NHK札幌放送局

となりのヒグマ2020 web

0755DDチャンネル

2020年6月20日(土)午後4時30分 更新

人の暮らしのすぐ近くで生きている「となりのヒグマ」。人とヒグマが残念な関係にならないように、知床世界自然遺産のまち 羅臼町と札幌市南区で、「できること」を地域の人たちが始めています。
 初回放送:2020年6月20日
web版動画:2020年6月25日掲載

「いかにヒグマを近づけないか」

6月中旬の日曜日、羅臼町松法町の空き地に草刈機を手にした20人が集まりました。「ヒグマ対策」に取り組む、松法町町内会のメンバーと、社会貢献で参加の地域の建設会社の人たちです。
松法町は、松法川の左岸側、海岸沿いを中心に集落があります。背後の山と集落の間には広大な「空き地」があり、フキの草原が広がっています。このフキこそ、ヒグマにとっては「食べ物」であり、時には「身を隠す隠れ蓑」にもなります。

ヒグマ対策を始めます よろしくお願いします

町内会長のあいさつもそこそこに草刈り開始。「ヒグマ対策」とは、フキを刈り倒し、ヒグマが住宅のそばに近づきにくくすることです。

松法町町内会長
いかにクマを住宅地に近づけないか、みんなそれをわかっているので協力してくれている。町内会でできるのは草刈りと生ゴミを家のまわりに出さないことくらい

ヒグマにとって草やぶとは?

ヒグマが出やすい草やぶとはどんなものなのか。羅臼町とともにヒグマ対策を担う知床財団の担当者に、対策が必要となるフキの草やぶを案内してもらいました。

知床財団・白栁さん
ここに小川が流れています。クマは山から川沿いに下りてくることが多いんです。それに加えて、クマの主要な食べ物でもあるフキ、セリ、こういう植物が群生していると、余計にクマが来やすい環境です。こういう環境がちょっと良くない。

0755スタッフ
こういう場所はクマにとっては餌場なんですか?それともかくれる場所?

白栁さん
両方ですね。食べ物でもあるし、身を隠せる場所にもなってしまう

0755スタッフ
こういう環境が住宅の周りにあるとよくない?

白栁さん
そうですね。クマが接近するための導線になってしまう。クマは、山からやぶを辿って降りてきて海岸沿いまで近寄りやすい環境になってしまいます。さらに、ちょうどクマにとっても食べ物が少なくなる時期に、こういったフキだとかセリが育つ。なので余計に来てしまう

ヒグマ対策の最前線にいる白栁さんがもっとも懸念しているのは、そうした「導線」をたどってやってくるヒグマが、人為的な食べ物の味を覚えてしまうことです。

白栁さん
取っかかりが、豊富にある植物、手に入りやすい食べ物を求めてくる、これが第一段階で、もし、そこで、より栄養価の高い人為的な食べ物の味を覚えてしまうと、問題になってしまう。生ごみだとかそういったものですね。そういうものを食べさせないということが大事です

0755スタッフ
ヒグマが近寄ららないように草刈りは大事ですね

白栁さん
クマを人里に近寄らせない環境づくりが第一だと思います


||| ヒグマ豆知識:壁を残すように食べる!? |||
ヒグマは、「やっぱり身を隠したい」「人に見られたくない」という警戒心も併せ持っている。なので、フキの群生地にやってきたクマは、壁を残すように、内側で食べる。外からは見えないのに、ちょっと草をあけてのぞくと、クマの食べた跡がいっぱいあると言うような状況はよくある。


弱点を住民の力で克服

羅臼町は、もっとも住宅が密集している中心の市街地をぐるっと囲うように電気柵で囲っています。その距離、1.8km。山から市街地エリアに入ろうとするヒグマは、電気柵に触れると高圧の電流に行手を阻まれます。

電気柵は、有効なヒグマ対策であるものの、長い距離に設置するのには、無理があります。羅臼町は、まさに、山が海に迫る海岸線に沿って細長く集落があるため、すべてを電気柵で囲うことはできません。
しかし、去年、そうした海岸線の地域で、飼い犬がヒグマに襲われる被害が3件発生。いずれのケースもヒグマは草やぶをつたって近づいていました。

その対策として、羅臼町と知床財団は、各町内会に「草刈り」を提案。17の町内会のうち、海岸線を中心に10の町内会が草刈り実施を決めました。

6月中旬の日曜日には、そのうちの松法町・礼文町南・知昭町の3つの町内会が草刈りに出動。あわせて50人以上の町民たちが、ヒグマ対策としての草刈りに取り組みました。

知昭町町内会長
駆除ばかりでなくて、わたしたち住民に何ができるのか、その第一が草刈りという分野だと思う。草を刈ることによって、クマが人里によりにくくなってくれればと期待しています

町内会メンバーの一生懸命ぶりについて聞いてみると…。

知昭町町内会長
自分の家の草刈りだってこんなにやったことなかった(笑) これを機に自分の家の周りも草刈りしたいと思います

手応えあり 行政とヒグマ対策担当組織

羅臼町はいま「ヒグマに負けない地域づくり」をスローガンにヒグマとの共生の道を探っています。
町ではヒグマ対策の3本の柱を設定。

  • 住民との協働で予防策を徹底
  • 科学的手法で問題個体を特定
  • 問題個体を確率の高い手法で捕獲

町内会ごとの草刈りは「住民との協働」の第1歩で、7月初めまでの間に、10の町内会すべてで行われ、これまでになかった全町的なヒグマ対策となります。

担当する産業創生課・大沼課長
草刈りでヒグマが近寄らないようになったという結果がでれば、さらに多くの人に取り組みが広がると思います

一方、町とともにヒグマ対策を担う知床財団の中西羅臼地区事業部長も手ごたえを感じていました。

中西部長
たくさん人が集まっていましたし、暑い中、予定の倍ぐらい面積で草を刈ったりしていました。ありがたいです。人の方が気をつければ、ヒグマとのトラブルは減っていくということを知っていただきたいです


3か所の町内会の草刈りを手伝った知床財団の職員のひとりは、事務所にもどったあと、草刈機の手入れをしながら、こう話してくれました。

5000人が住む羅臼町で、きょうだけで50人の方が協力してくれた。これってスゴイことですよ


札幌では果樹伐採活動 開始

札幌市南区では、ヒグマが人里に現れる要因のひとつ、「果樹」をボランティアの力で取り除く対策が新たに始まりました。主催しているのは、環境市民団体 エコ・ネットワークとヒグマ対策を手掛けるNPO法人EnVision環境保全事務所です。

きっかけはエコ・ネットワークに、「放棄された果樹がヒグマを誘引しているのでなんとかならないか」と相談があったこと。エコ・ネットワークには、牧草地に落ちていてトラクターのパンクの原因となる、シカ角をひろうボランティアツアーを開催した実績がありました。

去年、札幌市内でのヒグマ出没件数は196件。そのうちの22%にあたる44件は、果樹が関係する出没でした。

撮影:札幌市

去年の夏、住宅街に出没して藤野地区で駆除されたヒグマも、放棄された果樹の実を餌として利用していたことがわかっています。

グループが最初の活動をした簾舞地区の元果樹園ではサクランボがすでに緑色の実をつけていました。

エコ・ネットワーク 小川代表
これからの時期、サクランボの実がなる。クマは大好きですから、それに集まってくる。こういう放棄された果樹を、住民の力で取り除いていきたい

グループでは、ボランティアを募って、放棄果樹の伐採とヒグマの通り道になる川沿いのやぶの草刈りをこれから秋にかけて行う予定です。

エコ・ネットワーク 小川代表
クマがこわいっていうだけじゃなくて、今度はわれわれ人の方が何をしたらいいのかと考える番じゃないかと思っています

※ボランティアの募集については、こちらの記事を参照ください。

2020年6月20日



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