NHK札幌放送局

5作目の原作映画公開 佐藤泰志の魅力に迫る #道南WEB取材班

道南web

2021年10月6日(水)午後3時30分 更新

10月1日に公開が始まった映画『草の響き』。心の病を患った主人公が、雨の日も晴れの日もひたすらランニングを続ける中で、心の平穏を取り戻していく・・・。函館を舞台に、懸命に生きようとする人間の「生の輝き」を描き出した物語です。原作を書いたのは函館出身の作家、佐藤泰志です。死後もなお人々を魅了し続ける佐藤の魅力に迫ります。

映画完成 佐藤の墓前に報告

函館市北部の東山墓園の一角に立つ墓石。函館市出身の作家、佐藤泰志(1949-1990)がここに眠っています。

佐藤の32回目の命日を前にした10月2日。佐藤が40年前に発表した小説を原作にした映画『草の響き』の製作スタッフが、映画の完成を報告しに訪れました。佐藤の小説が映画化されるのは、『草の響き』で5作目。そのすべてを手がけてきた函館市でミニシアターを営む菅原和博さんは、佐藤泰志の小説に出会い、人生が変わったといいます。

シネマアイリス 菅原和博 代表
「私は佐藤さんの小説に、映画をプロデュースするという新たな人生を与えてもらいました。小説がさらに多くの人に読まれることを願って映画の完成をご報告しました」

死後31年 再評価される佐藤泰志

佐藤泰志は1949年に函館に生まれました。函館西高校に在学していたときから数々の文学作品を発表し、少年文学賞を受賞するなど、その文才が早くから評価されていました。

1981年に『きみの鳥はうたえる』で芥川賞候補に選ばれたのを皮切りに、5回にわたって候補となりましたが、いずれも受賞を逃しました。佐藤はその後、1990年に東京で自ら命を絶ち、41歳の若さでその生涯を閉じました。佐藤の死後、単行本は絶版になり、作品は一時、世の中から姿を消しました。

そんな中、菅原さんの手で佐藤の作品が初めて映画化されたのは2010年のことでした。佐藤が亡くなってから、実に20年が経っていました。このとき映画化されたのは佐藤の晩年の作品、『海炭市叙景』。菅原さんはその後も、『そこのみにて光輝く』(2013)『オーバー・フェンス』(2016)、『きみの鳥はうたえる』(2018)と、次々と佐藤作品をスクリーンに送り出します。このうち俳優の綾野剛さんらを起用した『そこのみにて光輝く』は、カナダのモントリオールで開かれた世界映画祭で最優秀監督賞を受賞するなど、高い評価を受けました。映画の成功をきっかけに、原作となった佐藤の小説も再評価され、文庫本として復活しました。

そして去年、佐藤の没後30年にあわせ、5作目の映画として製作されたのが『草の響き』でした。これまでの映画化作品と同様、全編のロケが函館で行われました。

函館で先行公開 盛況の映画館

そして迎えた公開初日。北海道に出されていた緊急事態宣言の解除と重なったこの日、菅原さんが代表を務めるミニシアター「シネマアイリス」には、公開を待ちわびた多くの人が集まりました。

上映を前に、中心となって製作に取り組んだ菅原さんが、観客に向けて「去年の冬、寒い中に頑張って撮影した映画です。最後までゆっくり鑑賞してください」とあいさつしました。

シネマアイリス 菅原和博 代表
「作品には自信を持っていましたが、いざ公開初日を迎えると、コロナ禍の中でどれほどのお客さんに来てもらえるのか、不安な気持ちもありました。しかし、いざ公開を迎えると、初回の上映から多くの人が鑑賞に訪れてくれ、熱心に食い入るように見てくださっている姿を見てほっとしました。この作品が成功すれば次の作品にも取り掛かれるかもしれません。この映画のテーマや内容が多くの人に届けばいいと思っています」

斎藤久志監督に聞く 映画の見どころ

メガホンを取った斎藤久志監督は「函館のまちが持つ暖かさや冷たさといった独特の空気や町並みを生かした映画になった」と語ります。

斎藤久志監督
「原作の舞台が函館ではないということもあり、映画はどこの地方都市にもあてはまる物語に描き出してはいますが、函館が持っている独特のまちの空気とか雰囲気を生かした映像表現になっています。特徴的なのが、立待岬から主人公が飛び降りるシーン。今は遊泳禁止になっている立待岬ですが、昔の函館の人たちは泳いだり飛び込んだりしていたという話を聞いて、昔撮影された写真と同じ構図で狙って撮りました。『立待』は、佐藤泰志の同人誌のタイトルにもなっていて、今の若い人がどう思うかわかりませんが、かつての函館の人たちにとっては意味のある場所だったと思うんです。古き良き函館の人たちの時代と現代を重ねてどう見えるかや、あるいは海側の町並みと山の手側の町並みの違いなどを表現しました」

斎藤さんは、佐藤泰志の小説のエッセンスを映像に描き出す際に意識したことについても教えてくれました。

「原作『草の響き』に関して、過去に映画化された4作品と違うのは、ほとんど主人公の心の声だけでつづられている小説だということです。映画には心の声は映らないので、映像表現でそこをどう描き出すかをすごく意識しました。基本的には佐藤泰志が描いている、”孤独”や”生きにくさ”、そして彼がそれとどう戦ってきたかというところを、脚本家や演じる俳優さんたちと紡いでいきました。主人公は心の病を抱えているという設定ですが、病気ではなくとも、誰もが心の中のどこかに闇を抱えていると思います。映画を見た誰もが自分のことのように感じてもらえるテーマだと思いますので、お客さんそれぞれがいろいろな感想を持ってほしいと思っています」

広がり続ける佐藤文学

函館発の映画の公開とあって、地元でもこれを機に佐藤泰志の作品にあらためて触れようという催しが開かれています。函館市文学館で9月11日から始まった企画展では、映画の原作となった小説『草の響き』に関連した資料が展示されています。

こちらは、今回初めて公開された『草の響き』の自筆原稿。原稿用紙には佐藤の独特の角張った文字がびっしりと書き込まれています。

また、『草の響き』が掲載された40年以上前の文芸雑誌や、作品への思いをつづった知人あてのはがきも見ることができます。

このほか会場には、これまでに映画化された『海炭市叙景』や『そこのみにて光輝く』などのパンフレットやシナリオなどが展示されています。

函館市文学館 古川志乃館長
「映画化された作品を中心に佐藤の自筆の原稿などを展示していますので、普段見ることのできない資料を見ていただきたいです」

これまで5作品の映画化に携わってきた菅原さんは、「佐藤さんの文学にはまだまだ多くのすばらしい作品がある。情熱と体力が続く限りは映画製作に挑戦したい」と話します。また、佐藤泰志の未発表の小説が新たに単行本として出版される計画もあります。彼の作品は、今後もさまざまな形で世に送り出されていくことでしょう。

映画『草の響き』は、函館市のミニシアター「シネマアイリス」のほか、道内では札幌市、旭川市、苫小牧市などの映画館で順次、公開されます。

★映画『草の響き』の製作風景や、生前の佐藤泰志を知る人が語る秘話などをまとめた特集記事もぜひご覧ください!
NHK道南WEB取材班:10年間で5本の映画化 没後30年の作家・佐藤泰志の魅力とは(2020年11月掲載)

(2021年 9月30日、10月1日、10月5日放送)

<取材した記者>
渡邉 健
2019年入局。函館局が初任地。

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