NHK札幌放送局

マリウポリと室蘭

ほっとニュースweb

2022年4月21日(木)午後6時29分 更新

ウクライナ最大の激戦地、「マリウポリ」。ロシアの侵攻以降、ニュースや新聞でこの都市の名前を目にしない日はありません。ミサイルや砲撃で破壊された街の姿を見る度に胸が痛みます。このマリウポリ、実は、私が住む室蘭と意外なつながりがありました。 (室蘭放送局 篁慶一) 

「鉄の街」、マリウポリ

今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻で、最大の激戦地となっているのが東部ドネツク州のマリウポリです。ロシア軍によって包囲され、激しい攻撃にさらされています。女性や子どもが避難していた劇場や学校も爆撃を受けました。

4月11日にNHKのインタビューに応じたボイチェンコ市長は、市内の犠牲者が2万人を超えたという見方を示し、10万人以上の市民が避難できずにいると明らかにしました。インフラが破壊され、食料が不足する中、多くの住民が極めて厳しい生活を強いられているとみられています。ロシア軍は完全掌握に向けて、4月中旬以降、ウクライナ側の部隊に対して武装解除して降伏するよう要求しています。

マリウポリは、室蘭市と同じ工業都市です。製鉄所があり、アゾフ海に面する港は鉄鋼製品などの輸出の拠点となってきました。人口は40万人あまりで、室蘭市の5倍以上です。規模の違いはありますが、この2つの都市は同じ「鉄の街」なのです。

室蘭工業大学との交流

「鉄の街」の室蘭とマリウポリでは、12年前に大学同士の交流が生まれました。2010年に室蘭工業大学がマリウポリのプリアゾフスキー国立工科大学と学術交流協定を締結し、教員や学生を受け入れてきたのです。この交流は、日本鋳造工学会の会長も務める清水一道教授が中心になって進めてきました。

室蘭工業大学 2012年

清水教授にマリウポリから来た留学生の印象を尋ねると、「とにかく真面目だった」と振り返りました。留学生たちは、母国の大学に比べて実験装置の性能が高く、自由に使えることに驚き、休日も大学に来て実験を繰り返していたと言います。一方で、室蘭の学生たちは彼らと英語でやりとりし、研究に対する意識の高さに強い刺激を受けていたということです。留学生たちはマリウポリに戻った後、大学に残って研究を続けたり、地元の製鉄所に就職したりしています。

マリウポリの大学で講演する清水教授 2011年

一方で、清水教授は2011年と2012年にマリウポリの工科大学に招かれ、金属工学科の学生たちに自らの研究や室蘭市、それに東日本大震災について説明しました。日本人が珍しかったのか、地元メディアに囲まれ、日本について質問攻めにあったということです。工科大学では女子学生の割合が約5割で、室蘭工業大学に比べると圧倒的に高かったことが印象に残っていると言います。また、大学の建物は重厚で、街も緑豊かで美しかったということです。

“科学と人道上の惨事”

しかし、その美しい光景を見ることはもうできません。ロシア軍の攻撃によって、ウクライナを代表する工業都市は見る影もなくなってしまったのです。4月6日には、室蘭を何度も訪れて清水教授と合金の共同研究をしてきたヴェスリー・エフレメンコ教授から、3分50秒の動画のメッセージが届きました。教授は英語でマリウポリの惨状を伝えていました。

「ロシアのミサイルが大学の建物を直撃した。私の研究室の中には燃えた壁しかない。マリウポリではもう科学の研究はできないし、授業もできない。学生が学ぶこともできない。通りに廃虚と市民の遺体があるだけだ。これは、第2次世界大戦以降のヨーロッパ最大の、科学と人道上の惨事だ」

中央左がナターシャさん 中央右がタチアナさん 2013年

エフレメンコ教授は、3月の時点でウクライナ西部に避難できたということですが、母親の安否は分かっていません。また、エフレメンコ教授の教え子で、清水教授も室蘭で指導したことがある2人の女性研究者、タチアナさんとナターシャさんもマリウポリにとどまり、安否が分かっていないということです。エフレメンコ教授は、動画で国際社会の支援が必要だと訴えています。

「ウクライナの人々はロシアの侵略者に立ち向かっている。私は声の届く人すべてに訴えたい。ウクライナを支援してください。皆さんの政府に、人道的、財政的な支援を呼びかけてください」

安心して暮らせる日を

メッセージを受け取った清水教授がエフレメンコ教授の顔を見たのは、去年11月にオンラインで行われた学会の発表会以来でした。話す内容だけでなく、その表情からも状況の厳しさを感じ、不安を募らせています。

「少しやつれたような感じがした。顔の険しさがすごく出ていたので、避難できていない家族や教え子、同僚のことがすごく気になっているのではないか。非常に心配だ。エフレメンコさんは研究熱心な人だったので、大学が壊され、研究が出来なくなったことで、すごくショックを受けていると思う」

清水教授は、エフレメンコ教授が求めている具体的な支援やそれを現地に届ける方法を確かめた上で、できる限りのことをしたいと考えています。また、和平交渉が進み、1日でも早くウクライナの人たちが安心して暮らせる日々が戻ってきてほしいと強く願っています。

ロシアの侵攻直後、エフレメンコ教授から届いたメールには、「今年の秋には室蘭を訪れて研究がしたい」と今後の希望もつづられていました。ところが、その後のメールや動画には、そうした言葉は一切ありません。戦況の急速な悪化が背景にあるのだと思います。4月16日に届いたメールには、マリウポリでけがを負った25歳の大学院生の教え子が、車で避難する途中に撃たれて亡くなったと書かれていました。

侵攻から2か月。マリウポリの状況を伝えるメッセージで、そこに暮らす人たちの日常が容赦なく壊され、「研究がしたい」という願いさえかなえられない現実を改めて思い知らされました。遠く離れた場所であっても、ウクライナで生きる人たちの姿を想像し、この問題に関心を寄せてもらえるように、これからも取材を続けます。

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