NHK札幌放送局

バゲンダ先生の恩返し #道南WEB取材班

道南web

2021年1月27日(水)午後5時34分 更新

日本から1万キロ以上も離れた母国のために、貧困支援をしている男性が函館市にいる―。 そんな話を聞き、「ぜひ会ってみたい」と取材を始めたことが、彼と出会うきっかけでした。 優しい目と穏やかな口調。背が高く、その立ち居振る舞いは紳士そのもの。 ただ、そうした印象からは想像もつかない熱意を持って、彼は活動に打ち込んでいました。 その熱意の奥底には、ある思いがありました。
 「これは恩返しなんです」 

長年のライフワーク
彼はバゲンダ・ドミニクさん(47)。東アフリカのウガンダ出身で、公立はこだて未来大学の准教授です。「科学とコミュニケーション」をテーマに研究活動を続けていて、私たちが取材した日も、流ちょうな日本語で熱心に教え子たちを指導していました。

そんなバゲンダさんがもうひとつ力を入れているのが、母国の貧困支援です。彼自身もメンバーであるNPO法人「函館アフリカ支援協会」の協力を得ながら、長年のライフワークとなっています。

東アフリカの内陸に位置するウガンダ。国土面積は日本の本州くらいの広さがあり、人口は4000万人余りです。世界銀行によると、その40%余りは1日1.9ドル未満で暮らす貧困層が占めていて、けっして経済的に豊かな国とは言えません。

「教育ができていない。先生が教室に来ない。学生たちは教科書を持ってない。学校に出ても給食がない。もうないものが多くて。なぜかと言うと、そもそも親にお金がないので、やりたくてもできない。いろんな問題が貧困につながっています」

感謝の気持ちで
そうした母国の現状を少しでも変えたいと、支援活動を始めたバゲンダさん。きっかけはおよそ20年前にさかのぼります。

バゲンダさんは、もともと留学生として平成15年に来日しました。札幌市で約半年間、日本語学校で勉強したあとに函館市に移り、市内にある北海道大学のキャンパスで研究を続けていました。今は大学の准教授として活躍していますが、日本で学ぶきっかけを与えてくれた母国への思いは、片ときも忘れたことはなかったといいます。

「私は国費留学生で、日本からウガンダへの支援を受けて日本にやってきました。そして勉強させてもらって、そのあとは恩返しという形で、感謝の気持ちで自分の国へ何かできないのかなと思って、この支援が始まったわけです」(バゲンダ・ドミニクさん)

“経済的な自立に”

3年前からは、足踏みミシンを使った縫製技術教育をウガンダ東部の貧しい地域にある小学校で始めました。

ミシンは函館アフリカ支援協会に寄贈された160台余りを現地に送りました。縫製技術教育を始めた背景には、ウガンダの子どもたちが置かれている厳しい実情があるといいます。

ウガンダでは小学校を卒業すると、多くの子どもたちは貧しさから進学せずに、働きに出るというのです。そのため、卒業後も子どもたちが経済的に自立できるよう、手に職をつけられる縫製などの技術を身につけることが、とても大切だといいます。

「物は与えてもすぐになくなります。私たちはずっといるわけではありません。物を与えるだけの支援では、持続可能な支援にはなりません。支援を受ける彼らが自分たちの力で、自分たちの問題を見て、解決しなきゃいけないんです」(バゲンダ・ドミニクさん)

コロナで一変

これまでにおよそ400万円をかけ、支援事業は順調に進んでいました。ところが去年3月、ウガンダで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されると、事態は一変しました。それ以降、経済活動に厳しい制限をかけるロックダウンの措置が全土で取られたのです。

このとき、たまたま一時帰国中だったバゲンダさんもロックダウンに巻き込まれ、約半年もの間、日本に戻ることができませんでした。

「町中が渋滞で、ひと言で言うと混乱でした。車が動けない、人も動けない。これからの生活はどうなるのか、病院やスーパーはどうなるのか。国民も何をすればいいのか分からない状態でした」(バゲンダ・ドミニクさん)

ロックダウンの影響で小学校が休校となり、縫製技術の教育も休止を余儀なくされました。今も夜間の外出禁止などの規制は続いていて、学校再開のめどもたっていません。

小学校は休校となってしまいましたが、バゲンダさんは定期的に現地の関係者とSNSなどで連絡をとり、情報収集を続けています。この日は、小学校で縫製技術を教えていた女性講師とテレビ電話をして、支援活動に関わるバゲンダさんの大学の教え子たちを紹介しました。

「彼らがウガンダでの我々の活動をサポートしている学生たちです」(バゲンダ・ドミニクさん)

「本当にありがとうございます」(女性講師)

予想外の大人気に!

そうした中、函館アフリカ支援協会は新たな取り組みを始めました。首都カンパラを拠点にスラム街の子どもたちを支援する現地のNPOと協力し、女性や子どもたちが参加してマスク作りをすることになったのです。
ただ、もともとマスクを着用する習慣のなかったウガンダで、マスクを作っても売れるのかどうか、バゲンダさんは半信半疑だったそうです。

「ウガンダでマスクをつけると、周りの人たちと同じ空気を吸いたくないみたいなニュアンスが伝わり、失礼にあたりました。だから私は最初、『作っても意味あるかな』と思っていました」

ところが、できあがったマスクを販売すると、次々と注文が入ってきたそうです。日本円で1枚およそ30円と、現地では決して安価ではありませんでしたが、カラフルなデザインが人気となり、口コミで評判が広がったそうです。また、マスクを製作する現地の人たちの貴重な収入源にもなっているということです。

コロナ禍で苦慮

一方、新たな課題も出てきました。日本で感染拡大の歯止めがかからない中、毎年開いているチャリティーイベントが開催できなくなり、支援事業に必要な資金集めが難しくなっているのです。

今後、活動はどうなるのか。函館アフリカ支援協会では議論が続いています。

「女性たちが作ったもので展示会をします。函館アフリカ支援協会主催の展示会です」(バゲンダ・ドミニクさん)

「そういう機会があると、会員さんが増えたり、その場でもし寄付があれば支援にも使えると思う」(女性メンバー)

「何とか活動ができて、難しい中で本当に成果を出して、少しずつ支援も入ってきていますので、活動をできる限り、続けていきたいです」

函館アフリカ支援協会によると、ウガンダで必要な来年春までの活動資金は何とか工面できた一方、それ以降の支援については資金調達のめどがたっておらず、今後の課題になっているということで、協会は支援を継続するためにも寄付などの協力を呼びかけています。

<取材した記者>
鮎合 真介(函館放送局記者)
2008年入局。佐賀局、沖縄局、横浜局、国際部、ネットワーク報道部を経て現所属。趣味はランニング、琉球古典音楽(三線)、9歳と5歳の息子2人との将棋(最近)。ことし開催予定の函館マラソンが新規エントリーを受け付けないと知って意気消沈。来年こそは走りたいです。

(2021年1月21日 放送)

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