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イトウを数える〜猿払イトウを見守る方法〜 0755DDチャンネル

  • 2023年6月12日

イトウの数少ない生息域の猿払村で、イトウの生息状況を知る新たな方法の模索が始まりました。2021年夏の異常高温と渇水でイトウの大量死が起きたことがきっかけです。地域でイトウを見守る人たちと研究者が、力をあわせて始めた取り組みを追いました。
 
初回放送:5月27日(土)/ web版動画掲載中

「魚カウンター」でイトウを数える

猿払村を流れる川の上流域。平坦な森の中を蛇行しながら流れる幅4メートルほどの川に、この春、長さ1メートル50センチ、幅50センチ、深さ60センチの木製の装置が運び込まれました。横から見ると「コの字型」、流れに沈めて使います。寒地土木研究所水環境保全チームの「魚カウンター」です。

魚たちは下流側からこの装置に入ると、取り付けてある3つの電極が魚の動きをとらえて、通過した魚の数を数えます。
産卵のために、遡上してくるイトウの数を数えるのが狙いです。

寒地土木研究所水環境保全チーム 布川雅典 主任研究員
「この川にはイトウが産卵のためにのぼって来るのですが、イトウが何匹のぼってくるのかは正確には分からないんです。のぼってくるイトウの数がわかれば、流域のイトウを守っていくための重要なデータになります」

布川さん(左)


手弁当でイトウを見守る人たち

日本最大の淡水魚イトウは、北海道でも限られた川にしか生息していません。イトウがすみ子孫を残していくためには、さまざまな環境が必要だからです。
小石がある産卵に適した最上流部から、親魚が魚や小動物を待ち伏せして捕食できる下流のゆったりとした流れまで。川の上流から下流まで、多様な環境を利用できなければ、命をつなぐことができないのです。

貴重な生息域のひとつ猿払村では、市民グループの「猿払イトウの会」がイトウたちを見守ってきました。2005年に結成され、村内の人を中心に30人のメンバーがいます。

イトウの会の主な活動の一つが、生息環境の改善です。
この木材を組み合わせた「かさ上げ工」は、会のメンバーが手作業で設置しました。

林道下のコンクリートの水路部分の入り口に段差ができて、イトウが上流にいけなくなっていました。そこで、直下の流れの水位をあげて、泳ぎ上がれるようにしました。

猿払イトウの会 川原満さん
「イトウの会のメンバー以外の建設業のかたとか大工さんとかにも手伝ってもらって、試行錯誤しながらつくりました。対策が実るかたちで、ことしもこの上流で産卵床が確認されています」

猿払イトウの会では、こうしたイトウがのぼれなくなっていた場所6カ所で対策を行ってきたほか、大雨のあとなどに、倒木や流れてきた枝で水路の入り口が塞がっていないかなど、パトロールもしています。

「むらの魚」を次の世代にも知ってもらう

2022年には、猿払村の次の世代を担う子どもたちにもイトウを知ってもらうため、絵本「イトウってなーんだ」を出版しました。会のメンバーが1年をかけて構想を練り、卵が産み付けられてから、親魚に育っていくまで、村内を流れる川のどんな環境で暮らしているか読み進むことができます。

猿払イトウの会 小山内浩一 会長
「保育所の世代のころからイトウを知ってもらおうと思って、今回この絵本を作りました」

最後のページには、見開き4P分を使って、実物大のイトウを表現しました。

「イトウの大きさだったり、婚姻色の赤のきれいさであったりを知ってもらいたくて。これ以上、でっかいイトウもいるんだよって、絵本を見ながら、興味を持ってもらうスタートになって欲しいんです」


環境異変とイトウのモニタリング

イトウたちが産みつけた卵は、初夏にふ化して産卵床から川の流れに浮上します。猿払イトウの会では、この稚魚のふ化状況も調査しています。

手前がイトウの稚魚(前年に浮上した個体)

2021年は特別な年になりました。順調に浮上を始めていた稚魚たちの姿が、7月下旬に突然少なくなったのです。水温が急上昇していました。

2021年7月の猿払村、浜鬼志別の日の平均気温と降水量を、平年の値と比べたのが、こちらのグラフです。

日の平均気温が、7月中旬以降、平年値を上回り続け、23日には25.1度に達しました。これは平年値に比べ8.2度も高い数値でした。
さらに、雨も、7日に6.5mmを記録したのを最後にまったく降水を記録せず、川は異常な高温と渇水に見まわれていたのです。
猿払イトウの会では、村内の流域を調査。少なくとも親魚50匹が死んでいるのを確認しました。

その翌年の2022年春の産卵床の調査では、この大量死の影響と見られる結果が現れました。支流によっては、平年に比べて産卵床が8割減ったところも出てきたのです。

猿払イトウの会 小山内浩一会長
「20年以上この活動をやっていますが、初めてのことだったので非常にショックですし、これからも温暖化が続くようであれば、今年、来年も起きないとは限らないと危惧しています」

このため、猿払イトウの会では持続可能なイトウ釣りと保護の両立のために、いま(2023年)も、6月・9月・10月以外のイトウ釣りの自粛を、釣り人に呼びかけています。

「次世代にこのイトウ釣りの文化を伝えていきたいし、イトウは猿払のシンボルでもあります。今後、会で行っている産卵床の調査結果や、研究者の方々のデータなどを参考にしながら、自粛期間を短くできるか判断していきたい」

「広大な」猿払村でどうイトウを見守る?

イトウの大量死をきっかけに、この春、始まったのが、「イトウを数える」プロジェクトです。
広大な猿払村を流れる各河川・支流のイトウの生息状況を知る方法を探りたい、という思いに賛同した研究者たちと、猿払イトウの会が始めました。

主なメンバーと分野は—

  • 猿払イトウの会 → 産卵床のカウント
  • 寒地土木研究所水環境保全チーム → 遡上数のカウント
  • 徳島大学大学院生態系管理工学研究室 → イトウの環境DNA分析

調査は、イトウの産卵支流のひとつを対象にこの春、行われました。

猿払イトウの会の川原さんは、その区間を歩いて産卵床の数を数えます。川底を観察して、尾びれで砂利を跳ね上げた場所や、卵を砂利で覆った場所を見極め、産卵床を数えていきます。知識や経験が必要な上、歩く手間がかかります。

寒地土木研究所水環境保全チームの布川雅典主任研究員は、魚カウンターを使ってイトウの遡上数を数えます。魚カウンターは、取り付けてある電極の間をイトウが通過する際に起きる電圧の変化で、動きを計測していきます。

寒地土木研究所水環境保全チーム 布川雅典 主任研究員
「イトウが、いつのぼっていったのか、波形のできかたによって、どんな風に泳いで行ったのかを知ることができます」

そして環境DNAでイトウを探る徳島大の河口洋一准教授は、遡上期間に定期的に川の水をくんでサンプルを取り出し、イトウのDNA濃度を分析します。

徳島大学大学院生態系管理工学研究室 河口洋一准教授
「検出されるイトウの環境DNAは、遡上数と関係性があるのか、それとも産卵床の数と関係性があるのか、そういったことがおそらく見えてくるんじゃないかと思います。2つの調査とセットで取り組むことで初めて見えてくるので非常に興味深いです」

猿払イトウの会の川原満さんは今回のプロジェクトのその先に、将来、川の水をくむことで、ある程度イトウの生息状況を推察できるようになることを、期待しています。

川原さん(左)

猿払イトウの会 川原満さん
「今は、産卵河川を何キロも何十キロも歩いて、目視で産卵床を確認するという手法などに限られています。ゆくゆくは水を汲むことで、となれば、市民団体や地域の自治体でモニタリングが可能になって、北海道各地のイトウを守る活動に役立つのではないかと思っています」

撮影・文 向井徹

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