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WEBニュース特集 旧ロシア領事館、売ります

北海道WEBニュース特集

2020年10月23日(金)午後3時48分 更新

函館市の魅力といえば? 異国情緒あふれる歴史的建造物ですよね。ハリストス正教会や旧イギリス領事館など、どれも函館市にとって重要な観光資源です。旧ロシア領事館も、そのひとつ。一世紀以上の歴史がある由緒ある建物です。ところが、所有する函館市が、「民間事業者に売却する」と表明したことで、建物の保存と利活用を巡り、にわかに議論が起こっているのです。市にとって大切なはずの建物、なぜ売ってしまうのでしょうか。

“国の重要文化財に値する”

函館山の麓の一角で、港を望む急な坂道を上ったところに、旧ロシア領事館は建っています。建設されたのは明治41年。赤いレンガと白いしっくいが印象的なレンガ造り2階建てで、ドイツ人の技師が設計しました。帝政ロシア時代の領事館としては、日本に唯一現存する建物で、玄関の上には日本風の「唐破風」が見られるなど、和洋折衷の工夫がうかがえる珍しい様式が取り入れられています。

中に入って正面にある階段の手すりや柱には、「ビザンチン様式」をほうふつとさせる装飾がほどこされ、帝政ロシア時代の面影が色濃く残されています。また北側には、窓の大きなバルコニー風の部屋もあります。

戦前、ノモンハン事件をきっかけとした日本と旧ソ連の関係悪化を背景に、日本の軍部が、港を一望できるこの高台から領事館を立ち退かせようと画策したと言われています。

建築史に詳しい北海道大学の角幸博名誉教授
建物自体のデザインが大変ユニークで、明治40年代の建物としては空間構成も含めて、設計者の意図が的確に表れている建物だ。国の重要文化財にもなりうる建物だと思う。

朽ちる建物 そして売却へ

しかし、建物は24年前に閉鎖。外壁やしっくい、それに建具などの傷みが激しい部分もあり、老朽化が進んでいます。

改修の必要性が長年、指摘されていましたが、費用は1億円を超すと試算され、財政状況の厳しい函館市には自力で工面することができませんでした。さまざまな活用方法を検討してはみたものの、どれも途中で頓挫してしまったため、事実上、放置してきたのです。
そしてついに、市はある決断をしました。ことし2月の市議会で、工藤寿樹市長が建物を民間事業者に売却する方針を初めて明らかにしたのです。

工藤寿樹函館市長の議会答弁
「公募型プロポーザルにより事業者の募集を行い、売却することにより旧ロシア領事館の有効活用を図ってまいりたいと考えております」

なぜ売却なのか。その理由について、旧ロシア領事館を担当する国際・地域交流課の鹿礒洋子課長は次のように説明しました。

鹿礒洋子国際・地域交流課長
財政的な問題もあり、具体的に活用方法を進めることがなかなか難しかった。売却の手法でも、この歴史的建造物の保存活用していただけるのであれば、その方がよいのではないかと判断した。

交錯する市民の思い

市の売却方針を地元の人たちはどう思っているのか、町で尋ねてみると、「もったいない。市でなんとか手を入れることはできないのか」と批判的な声が聞かれた一方で、「やむをえない」「維持していくということが今の状況で大変なんじゃないか」など、一定程度の理解を示す声も聞かれました。

住民のさまざまな思いが交錯する旧ロシア領事館。実は戦後、函館市が購入すると、およそ30年間、青少年の宿泊研修施設「道南青年の家」として利用されてきました。利用した人は延べ37万人以上にのぼり、子どもから大人まで、多くの人に親しまれた建物でした。

横山絢子さんも、そのひとりです。小学5年生だった昭和63年、旧ロシア領事館で開かれたクリスマスの宿泊イベントに友だちと参加しました。さまざまな学校の子どもたちと触れあいながら、けん玉やコマといった昔の遊び、それにもちつき大会なども行い、楽しい思い出しかなかったそうです。

横山絢子さん
そんな価値のある建物で、いま思うとお泊まり会とかできて、すごくいい体験でした。私たちが使ったように、子どもたちや観光に来た人たちが中も見せていただけるような施設にしてほしいですし、そういった私たち市民の思いをくんでいただける事業者に、市はうまく売却してほしいなと思います。

一方で、市の売却方針に反対の声を上げた人もいます。そのひとり、函館市の歴史的な町並みを守る活動を続けている佐々木馨さんです。市が建物の利活用の方法を検討していることは知っていましたが、まさか売却するとは思っていなかったといいます。

佐々木馨さん
寝耳に水という感じだったですね。多額の改修費用がかかるから民間の力をっていうのは、あまりにも無責任じゃないかと。民間の業者の意のなすがごとくに内部が改変されてしまって跡形もなくなってしまうのではないか、これが一番恐れていることです。

危機感を覚えた佐々木さんは、複数の市民団体とともに、売却以外の方法を模索することや、市の文化財への指定などを求める要望書を市に提出しました。また9月には、市の許可を得たうえで、旧ロシア領事館の内部の見学会を開いたり、建築や歴史の専門家を招いた講演会も開きました。その理由について、佐々木さんは「領事館は市民全体の財産だし宝物です。これは後世にしっかりと継承し、つないでいく必要があると思います」と力を込めて話していました。

市民の理解、得られるか

懸念の声もある中、市は今月中旬、売却にあたって民間事業者を選ぶための募集要項をまとめました。この中で、建物の活用や改修をする際は、歴史的建造物としての価値を損なわないことや、20年間は転売を禁止することなど、事業者側を一定程度、制約する条件を盛り込み、工藤市長は「これで理解してもらいたい」と述べて、売却に懸念を示す住民に理解を求めました。一方で、国の重要文化財などへの指定については「調査に時間がかかる」などとして、否定的な考えを示したままです。
観光資源にもなりうる歴史的建造物をみずから手放す決断をした函館市。地元の理解をどれだけ得られるのか、これから問われることになります。

(函館放送局・鮎合真介 2020年10月22日放送)

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