NHK札幌放送局

掘削に求められる「神業」

番組スタッフ

2021年3月29日(月)午後5時08分 更新

「地下数千mにある 幅数cm~数十cm の割れ目の位置を予測して、そこに向かって直径20cm 程度の管を正 確に通す。そんな神業みたいなことをしなさい、という作業なんですよ」ある技術者が、地熱発電のための井戸を掘る作業の難しさについて語った言葉です。こうした技術的な困難さ が事業を行う上でのリスクとなり、地熱発電が進まなかった一つの原因ともなってきました。現場では、この課題をどのように乗り越えようとしているのか、今回は見ていきます。

地熱開発に続々と参入する事業者

現在、北海道では、大型の森地熱発電所、そして小規模の地熱発電所が3か所、稼働しています。

東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの期待がさらに高まり、FIT(固定価格買取制度)などの制度が導入されました。これによって、商社や建設会社、油田開発会社など電力会社以外の事業者が、次々と地熱開発事業に乗り出し、分かっているだけで北海道の20の地域でプロジェクトが動き出しました(北海道立総合研究機構調べ)。このうち、去年8月時点で、継続しているプロジェクトは9つ。一方で、中断したり事業者が撤退したりしたプロジェクトが8つ、今後事業を進めるかどうか検討中としているプロジェクトも3つあるといいます。


多くの事業者が地熱発電の可能性を信じ、開発に乗り出していますが、一方で以前ご紹介したような課題もあるためプロジェクトの遂行は依然として簡単なものではないことがうかがえます。

課題の一つが「地熱発電を行うのに適した場所を探すための調査に時間やコストがかかる上、調査をしても必ず発電ができる保証はない」ということです。冒頭にもご紹介したような技術的な難しさが、事業を不安定にさせる一つの要因になっていますが、そのリスクを減らすための様々な取り組みが現場では行われています。

新たな熱資源を求めて 新興企業の挑戦

去年10 月。道南の函館市・恵山で、地熱の資源量を探るための井戸から蒸気と熱水が噴出し、見守っていた関係者から大きな歓声が上がりました。

ここでは、3つの事業者が共同で開発を行っています。そのうちの一つが、東京に本社のある株式会社レノバです。

この会社では、2000 年の設立以来、環境やエネルギー分野のコンサルティング事業、プラスチックのリサイクル事業を行ってきました。そして、東日本大震災をきっかけに、2012 年から再生可能エネルギーの開発事業へ本格的に参入しました。これまでに国内外で太陽光発電・風力発電・木質バイオマス発電に取り組み、手掛けた発電設備の設備容量は、開発中のものも含めると合計約180 万kW、平均的な原発約2 基分に相当します。
恵山は、会社にとって、最初の地熱発電の開発事業の地となります。

この事業のプロジェクトマネージャー・菊地洋平さんは、新しく参入した企業としての役割があると考えています。

私たちは、2014 年から恵山のプロジェクトに取り掛かりました。実は、ここは国の機関が本格的な調査をこれまでにしてこなかったエリアで、私たちは、いわば一から、調査・開発を行っているんです。

長年に渡り地熱発電の研究と政策協議に携わってきた九州大学名誉教授の江原幸雄さんによると、地熱発電には、過去に2度、追い風が吹いた時期があったと言います。
1 回目が、エネルギー不足が深刻だった戦後から1960年代にかけてです。国の機関である旧地質調査所が、地熱発電に適した場所を探るべく、全国的な調査を行いました。
そして、オイルショックが起きた1970 年代から、さらに地熱発電への期待は高まります。1980 年代に、国はNEDO(新エネルギー総合開発機構)を設立。地熱開発促進のための全国調査が行われました。しかし、1990年代の後半になると、原子力発電の進展などもあり、地熱発電への期待は相対的に低下。関連の予算も大きく減らされていったと、江原さんは指摘します。
そして、2011年の東日本大震災以降、3回目の波が現在来ているとされています。

現在行われている地熱開発の多くは、過去の調査、特にNEDOが行った調査をもとに行われています。ところが、恵山は、NEDOの詳細な調査が入っていなかった地域です。

NEDOが調査を行ったほとんどの場所には、すでに大手の事業者が入っていて、調査や開発を行っていました。私たちがそこに後から入るとなると、企業としての道義的な問題がありますし、熱資源の取りすぎなど乱開発につながる恐れもあります。そこで、私たちは、新しい場所の熱資源を探し出し、開発する。そのことで、日本全体としても地熱開発のすそ野が広がっていくと考えています。

菊地さんたちがまず参考にしたのが、産業技術総合研究所が発行した「全国地熱ポテンシャルマップ」です。
これは、分かっている火山の年代や温泉の温度などの情報をまとめて地図上に落とし込んだものです。このマップを検討しながら、地下の温度が周囲と比べて非常に高いこと、町からのアクセスもいいこと、他の事業者がまだ入っていなかったこと、などを考慮して、恵山を候補地としてピックアップしました。
そして、地表から地中の重力や磁気を測ったりして、地下の構造を探りながら、地熱貯留層の位置を予測。2本目の井戸の掘削で、高温の蒸気と熱水が噴き出す結果を得ることに成功しました。

井戸1本を正確に掘ることの難しさ

今、この会社のチームが取り組んでいるのが、還元井をどこに掘るのかを決める選定作業です。
地熱貯留層から蒸気と熱水を取り出すと、地熱貯留層内の蒸気・熱水の量は減ります。何もせずに取り続けると、地熱貯留層内の資源が枯れていってしまう恐れがあります。そこで、発電に使った蒸気・熱水を地中に戻します。そのために必要となる井戸が「還元井」です。(こちらの記事も参照 )還元井は、水がよくしみ込むように、地中にある割れ目を目指して掘っていきます。

地熱貯留層を守り、継続的に発電するためにも、還元井は非常に重要な設備ですが、これを適切な場所に掘っていくのは至難の業なのだと、プロジェクト推進本部の内藤信二郎さんは言います。

還元井の位置を決めるには、繊細な作業が必要です。もし生産井の近くに温度の下がった水がすぐに戻ってしまったら、生産井の周囲の蒸気・熱水を冷ましてしまいます。そうなると、十分な発電ができなくなります。
逆に、地熱貯留層から遠すぎると、地中に返した水が地熱貯留層へじわじわと戻っていかない恐れもあります。ですから、近すぎず、でも遠すぎない、絶妙な場所に割れ目を見つけないといけないんです。

具体的には、どのようにして、その割れ目を探していくのでしょうか。彼らが見ていた資料の一つが、重力探査と呼ばれる調査の結果でした。

このデータは、資源の場所の特定に係わる大変重要な企業秘密なので、開発途中の今の段階で公表することはできません。そこで、一般に公開されている別府での調査を例に、ここではその概念をご説明します。

重力探査では、地中にある地層の重力を、地表から測定していきます。その結果を上空から見た地図に落とし込んだのが、次の図です。

重力の大きい地域の地下には、密度の高い地層があります。この地図では、赤で記されています。濃い赤ほど密度が高い地層です。
重力の小さい地域の地下には、密度が低い地層があります。この地図では、青で記されています。濃い青ほど密度が低い地層です。
そして、赤から青へと変わっていく境目の場所は(地図上の黒いラインのあたり)、違う性質を持つ2つの地層の境目となっていて、この付近に割れ目が存在する可能性があると考えられます。

さらに、断層の位置を地上から踏査して調査していく「地質学的探査」、地中の磁気を測り電気の流れやすいゾーンを見つけ出す「電磁探査」などの結果を総合的に重ね合わせながら、井戸を掘る位置を確定していきます。

ただ、こうした精緻な検討を重ねても、限界はあるのだと、内藤さんは言います。

どんなに頑張っても、解像度は200m~300mくらいなんですよ。200m~300mの幅のどこかに、幅数cm~数十cm の割れ目があるはずである、という程度の推定しかできません。しかも、それは、どこまで行っても仮説でしかない。そんな中で、直径20cm程度の井戸を掘って、ピンポイントで正しい位置に収めないといけない。いわば、神業みたいなことが要求されるんですね。

このため、井戸の掘削が始まると、現地にいる社員は非常に緊張するといいます。エンジニアリング本部・地熱担当部長の清田豊さんは、生産井を掘った時のこんなエピソードを明かしてくれました。

井戸がどんどん掘られていって1000mを超えたくらいになると、毎日心臓がドキドキしてきます。24 時間体制で井戸を掘っていくので、自分が宿に戻っても、常に携帯電話を離しません。電話が少しでも鳴ると、ピック!と反応するような状況で・・・。真夜中でも現場に駆け付けられるよう準備をしていました。

1 本の井戸を掘るのに、数億円もの費用がかかります。しかも、還元井の場合、すでに生産井を掘った後に、掘削することがほとんどです。万が一還元井の掘削がうまくいかないと、生産井に投資したお金までもが無駄になりかねません。より大きなプレッシャーがかかります。

技術と経験の蓄積がリスクを下げる

現場では、さらにリスクを下げるための努力がされています。

例えば、掘り進めていく途中で、このままだとうまく割れ目に当たらないかもしれないという状況になることも想定されます。その場合に備えて、一度井戸を掘るのを止め、井戸の途中から、別の方向に向かって掘っていく「枝掘り」という作業を行う準備もしているといいます。この工法だと、最初から井戸を掘り直すよりコストが抑えられます。
ただ、この技術を使う場合でも、どの方向に井戸をさらに掘っていくのか、詳細なデータの分析と検討が必要になります。最後まで、事業者のチームとしての力量が問われます。

実は、内藤さんは、長年、油田開発を行う会社に勤めていました。
内藤さんは、油田を探査してきたこれまでの経験から、調査の数字や平面図を見ると、頭の中に、地中の立体的な映像が浮かぶのだそうです。技術が進んだ現在では、様々なデータをコンピューターに入力して、地中の推定図を3 次元画像で見ることができる時代になりました。
ただ、刻々と状況が変わる掘削の現場では、地中の中で何が起こっているのか、その場で得られる情報から地下の様子を想像しなくてはいけません。コンピューターでいちいち解析する時間がない場合もあります。そうした時に、内藤さんの経験は大きな力になるといいます。

プロジェクトマネージャーの菊地さんは、こうした他の業界から来た技術者たちのスキルも加えていきながら、現場で「最善の答え」を出そうする努力が、会社の大きな財産になっていると実感しています。

私たちは、熊本でも調査を行っていますし、水面下で他の場所での検討も進めています。それぞれの現場で、様々な経歴を持つ人たちが、日々真剣にディスカッションをしながら事業を進めています。その一つ一つの経験が、貴重な蓄積になっています。2011年以降、地熱発電のブームと言えるような現象が起きて、様々な会社がチャレンジして、その難しさも各社分かってきました。ここで撤退する会社もあるでしょうが、こうした知見を着実に積み重ねた事業者が、今後、地熱発電開発をけん引していくと思います。もちろん、私たちもその一員になるつもりでいます。

公的機関で続く技術開発

現場での努力が重ねられている一方、公的な機関を中心とした研究開発も、地道に続けられてきました。
油田開発の会社から移ってきた内藤さんは、地熱発電の研究者や技術者と話し合ったり、彼らの書いた論文を読んだりして、改めてこの分野の蓄積の分厚さに驚いたといいます。

地熱発電の研究レベルの高さには、本当に感服しました。いろんな研究者の方や技術者の皆さんが、こつこつ研究を重ねてきた成果なんだと思います。将来に向けて、今も進歩は続いていますから、今後はそれも積極的に学んでいきたいですね。

その役割を担う公的機関の一つが、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)です。
ここでは、今、地中深くにある地熱貯留層や割れ目の位置をこれまで以上に正確に把握するための技術の研究に力を入れています。地熱発電の開発候補地には、過去に調査のための井戸が掘られている場合があります。その井戸を使った探査方法です。
まず、人工的に揺れを起こして、地表から地下に向かって振動波を送ります。波は、地中の様々な物質によって反射されますが、地層の性質や割れ目の状態、熱水の有無によって跳ね返り方が変わります。新しい技術では、井戸の中に耐熱性の光ファイバーセンサーを入れ、その波の跳ね返りを、地中の中で、細かくキャッチしていきます。こうすることで、地熱貯留層や割れ目から戻ってくる波を直接つかまえ、正確に位置を把握することができるのです。

JOGMEC 地熱技術部・技術課の一戸孝之さんは、この技術の可能性について、次のように語ります。

この技術が確立されれば、解像度は、これまでの数百mから一気に数十cmに上がります。また、元々井戸があるケースだけではなく、1 本井戸を掘ってみてうまく割れ目に当たらなかった場合に、その井戸から横に掘っていく「枝掘り」をする時にも力を発揮します。今までに掘った井戸を使ってこの技術を利用することで、どちらの方向に向かって掘るべきか、正確な判断をする手助けになると考えています。

JOGMECでは、来年度中にこの技術のマニュアルを公表する予定です。

元産業技術総合研究所・地圏資源研究部門 主幹研究員の當舎利行さんによりますと、地熱貯留層から蒸気・熱水を取り出せる率=掘削成功率が、70%から80%に向上するとコストは4%減、90%になるとコストは7%削れるといいます。

官民の間での努力とノウハウの蓄積が、地熱発電所の開発リスクの低減に向けた、確かな歩みを進める原動力になっているのです。

※「Interpretation of gravity data to delineate underground structure in the Beppu geothermal field,central Kyushu ,Japan Jun Nishijima , Kento Naritomi」(2017)

エネルギー取材班
2021年3月29日

※この記事に関するご意見やご感想、関連する情報のご提供などがありましたら、NHK北海道のシラベルカまで、ご投稿ください。

この記事は、3月19日に放送した「北海道道」の取材成果をもとに作成しています。

継続取材の一連の記事は、こちらからご覧いただけます

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