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それでもアメフトがしたい!! 0755DDチャンネル

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2022年9月22日(木)午後4時50分 更新

大学スポーツがピンチです。コロナ禍で、十分な勧誘活動ができず、部員不足の団体が増加。そのひとつ、札幌学院大学アメリカンフットボール部の市村脩渡主将は、大会に出場できるか不安を抱えながら大好きなアメフトを続けてきました。コロナに翻弄されながらも、スポーツに青春をかける学生を取材しました。
笠井 大輔

初回放送 2022年9月24日あさ7:55〜総合テレビ
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10/8までNHKプラスで配信中します。

深刻な部員不足

これまで、私は主にスポーツ中継を担当してきました。中でもアメリカンフットボールは、弟が、競技を行っていたこともあって、身近なスポーツとして、実況する機会が多くありました。
そして、2021年、東京から札幌に転勤。北海道の学生アメフトは、どんな感じで、どんなチームがあるのだろうと、取材をすることにしました。

初めて取材したのが6月。本格的な秋のシーズンを前にしたオープン戦が行われていました。強豪・北海学園大学が、帯広畜産大学を圧倒、前年の北海道選手権優勝の強さを見せました。一方で、気になったのが、帯広畜産大学の選手の人数です。13人しかいなかったのです。

アメリカンフットボールは、攻撃で11人、守備で11人、さらには、キックを専門とする選手など、多くの人数を必要とするスポーツです。国内の強豪チームだと、1チームの部員数は優に100人を越えます。通常は、攻撃の選手は攻撃時だけ、守備の選手は守備時だけ出場します。

帯広畜産大学は13人。つまり、攻撃も守備も同じ選手が、常に試合に出続けなければならないので、体力的に厳しくなります。
さらに、こうした状況は、帯広畜産大学だけではありませんでした。近年、人数が揃わず、出場を辞退するチームが相次いでいるのです。

白のユニフォームが帯広畜産大 ほとんどの選手が攻撃と守備の両方でプレー

道内では、多い時は500人ほどの大学生がアメフトをしていましたが、いまはその半分の250人ほどにまで減少していたのです。
少子化に加えて、道内の高校でアメフトをやっている学校がなくなってしまったこと、そして、最も大きな影を落としたのが「コロナ」でした。

コロナによる活動制限が影響

コロナが部員不足にどう影響したのか。調べていくと、そこには、マイナー競技ならではの事情もありました。

コロナの感染が拡大する中、各大学は、部活動を制限。新入部員の勧誘活動は、オンラインに限られ、対面での直接的な勧誘ができませんでした。
この影響が特に大きかったのが、アメフトなど大学で初めて触れることが多い、いわゆるマイナー競技です。
これらの競技は、直接見てもらい、体験してもらうことが重要で、それができなかったことで部員を集めることができませんでした。
大学スポーツ協会によると、コロナによって、日本の大学スポーツの部員数は、コロナ前に比べて、全体で1割も減ってしまいました。中には、5割も減った競技もあり、コロナによる部員不足は深刻なのです。

かつての優勝チームも

江別市にある札幌学院大学アメリカンフットボール部は、北海道大学選手権で優勝4回、社会人のXリーグにも選手を輩出している古豪チームです。
しかし、部員不足で、2021年は、北海道選手権への出場を辞退。ことし(2022年)も部員不足に悩まされています。

3年生の市村脩渡選手は、4年生がいないチームを引っ張るキャプテンです。ラインと呼ばれるポジションで、ディフェンスの最前列に立ち、相手の攻撃を防ぐ重要な役割を担います。
大学でアメリカンフットボールに出会った市村選手は、体の大きな人も小さな人も、それぞれの能力を活かして活躍できる場がある、アメフトの魅力に惹かれました。

「アメフトは、大きい人でも小さい人でもできるので、チーム全員で喜びを共有できる。また、フィールドに出られる選手が11人と決まっているのですが、オフェンス、ディフェンスで交代が自由で、いろいろな選手に出場機会があって、チーム全体で盛り上がることができるところが魅力です」

しかし、市村選手は、これまで、北海道学生選手権へ出場できないでいました。
1年生だった2020年は、コロナの影響で入部が遅れ、2年生だった2021年は部員不足でチームが出場を辞退したためです。
そんなアメフト部に、7月、うれしい出来事がありました。新入生が見学にやってきたのです。
市村選手は、アメフトのルールや、どんな人でも活躍できることを一生懸命説明していました。
ことし(2022年)の北海道選手権まであと1か月。一人でも多くの新入部員を集め、大会への出場実現を目指していました。

見学に来た新入生にアメフトの魅力を伝える市村選手

コロナで苦しむ学生を支えたい

「部員不足に悩まされる学生たちを少しでも支えたい」と話すのは、塚田博さんです。学生時代は、北海道大学アメリカンフットボール部でプレーしました。
大学卒業後は、新聞記者として働き、定年を機に、北海道学生アメリカンフットボール連盟の広報となりました。
北海道のアメフトを一人でも多くの人に知ってもらいたいと、道内すべての大学を回り、各学校の注目選手や試合の様子を取材し、WEBで発信しています。

札幌大学の取材に同行させてもらいました。札幌大学は、創部が1971年。北海道で最も歴史のあるチームです。しかし、いまの部員は4年生1人だけです。
それでも塚田さんは、頑張ってきた選手の思いを伝えるために、取材をしてWEB記事を書きます。

「ここまでよく頑張ったね」。取材を終えた塚田さんは、帰り際、選手に優しく語りかけました。
その言葉は、北海道の学生アメリカンフットボールを支えてきた後輩に対するねぎらいの言葉のように感じました。

「自分は、アメフトに出会えたことで、達成感もあったし、一生の仲間と出会えた。今の選手たちにも同じ思いをしてもらいたい。その手伝いができれば」

苦渋の決断

札幌学院大学では、およそ1か月後に迫った北海道選手権に向けてミーティングが開かれました。
この日までに集まった部員は10人。多くの人数を必要とするアメフトですが、ルール上は10人で出場することは可能です。

しかし、ヘッドコーチの佐藤敏弘さんが提案したのは、札幌学院大学同様、部員不足に悩む他の大学とともに合同チームで出場することでした。

北海道学生連盟は、部員不足に悩むチームが多いことから、特例措置として、合同チームでの出場を認めることになったのです。

目に涙を浮かべる佐藤ヘッドコーチ。
人数が少ないうえ、新しく入った1年生の実戦経験が少なく、札幌学院大学だけで試合をすることは危険だと、苦渋の決断でした。
札幌学院大学としての出場を目指してきた市村選手は、しばらくうつむいたままでした。

合同チーム

9月。アメリカンフットボール北海道学生選手権が帯広市で開幕。その開幕戦は、札幌学院大学、札幌大学、北海道科学大学、北海道医療大学の4大学による合同チームと、室蘭工業大学との対戦になりました。
合同チームの出場は、48回目を数える北海道選手権で初めてのこと。そして、札幌学院大学の市村選手にとって、初めての北海道選手権です。

試合前のコイントスには、合同チームの代表と市村選手が参加しました。
その表情には、合同チームで出ることへの迷いはすでにないように感じました。

背番号52が市村選手

それでもアメフトがしたい

試合は、序盤から、室蘭工業大学ペースで試合が進みます。
合同チームは、スナップミスなど、連係でのミスを連発し、オフェンスのリズムを作ることができません。
市村選手は、これまで練習をしてきたブロッキングで相手のオフェンスをなんとか止めようと、必死で食らいつきました。
しかし、チームワークで勝る室蘭工業大に0対25で敗れました。

初めて北海道選手権で戦った市村選手。試合後は、負けた悔しさからしばらく立ち上がることができませんでした。
そこで感じたのは悔しさだけではありませんでした。市村選手が感じたのは、アメフトに出会い、プレーできた喜びでした。

「好きという気持ちは変わらないんですけど、難しいなというのを痛感したという所がありました。また挑戦すること、克服しないといけないことが増えた。あらためて、アメフトに出会えてよかったと思います。」

2022年9月21日

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