゃないかなと思います」(寺沢さん)

活発な火山活動と自然の復活

ライコケ島という島へ通りかかると、島全体が煙に包まれていました。

前日深夜、95年ぶりの大噴火が発生したのです。噴火したのは島の中央部にある火口。噴煙は高さ1万メートルまで立ち上り、飛行機の運行にも影響が出たほどでした。

もともとはほかの島と同様、海鳥たちの繁殖地だったこの島。大自然の猛威になすすべもなく、翻弄される鳥たちの姿が見えました。

「千島列島自体がもう火山だらけなんですけど、大噴火の翌日にその現場に居合わせて、どうなっているかという姿を今回記録できた。これは本当に偶然中の偶然で、ありえないことだと思うんです。私自身、島がこれからどうなるかっていうところにも興味があります」(寺沢さん)

寺沢さんは、偶然にも噴火数年後の島にも行くことができたのです。向かったのは、大噴火を起こしたライコケ島から50キロほど離れたチリンコタン島です。

250年以上前からたびたび噴火を繰り返しているこの島では、火山活動で失われた自然が回復しつつあるといいます。

最も新しい噴火は5年前。火山灰まみれの断崖を少し進むと、緑が見え始めていました。春、長い冬の間に降り積もった大量の雪が解け、火山灰を押し流してくれるため、緑の回復が早いのではないかと考えられています。

急斜面に生えた草地に降り立ったのは、フルマカモメ

この島で求愛を始めていました。

火山灰がなくなった岩場は再び、海鳥たちの繁殖場所に戻っていきます。

2019年9月13日(金)放送
北海道クローズアップ
「目撃!千島列島~歴史と大自然に閉ざされた島々~」より

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