NHK札幌放送局

衰弱死裁判 傍聴記④ 死因をめぐって主張が対立

ほっとニュースweb

2020年11月6日(金)午後10時46分 更新

去年、札幌市で2歳だった池田詩梨(ことり)ちゃんが衰弱死した事件の裁判は、4日目を迎えました。 この日は、死因を鑑定した法医学者が「低栄養による衰弱死だ」と証言したのに対し、弁護側は窒息死だったと反論しました。 (札幌局 取材班)

〈事件概要〉
札幌市中央区の無職、池田莉菜被告(22)は去年5月から6月にかけて娘の詩梨ちゃん(当時2歳)を衰弱させたまま放置し死亡させたとして保護責任者遺棄致死の罪に問われ、裁判員裁判で無罪を主張しています。

〈開廷〉
6日、午前10時すぎに開廷。
この日は、まず始めに死因を鑑定した法医学者が、衰弱死と特定した理由などを説明しました。

〈法医学者の証言①:「死因は低栄養による衰弱死だった」〉
・体重を維持するための食べ物がほとんど与えられず、低栄養となっていた。そのため多臓器不全で衰弱していた。
・胃の中から十分消化されていない米粒が見つかり、消化機能が低下していたことがわかる。また胃から唐辛子の成分のカプサイシンも見つかった。
・大腸からは、綿ごみや髪の毛のようなものが出てきた。そういった物を口 にするほど飢えていたと考えられる。
・亡くなる4か月前の去年2月の体重は8点5キロあったが、死亡時の体重 は6点7キロだった。身長は伸びていたのに体重が減っているのは、必要な食事をほとんど与えられていなかったためだ。
・丸1日、ご飯が与えられないと体重が1%ずつ減っていくので、およそ20日間かけて体重が減ったと考えられる。去年5月15日に警察官が自宅を訪れたとき詩梨ちゃんに異常は見られなかったことから、その後のおよそ20日間で急激に体重が減ったとと考えて矛盾はない。
・去年5月下旬にはぐったりして歩くことも声を上げて泣くこともできない状態になった。亡くなる数日前から意識障害も起きていたとみられる。
・死亡時の皮下脂肪の厚さは2、3ミリで脂肪がほとんどない状況だった。
〈法医学者の証言②:「暴行は直接的な死因ではない」〉
・詩梨ちゃんの頭部のけがには程度の重いものもあったが、直接的な死因ではない。死期を1日か2日早めたにとどまる。
〈法医学者の証言③:「窒息死の可能性なし」〉
・肺や気管支に水や食べ物が入っていない。
・窒息死の時に通常現れる、肺の溢血点がみられない。
・救急隊員が測ったときの体温が30度だったので、低体温症になっていた可能性が高い。低体温症は時間をかけて体温が下がっていくものなので、窒息死のように短時間で死亡するケースでは起こらない。

〈検察からの尋問〉
法医学者からの説明を踏まえて、検察官が質問を行いました。

検察官
「詩梨ちゃんのDNAがついたスプーンやストローが現場に残されていたが、意識障害ではそういった物を使うのは難しいのでは?」
法医学者
「意識障害にも様々なレベルがある。亡くなる数時間前ならまだ口に食べ物を入れたら反射的に飲み込める状況だったと推測している」。
検察官
「交際相手の藤原被告は、詩梨ちゃんが亡くなる数時間前にドーナツを与えたと証言しているが、胃の中からドーナツは見つかった?」
法医学者
「見つからなかった」


〈弁護側の反対尋問〉

一方、弁護側は、死亡する直前に衰弱していたことの根拠などについて何度も問いただしました。

弁護士
「去年5月15日から急激に痩せたのではなく、4月ごろから徐々に痩せたということでは?」
法医学者
「完全に否定は出来ないが、特定も出来ない」。
弁護士
「絶食した日から体重が1日1%へるということは、10日なら10%減少する?」
法医学者
「まあ、およそ」
弁護士
「文献には出てこないが?」
法医学者
「小児科の医師から聞いた話だ」
弁護士
「衰弱していく幼児を観察した経験はない?」
法医学者
「もちろんない」
弁護士
「経験も文献もないのに、何を根拠に亡くなる1週間前には歩けなくなったとか、死亡する数日前から意識障害も生じていたとか、あたかも横で観察していたかのように推定できるのか?」
法医学者
「死亡前の意識レベルが落ちていたのは低体温症を発症していたことや体重が落ちていることからわかる」


〈弁護側の証人も出廷〉

弁護側は、検察官の主張に反論するため、別の医師を証人として呼びました。
この医師は、低栄養による衰弱死ではなかったと述べたうえで、死因は窒息死だと考えられると証言しました。

〈医師の証言①:「衰弱していない」〉
・詩梨ちゃんの皮下脂肪はおなか周りにはほとんどなかったが、足の周りなどを見ると膨らみがあるのでまだまだ脂肪はあった。
・血液検査の内容から、低栄養ではあるが衰弱していたとは言えない。
・スプーンやストローから見つかったDNAは、無理矢理食べさせてついたものとは言えない。
・胃の内容物の量も、第3者に無理矢理食べさせられたものではなく、自分で食べた量としか考えられない。
〈医師の証言②:「窒息死を否定する根拠が不十分」〉
・肺や気管支に水や食べ物が入っていないことだけで、窒息死を否定することはできない。
・窒息死の場合、肺の溢血点が見られるという法医学の常識があるが、論文があるわけではなく、あくまで医師たちの経験から言っているに過ぎない。
・交際相手の藤原被告が「詩梨ちゃんが手を首に当てて苦しんでいた」と証言していて、これは医療関係者としては間違いなく、窒息のサインだ。
・救急隊員が駆けつけたとき、詩梨ちゃんは室内でおう吐していたという証言もある。

〈裁判員らが医師に質問〉
法廷で検察官への反論を展開した医師に対し、裁判官や、一般市民から選ばれている裁判員も質問を行いました。

裁判員
「詩梨ちゃんはどうしてのどを詰まらせ、なぜ吐いたか?」
医師
「良い質問ですね。なぜ吐いたかは、胃から見つかっているカプサイシンが胃を刺激して、それに驚いて戻してしまったのではないかと考える。子どもの場合、泣いたり、声を上げたりしただけでのどが詰まることがあり、そういうことも原因の1つではないか」
裁判官
「詩梨ちゃんの身体に残っていた脂肪について。おなかの脂肪は、
3点3ミリと2点8ミリ。これはどう受け止めている?」
医師
「おなかはかなり薄くなっている」
裁判官
「足は?」
医師
「足の部分の脂肪はかなり残っていると思う」
裁判官
「足の部分の脂肪がなくなってしまうには、どれくらいかかると思うか?」
医師
「1か月かかると思う」
裁判官
「低栄養と窒息死の関係はどう説明するか?」
医師
「もっと元気だったら、のどに詰まらせても吐き出せたが、低栄養の詩梨ちゃんは筋力も低下していてそのまま窒息してしまったと考えられる」

交際相手の藤原被告の裁判と同様に、死因をめぐって検察と弁護側の双方が鋭く対立しました。
次回、9日の審理でも、法医学者への質問が予定されています。
裁判は11日に検察側の求刑などを経て結審し、20日に判決が言い渡されます。

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