NHK札幌放送局

山奥から花をお届け

ローカルフレンズ制作班

2021年10月21日(木)午後3時24分 更新

ディレクターが地域に1か月滞在して“宝”を探す「ローカルフレンズ滞在記」。10月は十勝を舞台に、「カルチャー」に関わる人たちと出会いを重ねています。3週目は新得町のトムラウシ。大雪の山奥で、「花」を仕事にしながら家族や地域の人たちと豊かに暮らす、大阪弁の楽しい女性と出会いました。

十勝の“秘境”へ

新得町の中心部から山奥へ40㎞ほど。十勝ダムあたりの紅葉の美しさに見とれつつ進んでいくと、学校や家がぽつぽつと見えてきます。「トムラウシ」――日本百名山の中で唯一カタカナの名前を持つトムラウシ山、その麓に位置する集落です。

(トムラウシへ向かう途中の美しい紅葉)

山奥で“花”を使った作品づくり

この山奥に、大阪から移住してきた面白い家族がいるとのことで、今回は案内人のローカルフレンズ濱家勇さんと一緒に訪ねました。
雪がちらつく日、「初雪ですよ~ちょっとうれしいわぁ」と出迎えてくれたのが、野村絵里さん。

以前保育所として使われていた建物を仕事場にしているということで、さっそくお邪魔すると…。

たくさんの花が。といっても生花ではなく、造花(アーティフィシャルフラワー)やドライフラワーです。
野村さんは、こうした花を使い、主にウェディング用のブーケやウェルカムボードなどを制作しています。

造花だと簡単に壊れないため持ち運びもしやすく、式が終わってからも家に飾ったりして長く楽しめるということで、選ぶ人は増えているそう。また、造花ならではの落ち着きのあるアンティーク調の風合いも、人気のひとつだそうです。

大阪の街中から家族で北海道へ

「どうして大阪からこの山奥へ?」とたずねると、「あまり深く考えていなくて、面白そうやなと思ったのが正直なところ。ここまで来たらネタになるやないですか」と大阪人らしい答え。といいつつ、いろいろ教えてくださいました。

大阪にいた頃、街中のビルの2階で店舗兼アトリエを構えていた野村さん。この時は生花も扱いながら、造花でのウェディング用の商品も作っていました。

(大阪時代の店舗)

生花の仕入れで朝が早いのはもちろん、店の高い家賃をまかなうため夜も遅くまで働きづめで、店に寝袋を持ち込んで泊まりこむことも。子どもと過ごす時間も、自分のための時間やお金もほとんどありませんでした。

忙しく働いていた4年前、出張で札幌を訪れた際に足をのばしたのが、新得町でした。牧場の美しい景色に感動し、こんなところで暮らせたら楽しそう、ウェディングもこんな緑の中でできたら素敵だろうな、とほれこんでしまいます。

大阪に戻ってからも「北海道に移住したい」という思いが強くなっていった野村さん。いろいろな町を調べる中で、新得町がトムラウシ地区で取り組んでいる「山村留学」の制度を知ります。
山村留学とは「自然豊かな農山漁村に小中学生が一年間単位で移り住み、地元小中学校に通いながらさまざまな体験を積む」活動のこと。トムラウシの場合、子どもがトムラウシ小中学校に入ると家族の住む家を町が提供してくれると知り、「これなら家族で北海道に行ける!」と移住を決めました。
そして2年半前の4月、長男の咲太(さえた)くんが小学1年生になるタイミングで、夫の龍史(りゅうし)さんと咲太くんとともにトムラウシへやってきたのです。

山は素材の宝庫

「仕事に不安はありませんでしたか?」と聞くと、実は店での注文よりもSNSやオンラインでの注文のほうが多くなり、街中に店を構えなくてもやっていける自信がついてきた頃だったといいます。今ではSNSのフォロワーが2万人近くなり、全国各地、時には海外からも注文が入ることがあるそうです。
家賃の出費も格段に減ったことで仕事にも余裕ができ、子どもと過ごす時間も増えました。

作品はすべてオーダーメイドで、好きな色合いや使ってほしい花の種類などを聞いてからひとつひとつ手作りします。ウェルカムボードなどでは、文字のデザインは大阪に住む仕事のパートナーが受け持っていて、野村さんは送られてきたボードに花をつけてお客さんに届けます。

「正直、簡単に仕入れられないからまとめて仕入れたり、宅配の受付が午前11時までだったりと、不便なところもありますね」という野村さん。しかし、それよりもメリットのほうが大きいそうです。
アトリエを一歩出ると、そこは“素材の宝庫”。庭や散歩道に落ちている木の枝や葉っぱ、ときには鹿の角(!)なども、アレンジに使える大事なアイテムになります。「都会にいるとお金を出して買わないといけないので、ありがたい」とのこと。
日々移り変わる山の木々の色などからインスピレーションを受けることもあります。

十勝の自然の中でウェディングを

野村さんは今、十勝ならではの取り組みを始めています。それは、十勝の牧場や庭園などでの「野外ウェディング」のプロデュースです。

「ハワイやグアムまで行かなくても、国内にこんなに素敵な場所がたくさんあるということを知ってほしくて。すでに誰かやっているだろうと思っていたら意外といなかったので、だったら私がやろうと。『北海道で、十勝で結婚式がしたい』という人が増えてくれれば」と話します。
先日、移住のきっかけとなった新得町の牧場でも行うことができたそうです。

十勝に移住してから、さまざまな分野で活躍する人ともつながりができたという野村さん。十勝の四季折々の素晴らしい景色の中で、洋服デザイナー、料理家、写真家など十勝の仲間たちと一緒に、ここならではのウェディングを作り上げていきたいと話してくれました。

子どもも大人もなんだか楽しそうな地域

滞在中、いつもとびきりの笑顔で、たまに面白い変顔で私を和ませてくれたのが、長男の咲太くん。現在小学3年生です。

大阪の頃に通っていた幼稚園では同級生が約200人いましたが、トムラウシ小中学校は小学生と中学生合わせて13人。さびしくないかな?と思いきや、放課後も休みの日も、男女や学年に関係なく仲良く遊びまわっていて、とても楽しそうでした。

実は滞在中に、トムラウシ小中学校で学芸会が開かれたので、お邪魔しました。小中学生の熱の入った演技や演奏に、感動するばかりでした…。人数が少ない分、全員がひとりひとり輝いていました。

さらにこの学校では、毎年保護者もパフォーマンスをします。驚いたのは、その本気度。1か月ほど練習を重ねた大人たちのパフォーマンス、完成度がすごく高いんです。見ている子どもたちも大喜びでした。

野村さんは「大人も子どももみんな仲が良くて、忙しいときに子どもを預かってもらったり、ごはんを分けてもらったり、お互いに頼りあって暮らすのが当たり前になっている」といいます。地域みんなで子育てをするという温かい光景が、この山奥の小さな集落にありました。

(庭でドラム缶風呂に入る咲太くん)

夫は「カレー屋はじめました」

野村さんが「この人が家族で一番、北海道を楽しんでいる」というのが、夫の龍史さんです。
龍史さんは移住後新得町の精肉店で働いていましたが、先月、町内にカレー屋を開業しました。

大阪にいた頃から大のカレー好きで、「毎食カレーでもいい」という龍史さん。家で作ったりしていたそうですが、ついに店を開くまでになりました。
大皿にたっぷり盛られたキーマカレーは、さまざまなスパイスが絶妙に効いていて、そのおいしさにスプーンが止まりません。

ところで、妻の絵里さんが「トムラウシに移住する」と言い出したとき、正直どう思ったのかと聞くと…。
「いや、不安しかないでしょ」と一言。

ただ、来てみると不便なところもなんとかなったそうです。そして何より、釣りや山菜採りに出かけるなど、自分自身が自然の中で暮らすのを楽しんでいるとのこと。
「小さい頃から自然は好きだったんですけど、やっぱりビルの間で遊ぶより、山や川で遊ぶほうが自分には合っているなと。こっちに来て適応したというより、来るべき場所に来たという感じです」。
そう言ってから「俺、今ええこと言うたな」と付け加えるのが、さすが、関西人です。

勤め人から自営業になったことで時間に融通が利くようになったため、これからは家族で遊ぶ時間ももっと増やしたいと話してくれました。

愛すべき“ふるさと”トムラウシをいつまでも

滞在中、絵里さんと咲太くんと一緒にランチを食べに行ったのが、トムラウシ小中学校の向かいにある「山の交流館とむら」です。集落の簡易郵便局なのですが、カフェやショップも併設していて、地元の人も観光客も気軽に立ち寄れる場所になっています。

いただいたのは、トムラウシで捕獲されたエゾシカを使った鹿肉丼。臭みがまったくなく、「こんなに鹿肉っておいしかったんだ!」と驚くほどでした。

この場所の管理人は、笑顔が素敵な母娘。後藤倍美(ますみ)さん(写真左)と後藤南月(なづき)さん(写真右)です。

実は後藤さん一家も、南月さんが小学5年生になる時、山村留学で新潟から移住してきました。当時、新潟市は都市化が進み、緑が減ってきていました。自然の中で子どもに育ってほしいと、母の倍美さんが移住を決めたそうです。

「友達と離れてしまうし、コンビニなどもないし、最初は不安だった」という南月さん。しかし、過ごすうちにトムラウシの自然や人が好きになっていきました。
高校や大学では集落を離れていたときもありましたが、落ち込んだとき、トムラウシに帰ってきてこの地の空気を吸い、地域の人たちとおしゃべりすると、自然と元気になったといいます。

山村留学は基本的には子どもの小中学校卒業までなのですが、倍美さんは、子どもたちが「自分の故郷はトムラウシだ」と言うのを聞き、集落に住み続けることを決めました。
簡易郵便局の管理人を前の人から引き継いだ3年前から、ますみさんはこの場所でコーヒーや料理も提供し始めました。トムラウシに住む人、トムラウシに以前住んでいた人、トムラウシに遊びに来た人…誰もが訪れやすい場所にすることで、この地域が愛される場所になり、子どもたちに故郷を残せると考えたのです。

娘の南月さんは「自分を元気にしてくれたトムラウシに恩返しがしたい」と、大学を卒業した2年前、ここへ帰ってきました。
倍美さんを手伝いながら、自身でも新しいメニューを考えたりしています。

目下の目標は、母娘の2代前の管理人が考案して今はトムラウシ名物になっている「鹿肉まん」を上手に作れるようになること。
できたてを頂きましたが、シンプルな味付けで肉のうまみが際立ち、とてもおいしかったです。

山奥の小さな集落、トムラウシの人たちの、楽しく豊かであたたかい暮らしを実感した滞在でした。

2021年10月21日
NHK帯広放送局ディレクター 川畑真帆

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