NHK札幌放送局

インボイス制度 何が変わるの?

道南web

2022年12月16日(金)午後4時56分 更新

「得意先から仕事をもらえなくなるのではないか」
「このままだと生活ができなくなる」
「実質的な増税だ」

 いま小規模事業者から、国が新たに導入しようとしている制度に対し、不安や反発の声が上がっています。その制度とは、消費税に関する「インボイス制度」。議論が進む来年度の税制改正の焦点の1つとなっていて、来年10月から導入されます。 この制度、いったい何が問題になっているのでしょうか。 

消費税に関する新制度

「インボイス制度」は私たちが買い物などで払う消費税と関係があります。そのため、まず消費税の仕組みを整理します。

ある消費者が店で1万円の服を買ったとします。そのとき消費税の10%=1000円を払います。

この店は受け取った1000円をそのまま納税するかというと、そうではありません。

例えば、服を作るために店が卸売業者から材料を3000円で仕入れていた場合、業者に10%の消費税=300円を払っているからです。

このため、受け取った1000円から300円を差し引いた700円を納める、これが消費税の仕組みです。


新制度でどう変わる?

インボイス制度が来年10月から始まると、店は税の差し引きを行うために、卸売業者から「インボイス」という書類をもらう必要があります。

インボイスは請求書や領収書など、税率と税額などが正確に記載された書類のことで、法律上の用語としては「適格請求書」と呼ばれています。なぜこうしたインボイス制度が導入されるのかというと、3年前に軽減税率が導入されたことが背景にあります。消費税に10%と8%の2つの税率ができたため、事業者間の取り引きで、どの税率でどれだけ税額が発生したのか、正確に把握することが必要だからです。

もし仕入れ先からインボイスを発行してもらえないと、税の差し引きができなくなります。つまり、店は300円を差し引けずに1000円をそのまま納税しないといけなくなり、税の負担が増えることになります。


制度に不安の声

もちろんインボイスを発行すればいいわけですが、問題はそのインボイスを発行できない事業者がいることです。それが、売り上げが年間1000万円以下の「免税事業者」の人たちです。

免税事業者は消費税の納税が免除されていますが、新しい制度では税務署に登録し、納税義務がある「課税事業者」にならないと、インボイスを発行することができません。

仮に仕入れ先の卸売業者がインボイスを出せない免税事業者だった場合、店は税の負担が増えるため、インボイスを発行できる別の業者を探すかもしれません。

それを避けるために、卸売業者は課税事業者になってインボイスを発行すればいいのですが、収入の少ない小規模な免税事業者の場合、その税負担に耐えられるのかという不安があります。

こうしたインボイス制度を事業者はどう受け止めているのか。函館市で弁当を作って企業などに卸している免税事業者の40代女性に話を聞くことができました。

女性は食材や食用油などの価格の高騰で経営が厳しい中、インボイスを発行できる課税事業者になれば、少なくとも毎年20万円ほど納税する必要があり、先行きに不安を感じているといいます。

「20万円、30万円という桁は、かなり大きいですよね。1日に100個や200個を売らない限り、やっぱり利益は出てこないので、けっこう厳しい状態です。売り上げが伴って、余裕があって税金が払えると言うのであればいいのですが、売り上げがないのにインボイスを始めて、税金を払うだけでなく、さらに高騰している部分も補っていくとなった場合、果たしてお店をずっと続けられるのかというのを考えてしまいますよね」


負担軽減策は

こうした免税事業者の人たちの声を受けて、政府・与党は制度の円滑な導入に向けて、負担軽減策を導入する方針です。

具体的には、売り上げが年間1000万円以下の免税事業者がインボイスを発行できる課税事業者になった場合、仕入れでいくらの消費税を払ったかは関係なく、一律で客から受け取った消費税の2割だけを納税すればよいというものです。つまり、税率10%の商品を販売して売り上げが10万円となった場合、納税額は売り上げにかかる消費税1万円の2割、2000円となります。これにより、税額を計算する手間が大幅に省けるほか、新たな税負担が当面は軽くできると見込まれています。

ただ、この措置の適用は制度開始から3年間に限られる見込みです。こうした一定期間の経過措置に対して、上記でご紹介した免税事業者の女性は「対策はありがたいが、できるだけ長く続けてほしい」と話しています。

収入の少ない免税事業者がインボイスを導入すれば負担が増えるのは避けられません。国は、こうした人たちの声に耳を傾け、引き続き対応していくことが問われています。

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