札幌市にある丘珠空港。滑走路を300メートル延伸する計画の実現に向けて札幌市が動きを活発化させている。目指すのは冬のジェット機就航だ。(札幌放送局 三藤紫乃)
札幌市の計画 滑走路を1800メートルに
丘珠空港は札幌市東区、市の中心部から北東に約6キロのところにある。
陸上自衛隊との共用空港で正式には「札幌飛行場」と言う。
函館や釧路のほか、三沢(青森県)や松本(長野県)、静岡(静岡県)など道内外、計8路線の定期便が就航している。(※2022年12月現在/松本・静岡便は夏ダイヤのみ)
チャーター便を含めた乗降客数は2021年度、19万9600人。コロナ禍で旅行需要が減退する前の2019年度には26万7134人を数えた。(※いずれも札幌丘珠空港ビル調べ)
札幌市が計画するのは、この丘珠空港の現在1500メートルの滑走路を10年後をメドに300メートル延伸し、1800メートルにするというものだ。

延伸の目的① ジェット機の通年発着を
延伸の目的はジェット機を夏冬1年を通じて発着できるようにすることだ。
いまもジェット機は飛んでいるが、短い滑走路では冬場は雪で路面が滑りやすくなり、安全に離着陸が出来ないことから運航は夏場に限られている。
道外の松本や静岡を結ぶ便はジェット機で、これらの便が10月下旬から3月下旬にかけて冬場に運航されていない背景にもこのことがある。
滑走路を1800メートルに延伸すれば、年間を通じてジェット機が運航出来るようになり、コロナ禍前まで上り調子だった観光客やビジネス利用を一段と呼び込めるというわけだ。
空港の運用時間を今よりも1時間程度拡大することで、発着便数は今の1日最大30便から70便程度にまで増便可能に。市はプロペラ機よりも座席数の多いジェット機の運航が増えれば、乗降客数は100万人程度、今の4倍近くにまで増やせると見込んでいる。
延伸の目的②メディカルウィング 医療面の機能強化も
さらに、市が延伸計画のポイントとして挙げるのが医療面での機能強化だ。
丘珠空港は高度医療が必要な道内各地の患者を医療用のジェット機で札幌の病院に運ぶ北海道の「メディカルウィング」事業の拠点にもなっている。
この医療ジェットも冬場は運航できない。
今は、冬の間は新千歳空港を経由して陸路で札幌の病院まで運んでいるが、滑走路の延伸で冬場の搬送がスピードアップ出来るとしている。

空港は国土交通省と防衛省が管理しているため、延伸は国の事業となる。
滑走路の延伸や駐機場の増設など直接の事業費として150億円から200億円がかかるとされ、このうち札幌市と道の負担額は23億円から30億円と試算されている。
このほか、延伸に伴うターミナルビルの拡張やボーディングブリッジの整備など空港施設の整備事業費として100億円から150億円がかかる見通しだ。
延伸計画への反応① 地元住民への説明会では…
滑走路延伸をめぐっては、2016年以降、300メートル延伸する案と500メートル延伸する案の2案が検討されてきた。
約6年にわたる議論の後、500メートル延伸した場合は騒音が増し、事業費の増大なども懸念されるとして、今年5月に300メートル延伸案がまとまった。
9月以降、市は16回に分けて住民向けの説明会を開催。9月1日に行われた初めての説明会には空港周辺に住む住民約30人が出席した。
参加した男性(79)
「空港を通じて多くの人が出入りすることはまちの発展にとって大事で、空港がまちづくりの中心になってほしい」
参加した女性(72)
「便数が増えると騒音も増すので、滑走路の延伸や増便はせず、現状を維持してもらいたい」
出席者からは「訪れる人が増え、まちの発展につながる」として計画を後押しする意見の一方、「便数が増え、騒音が増すのではないか」とか「生活の実態を踏まえた騒音の測定をしてほしい」「防音工事の費用を補助してもらいたい」など、環境への影響を懸念する声や対策を求める意見が相次いだ。

延伸計画への反応② 市民からの意見募集では…
市は今年8月から約2か月間にわたり、市民からの意見募集も行った。
計画について寄せられた3657件の意見をまとめた結果、「肯定」的な意見が1095件で29.9%だった一方、「否定」的な意見は237件で6.5%にとどまり、市は計画に肯定的な意見が否定的な意見を上回ったとして、実現を後押しする結果だと捉えている。
このほか意見には、計画については肯定とも否定とも判断がつかないものの、「計画以上の機能強化」を求めるものが17.4%、「周辺環境への影響」に関するものが16.2%、「さらなる検討が必要」とするものが11.1%あったという。
市は、滑走路の延伸が騒音や危険性の増加につながるといった懸念に対し、定期的な騒音調査の徹底などを対策に掲げ、市民の理解を求めたいとしている。
延伸実現へ協議会発足 年内にも国に要望開始へ
延伸計画の実現に向けて、札幌市は11月、北海道経済連合会など経済団体や新千歳空港など道内7空港を運営する北海道エアポートなどとの協議会を発足させた。

11月22日に開かれた初会合では関係省庁への要望など計画実現に向けた活動を加速させる方針を確認。
翌週の30日には札幌市の秋元市長が北海道の鈴木知事と会談し、要望活動などを協力して進めていくことで一致した。
鈴木知事
「丘珠空港の機能強化は道の将来展望の実現にとっても重要な取り組みだ。丘珠空港のよりいっそうの利活用と機能強化が進むよう連携していきたい」
札幌市 秋元市長
「丘珠空港の活性化は北海道全体の発展にもつながる。道や経済界と一丸となり、国への要望活動を行っていきたい」

旅行需要の取り込みと医療体制強化を見据えた滑走路延伸。
札幌市と道は年内にも国への要望活動を開始する方針だ。

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