NHK札幌放送局

特集・コロナ禍の信金 コロナ後も地域の企業と生きる

ほっとニュースweb

2021年9月30日(木)午後4時13分 更新

「コロナ後、このままでは生き残ることができない」 

地域の中小企業の間で切迫感が高まっている。

ワクチンの接種が進み、経済の回復が徐々に視野に入ろうとしている。一方で、地方の中小企業の中には、コロナで需要が元に戻らず、膨らんだ借金を返済できないと恐れるところもある。

こうした企業が地域で行き残るために、資金を貸し出している信用金庫はどういう役割を果たしているのだろうか。

直面する“コロナ後”という難題

滝川市に本店がある北門信用金庫の企業支援室長、伊藤貢作。危機的な経営に陥った企業を立て直す企業再生のプロとして、これまでに再生させた数は20社ほどに上る。

その伊藤でも、コロナの影響を受けている企業の立て直しは難題。特に深刻なのが、飲食業や観光業だ。伊藤は、コロナ後も以前と同じようにビジネスを続けられる環境にはないとみている。

北門信用金庫企業支援室長 伊藤貢作
「コロナが終わって、コロナの前にあっという間に戻るとか、同じビジネスモデルだけどコロナ前以上の需要があるっていうことはほぼないだろうと思っている」

その一方で、企業への貸出金は増えている。北門信金の貸出金残高は、2021年3月末時点で1218億円と前年の同じ時期より8.3%増加。貸し出しが膨らんでいるのに、貸出先の売り上げはなかなか回復しないという構図が浮かび上がる。

老舗ホテルの価値を掘り起こす

8月。伊藤は悩みを抱えている取引先から相談を持ちかけられた。

地元・滝川市で40年以上営業を続ける老舗ホテル。信金にとって長年関係を続けてきた重要な顧客だ。9階建ての建物は、地域でランドマークとしての存在感を示してきた。

しかし、このホテルにもコロナが襲った。宿泊客は激減し、売り上げは感染拡大前の7割にまで落ち込んだ。

宿泊と並ぶ収益の柱だった宴会場はキャンセルが相次ぎ、去年3月からやむなく休業に追い込まれた。調理にあたるスタッフ4人の雇用も維持できず、レストランも同時に休業した。

コロナでホテルの借金は膨らんだ。返済には売り上げを回復させるしかない。しかし、元通りの営業は困難な状況に陥っている。

伊藤に知恵を求めたホテルの管理部長、藤岡富士夫。伊藤から持ちかけられたのは、藤岡の頭にはなかった策だった。

「ラウンジをテレワークに活用してはどうか」

伊藤が目をつけたラウンジは、市内を一望できるホテルの最上階、9階にある。滝川市で育った伊藤にとって、幼いころ、このラウンジで食事をするときには心が躍った思い出の場所だ。そこをテレワークに使うというのだ。

「晴れの場」であったはずのラウンジもコロナ以降、まったく使われていない。であれば、「見晴らしの良さと開放感がテレワーク向けの場所としてほかにはない付加価値になる」。そう考えた。

ラウンジは市民だけでなくホテルにとっても特別な場所。そこをテレワークの場所に…という提案に藤岡は戸惑った。しかし、ほかには選択肢はないと受け止めた。

ホテルスエヒロ管理部長 藤岡富士夫
「ホテルしか分からない視点と比べると、伊藤さんみたいにいろいろなところを見ていろいろな人脈を持っている人の視点では、全然考えていることが違うので、すごく心強いなと思う」
北門信用金庫企業支援室長 伊藤貢作
「コロナの影響で飲食業や観光業は特にビジネスモデルが変わってきている。ただ、もともと自分たちが持っている強みや、もうこれコロナで通用しないなって思うような歴史的な役割の裏に意外とヒントがある。何でも新しいものに飛びついたり、反対に無理に飛ぼうとしたりするのではなくて、まず足元から見直してくださいとアドバイスするようにしている」

「リスクをとる」覚悟はあるか

コロナ後の地域経済を立て直すために企業再生を強化しようという動きは、全国の金融機関に広がってきている。島根銀行もその1つだ。

ことし4月、島根銀行が新たに設けた企業支援室の外部アドバイザーに就任した伊藤は、毎月下旬の1週間、松江市の本店を訪問。抜本的な支援が必要な20の取引先の再建策を練りながら、行員の指導にもあたることになった。

5月、島根銀行を訪ねると、ある行員が伊藤に悩みを打ち明けていた。

長年にわたって取引を続けてきた企業から、収益が見込めない事業をやめて稼げる事業だけを残したい、それにあわせて借金の一部について返済を免除してほしいと相談を受けたという。

その企業は地域にとって欠かせない事業を持っているものの、赤字が常態化。コロナが追い打ちをかけて、経営はさらに悪化していた。このまま放置すれば、いずれ債務超過に陥りかねないという。

相談に対し、伊藤は経営者が高齢化していて、後継者もいない点を問題視。事業を整理して再出発しても近い将来、再び経営に行き詰まる可能性が高いうえ、別の取引金融機関が会社側の提案に同意するのも難しいと考えた。むしろ、この企業を買収するスポンサーを見つけるほうが関係者の合意を取り付けやすいと助言した。

一般論として、事業再生を進める場合、債権放棄などを通じて金融機関にも痛みを強いる。それでも島根銀行は頭取の鈴木良夫みずから、地域経済を存続させるためは覚悟が必要だと考えている。

島根銀行頭取 鈴木良夫
「われわれもある意味リスクをとった中での支援ということは、地域経済を維持するためには必要だと思っている。伊藤さんに来てもらい、いろんなものを吸収させてもらい、われわれもレベルアップを図っていく」

コロナ後こそ問われる 金融機関の真価

伊藤は島根での仕事も経験しながら、コロナ後に地域の企業が生き残るために、金融機関が果たす役割は大きいという思いを強くしている。

北門信用金庫企業支援室長 伊藤貢作
「コロナになって気づいたことが皆さん多いと思う。例えば高齢化とか後継者がいないとか、1つの事業にものすごく影響があると立ち行かなくなるビジネスモデルなんだなとか。地場の個々の企業の強い部分と弱い部分をきちっと連携とか再編というところのお手伝いで地域の基盤を守っていく。そのためにもわれわれの企業支援はあるんだろうなと理解している」

コロナ後、地域経済が活力を取り戻せるか。金融機関の真価が問われることになる。

※敬称略
(札幌放送局記者 五十嵐圭祐)
2021年9月30日

2月にシリーズで特集した「コロナ禍の信金」の記事はこちらにまとめています。

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