NHK札幌放送局

デパート再建のカギは?再開したデパートを徹底取材

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2023年1月12日(木)午後7時22分 更新

まもなく閉店を迎える帯広市のデパート藤丸。デパートの経営悪化は全国共通の課題で、この10年間では全国のデパートの4分の1にあたる60店舗が閉店しています。一方神奈川県には、一度閉店したものの、地元の強い要望を受けて再開したデパートもあります。現地で取材すると、既存の枠にとらわれない“新たなデパート像”を模索する姿が見えてきました。

三浦半島唯一のデパート、さいか屋

今回取材したのは、明治5年(1872年)に呉服屋として創業し、去年150周年を迎えた神奈川県横須賀市のデパート「さいか屋」です。
横須賀市がある三浦半島で唯一、そして地元資本のデパートとして、藤丸と同様に地域に根ざした営業を続けてきました。

経営悪化受け、閉店を決断

実はさいか屋は3年前、閉店することを発表しました。衣料品などの専門店やネット通販との競争が激しくなる中、経営は4年連続で赤字に。閉店発表直前の売り上げは、ピークだったおよそ20年前の5分の1にまで減少していました。

相次いだ“惜しむ声”

しかし、閉店発表直後から思わぬ反応が相次ぎました。長年さいか屋に親しんできたなじみの客からの閉店を惜しむ声です。

「閉店と聞いてこれからどうしようと…。こんな寂しいことはありません」
「昔の思い出がつまっていて、続けてほしい…」

店にはさいか屋の存続を切望する気持ちがつづられた手紙が多く寄せられました。なかには店長に直接送られた手紙もありました。

原幸夫 店長(当時)
「人生の一部なんだな、デパートっていうのはそういうところなんだなと、改めて感じました」

一度閉店してから、再出発

こうした声を受けて、さいか屋の経営陣は存続の道を探り始めました。そして、店舗を縮小したうえで、従業員の数を削減すれば、採算をとることは可能だと判断。2021年2月に一度閉店した後、およそ2週間で店舗を改装し、再出発したのです。

目指すのは“新たなデパート像”

再開にあたって、さいか屋が目指したのは既存の枠にとらわれない、“新たなデパート像”。その戦略は大きく次の3点です。

①効率性の高い店舗づくり
②「モノ」を売るだけのデパートからの脱却
③未来の顧客を呼び込む

効率性の高い店舗づくり

まずはコンパクトで効率性の高い店舗を目指しました。地下1階から6階まであった売り場は4階までに縮小。また、従業員も希望退職を募るなどして、3分の1に削減しました。

空いた5階と6階のフロアは、横須賀市の新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場として貸し出しました。接種を受けた人には店内で使えるクーポン券を配布するなど、売り場に人を呼び込む徹底した戦略を打ち出しました。

さらに、メインの入口を入った正面に、新たに週替わりのイベント会場を設置。客の人気が高い物産展を最も利便性の良い場所に配置したことで、効率が良くなったといいます。

さいか屋 脇田篤朗 専務執行役員
「私たちが決めた商品だけでなく、地域で望まれる行事、イベントに対応できるようなお店づくりをやっていこうと考えました。北海道の物産展を例にすると、5階で200坪を使ってやっていた売り上げと、1階で80坪でやる売り上げが同じ売り上げなんです。1階に設けたことによって、非常に効率が良くなりました」

「モノ」を売るから「体験」を売るへ

そして、2つめのポイントが「モノを売るだけ」のデパートからの脱却です。デパートの本館とつながる南館を改装し、新たにアミューズメント施設を整備しました。若者に人気の高いダーツ施設を設置し、最新式の機械を導入しました。

さらに、一般的な施設よりスペースを広めにとったカラオケ施設の運営を自社で始めました。カラオケにはデパートで購入した食事を持ち込むこともでき、相乗効果も狙っています。

特に平日の日中は従来のデパートの客層に人気のほか、親が子供を安心して行かせられるという声も聞かれているということです。さいか屋では、デパートが経営しているという安心感が、駅前のカラオケ店とのすみ分けにつながっていると分析しています。

未来の顧客を呼び込め!

そして3つ目が、デパートになじみのなかった客層を呼び込むための戦略です。地元の横須賀市が導入を進めるeスポーツ施設を設置したのです。

横須賀市では、市内の13の公立高校のうち9校にeスポーツ部があり、市をあげて普及につとめています。eスポーツ施設は土日は学生を中心に満席が続くといいます。

さいか屋 脇田篤朗 専務執行役員
「デパートとしては文化として前に進みすぎているくらいのものも導入しようと考えました。未来のお客様を自分たちの施設の中で育てようということを経営の中で考えた結果です」

専門家“生き残りには新客層開拓が不可欠”

小売・流通業に詳しい専門家も、地方のデパートが生き残るには、新たな客層を狙う取り組みが欠かせないと指摘しています。

尚美学園大学 加藤弘之教授(小売・流通業が専門)
「さいか屋の取り組みは小売業態の中でも注目される事例だと思います。百貨店が持っているブランドのセレクトショップとしての強みであるとか、イベントをやるスペースとしての信頼性をある程度持ったまま、若い人たちが百貨店というところを“自分たちのお店”として認識できるような取り組みを行っている。若い人たちがデパートというのは自分たちのお店として認識できるようなお店やイベントをつくることで、デパートの活性化につながります。また、それによって、にぎわいであるとか、新しい人通りが生まれてくるのかなと思います」

さいか屋ではこうした取り組みの結果、1日の来店客数も閉店前から1日あたり1000人ほど増え、5000人から6000人になりました。そして赤字幅も縮小していて、あと一歩で黒字化が見込めるところまで業績が改善してきているということです。新たな藤丸もこれからどのような戦略で再生を図るのか、注目されます。

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