NHK札幌放送局

秘境の海、いつまでも ~知内町小谷石を旅する~

道南web

2023年9月1日(金)午後3時28分 更新

北海道知内町の小谷石地区。地元では「海辺の秘境」と呼ばれる、この集落の暮らしを取材しました。

「海辺の秘境」知内町小谷石地区

函館駅からバスに乗り、海沿いの道を南西へ走ること2時間。知内町の南端にある小谷石に到着しました。せり出す山と海の間におよそ120人が暮らしています。

集落のすぐ先にあるのは断崖絶壁。手つかずの自然が多く残っていることから、小谷石は「松前矢越道立自然公園」という北海道の自然公園に指定されています。

初夏、昆布でにぎわう

集落では漁業が盛んです。特に7月は養殖昆布の収穫の最盛期。最も若い漁師の村上竜太さん(35)にその様子を見せていただきました。

養殖場があるのは500メートルほど沖。津軽海峡の荒波に揉まれ、昆布は5メートル以上に成長します。竜太さんは去年の12月に種苗を植え付け、間引きなどの手入れを続けながら半年間かけて育ててきました。

竜太さんはこの夏、4トンの昆布を出荷するつもりです。大量の昆布をいかに手際よく収穫できるかが腕の見せ所。

村上竜太さん
「夏はもう昆布、昆布のイメージしかない小さい頃から。この正味1カ月半働きっぱなしで。ここの漁師さん達はみんな昆布をやっているので、お互い励まし合いながら助け合いながら乗り切る感じです。」

地域の人々に支えられて

竜太さんが漁師になったのは18歳の時。同世代のほとんどが地元を離れる中、父・文明さんに憧れて跡を継ぎました。しかしその2年後、文明さんは病気で亡くなります。

村上竜太さん
「今まで親がいたから出来ていたものが、いきなりポンッていなくなると、本当に何もできなくなる。仕事も全然教えてもらう間もなく死んじゃったから、俺このまま漁師やっていけるのかなとか、なんで漁師やっちゃったのかとか、すごく悩んで悩んで…。」

そんな竜太さんを支えたのは、漁師の仲間や地域の住人達でした。困った時にはいつでも相談に乗り、仕事を手伝ってくれたと言います。

今でも、竜太さんが水揚げした昆布は小谷石の住人達が集まって洗います。普段漁をしていない住人も夏は日雇いで働いて漁師を手伝うのが、小谷石で40年以上続く習わしです。

村上竜太さん
「ここの小谷石は1つの大家族みたいな。自分のじいちゃん・ばあちゃんがいっぱいいて、父ちゃん母ちゃん、兄ちゃん姉ちゃんもいるだろうし。そんなイメージかな。」

あたたかな風景を、いつまでも

竜太さんの子ども達、小学4年生の瑠音(りゅおん)さんと2年生の瑛音(えいと)くんです。集落にいる小学生は瑠音さんと瑛音くんの二人だけ。

夏休みの時期は、地域の大人たちに混ざって竜太さんの昆布の仕事を手伝います。

お手伝いのご褒美は家族みんなでの磯遊び。カニやヒトデが見られる集落の磯辺は、一番の遊び場です。

竜太さんが子どもの頃は10軒以上あった養殖昆布の漁師。集落の高齢化が進む中で半分以下になりました。瑠音さんと瑛音くんがいつか巣立っていった後もふるさとがあり続けるように、竜太さんは小谷石で暮らしていきます。

村上竜太さん
「多分、高校生とか大人になったら子ども達は出て行くのだろうけど、その時に『小谷石っていいよな』って実感してほしい。そして、瑠音や瑛音が結婚して子どもができた時に、自分達の子どもにそれを伝えてあげられたらな、みたいな感じかな。」

「海辺の秘境」知内町小谷石。あたたかな風景は、次の世代へと受け継がれていきます。

NHKでは、知内町小谷石をめぐる番組「小さな旅」を全国放送します。

番組名:「小さな旅 秘境の海 いつまでも ~北海道 知内町小谷石~」
<取材した函館局ディレクター>
荻野 智也
2019年入局。東京での勤務を経て、2021年11月から函館局へ。道南への新たな移住者として、地域の魅力を知り尽くすことが目標。

NHK函館放送局トップへ戻る


関連情報

知内新名物 ドンッ!と生まれる”あの”お菓子

道南web

2023年2月15日(水)午後5時44分 更新

旧函館図書館の屋根の置物はいったいなに?  #6

道南web

2023年5月11日(木)午後3時22分 更新

週末イベント情報! “第23回『はこだて・冬・アート展』3…

道南web

2023年3月2日(木)午後5時51分 更新

上に戻る