ナットク!とかちchは「私困っています 新型コロナウイルス」というテーマで、新型コロナをめぐる十勝のみなさんの疑問や困りごとにこたえるコンテンツを目指しています。
新型コロナの収束が見通せない中、明らかになりつつあるのが感染後の後遺症です。
後遺症で“脱毛”
ことし6月、厚生労働省の研究班が新型コロナの後遺症について中間報告をまとめました。
それによりますと、新型コロナで入院した人に診断から半年後の症状についてアンケート調査を行ったところ、▼21%が疲労感やけん怠感、▼13%が息苦しさ、▼10%が脱毛、▼9%が味覚障害があるなどと回答したということです。
この報告は、コロナへの感染が判明してから半年がたっても脱毛に苦しみ続ける人たちがいることを裏付けています。

後遺症とみられる脱毛に悩まされる人たちに、救いの手を差しのべる美容師が十勝にいます。
その思いを取材しました。
脱毛にウイッグを
帯広市西部の住宅街にある美容院「髪花堂」。
美容院を営むのは松浦治さん(55歳)です。
松浦さんの美容院は通常の美容院とは少し違います。
美容院の中に入ると、髪を切る場所のすぐ横にはたくさんのウイッグが並んでいました。

黒髪や茶髪、それに白髪(はくはつ)から長髪まで、その数は医療用も含めて70もあります。
手に取ってみると、想像していたよりも軽く、頭にもフィットして違和感なくつけられるように感じました。

松浦さんの美容院では、髪を切るだけでなくウイッグの販売も行っているのです。
髪花堂 松浦治 代表
「髪の毛がある人を対象にする美容院はたくさんあるのですが、髪の毛がない人を対象にする美容院はあまりないんですよね。この美容院は髪の毛がある人にもない人にも必要とされる美容室でありたいです」

美容院でウイッグの販売を行うきっかけは、お客さんとして来店した看護師からの勧めでした。看護師が勤務する病院で、抗がん剤治療に苦しむ女性にウイッグをプレゼントしたところ、女性や家族が泣いて喜んでくれたといいます。
ウイッグへの需要を強く実感した松浦さんは、8年前から販売を行うことにしました。
新型コロナで増える相談
美容院には、これまで抗がん剤治療や年齢による脱毛に悩む人から日々相談が寄せられてきました。
一方で、最近増えているのが、新型コロナの後遺症とみられる脱毛で苦しんでいる人からの相談です。
特に十勝でも感染が拡大した8月には相談が19件にのぼりました。
その人たちの中で来店してウイッグを購入した人について、松浦さんが聞き取ったことが書かれているノートを見せてもらいました。

ノート
「抜け毛の多さにびっくりした」
「かなり精神的にも追いつめられた」
「脱毛の事はパートナーにも話してはいない」
「仕事をしていて接客業のため、人に見られるのが怖い」


ノートには、ウイッグを購入した人たちの切実な声が書き記されていました。

松浦さんはこうした声を受け止め、症状に合わせて薄くなった部分が目立たないようなヘアスタイルを提案したり、ウイッグを勧めたりしています。
髪花堂 松浦治 代表
「新型コロナに感染して精神的にダメージもある上に、さらに脱毛となると、特に女性の場合はやはり切実です。涙ながらに話してくれる人もいました」
病院にも行きづらく、誰にも相談できずに悩んでいる人が多いといいます。
松浦さんは、脱毛で悩む人たちの心の負担を少しでも軽くすることを目指しています。
髪花堂 松浦治 代表
「つらい気持ちで来店した人を、最後は笑顔で帰してあげたいです。それがウイッグでかなうなら、うちの美容院でちょっとでも楽になってもらえるんだったら、私はどこまでもやります」


【取材した原祢秀平記者は】
新型コロナウイルスの後遺症について調べていくなかでまず驚いたのは、後遺症としてたびたび耳にしていた味覚障害や嗅覚障害よりも「脱毛」に苦しんでいる人の方が多いという事実でした。美容院に1か月で19件もの相談が寄せられているということも、脱毛で苦しんでいる人の多さの表れだと思います。
新型コロナに感染するだけでもストレスがかかるにもかかわらず、その上で脱毛にも悩まされる苦しみを想像すると、胸が痛くなります。誰にも相談できずに悩んでいる人も多いと思います。
取材に応じてくださった松浦さんは、妻のむつみさんとともに、そのような人たちの助けになるために懸命に活動されていました。来店者のことがびっしりと書かれたノートからも、ひとりひとりを大切にしていらっしゃることが伝わってきました。
私はそのような活動を伝えていくことで、松浦さんご夫婦を応援したいですし、少しでも悩む人の力につながっていればうれしいです。今後も伝え続けていこうと気持ちを新たにしました。
2021年9月14日放送

