子どもや若者の居場所になっている札幌の一軒家を訪ねると、仲のいい親戚の家のような、心落ち着くあたたかい空間が広がっていました。(NHK札幌局ディレクター 川畑真帆)
子育ての取材をしていた時、「ここに行ってみたら?」と、ひとつのパンフレットを手渡されました。

子ども・若者の居場所 いとこんち
一人でのんびりしたり
みんなでごはんを食べたり
「おうち」のように過ごせるところ
お腹が減ってたまらないとき
ひとりで子育てするのに疲れたとき
自分ちをひと休みして、いとこんち。
なんだかほっとする言葉にひかれ、「いとこんち」を訪ねました。

出迎えてくれたのは、“いとこんちのおじさん” 松田考さんです。
―よろしくお願いします。「いとこんち」とはどういった場所なんでしょうか?
「いとこんち」は、家や学校以外に安心して過ごせるところを必要としている、おおむね13歳から19歳までの子どもや若者、また子育て中のひとり親が来られる居場所です。毎週火~木曜日の夕方から夜のあいだ使えます。
―ところで、松田さんの肩書は「いとこんちのおじさん」となっていますが…。
普段は札幌市若者支援総合センターで館長を務めていますが、ここにいるときは「おじさん」なんです。「いとこんち」というのは、いとこの家、親戚の家のように気軽に来てくつろげる場所にしたいという思いで名付けました。僕たち専門のスタッフが、親戚のおじさん・おばさんのように、ご飯を作ったり、一緒に遊んだり、勉強を手伝ったりしています。

―それで「いとこんち」なんですね!建物も、施設というよりは普通の一軒家で驚きました。
ここを始めたのは去年なのですが、もともと民泊として使われる予定だった家を、コロナ禍ということもあり借りることができました。子どもたちに「来たい」と思ってもらえるように、普通の家を使い、内装もおしゃれにするなど工夫しています。
―「いとこんち」に来るのはどんな子ども・若者たちなんでしょうか?
経済的な問題や家庭内の問題があり、すぐに危険な状態におちいるわけではないものの、慢性的に困難を抱えている子が多いです。「低温やけど」の状態と言えるかもしれません。子どもは、親のことを嫌いなわけではないけれど、しんどさを感じています。そうした子どもを親から離すのではなく、一時的に預かることで家庭を支援する。「日帰り里親」のようなイメージですね。
家庭の密室化を防ぎ、地域みんなで子育てする。「地域で見守る」とよく言われますが、「いとこんち」はその「地域」を体現することを目指しています。
―ほかの場所と比べてどんな特徴があるんでしょうか?
子どもや若者への支援はほかにもありますが、「いとこんち」は「家族システム」を担っているといえます。
札幌市若者支援施設 Youth+(ユースプラス)(※「いとこんち」と同じく公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会が運営)などでは、自習やおしゃべり、個別相談などがメインです。
子ども食堂に比べると、頻度が高かったり、買い物から一緒にしたりと、ごはんを食べるだけではないという違いがあります。もちろんこうした支援とも連携していて、複数の場所に通っている子もいます。

―「いとこんち」が大切にされていることはありますか?
「いとこんち」のモットーは「ただいまからおやすみまで」。帰って遊んでいたら、夕方、家族が料理をし始める。そうした音やにおいも含めて、家庭的な体験が必要だと考えています。
また、“共存”を大切にしています。「困っているから助けてほしい」というのではなく、気軽に来て一緒に過ごしたいと思ってもらえることを目指しています。
家庭、子どもには“枝葉の格差”があります。家族、友人、知り合いなどの枝葉が多ければ、日頃から人に頼れます。でも、大変な人ほど枝葉が少ないんです。僕たちが枝葉のひとつになれればという思いです。
―始まって1年ほど経つということですが、子どもたちに変化があったりしますか?
ヤングケアラーのような子もいるんですが、ここで子どもらしい時間を取り戻し、息抜きにもなっているようです。不登校だった子が、ここに来て元気になって、学校に行けるようになったこともありました。だんだんオープンになっていって、他の子とも仲良くなっていきましたね。
若い親にとっては実家代わりのような場所かもしれません。シングルマザーがごはんを食べられるイベント、シンママ食堂も開催しています。通ってくれているシングルマザーの一人は、「自分が中学の時にこういう場所があれば良かった」とつぶやいていました。

―働いているのはどんな方たちなんですか?行政とも少し役割が違うのでしょうか。
Youth+や児童会館で働いている職員が日替わりで担当しています。心理士や社会福祉士などの資格を持っていて、何かあればすぐに専門家につなぐこともしています。
行政や学校は発見機能、いとこんちは継続支援の機能を担っていると思います。児童相談所は一時的に家庭に介入することができますが、低温やけどの子どもを日常的に見守ることには限界があります。密室になりそうな家庭から出して、ほかの場所にいるところを増やすための役割がいとこんちだと思っています。そのために、親との関わりも大切にしています。
―こうした支援に関わりたいという人にできることはありますか?
「いとこねっと」という取り組みを始めようと思っています。「ごはん一食分なら」というような市民のサポートと、子ども・若者のニーズを「いとこんち」を中心にマッチングできればと。
ボランティアに来たいという方もいますが、そういった方には「おうちを開放してほしい」と言っています。里親ほどでなくても、「困ったときにいつでも来ていいよ、ごはんあるよ」という人を登録しておく、地元の子のショートステイのようなシステムを、今後始められればと思っています。
寄付も受け付けています。

松田さんに話を聞いていると、「おじさん、ただいま~」と子どもたちがやってきました。
「今日のごはん何?」とおばさんに聞く、高校1年生の女の子。
「今日はもらった玉ねぎがあるからカレーにしようかな」と話すおばさんと一緒に、買い物へ出かけていきました。
中学2年生の男の子は、「今日は別室登校じゃなくて教室に行けた!」と嬉しそうにおじさん(松田さん)に報告。
将来は天文学者になりたくて、この前の休日は松田さんと一緒に札幌青少年科学館に行き、プラネタリウムの人に話を聞いたりもしたんだとか。
ごはんまでの時間、松田さんとテレビゲームで対戦。二人とも本気モードです。買い物から帰ってきた女の子が楽しげに応援します。
おいしそうな匂いとともに、おばさんから「ごはんできたよ~」と声がかかったところで、おいとますることにしました。
こうしたあたたかな居場所が広がっていくといいなと思いながら。
2021年7月2日
いとこんち
札幌のこども・若者・子育てママが、自分の家をひと休みして過ごせるおうち。毎週火〜木曜。寄付も受け付けています。詳しくは「いとこんち」のTwitterをご覧ください。
問い合わせ:札幌市若者支援総合センター 電話011-223-4421(月~土 10~18時)
