NHK札幌放送局

クマ出没相次いだ旭川市 ハンター職員が対策に奔走

道北チャンネル

2023年1月18日(水)午後2時58分 更新

およそ32万人が暮らす北海道第2の都市・旭川市。その中心部におととし(2021年)から2年連続でクマが出没しました。人的被害はなかったものの、最前線でクマの対応にあたる市職員は「人がけがをする危険性は常にあった」と振り返ります。神出鬼没のクマに振り回された反省から、ことし・2023年は“市街地にクマを寄せつけまい”と新たな対策で挑みます。
(旭川放送局 海野律人)


2年連続 中心部に侵入許す

去年(2022年)8月21日午前6時。旭川市中心部を流れる美瑛川の河川敷で自動カメラがクマの姿を捉えました。その3時間後、すぐ近くの市の施設の敷地内を猛スピードで走るクマが目撃されます。さらに、翌22日には、住宅街にある墓地やゴルフ場所でも目撃情報が相次ぎました。

旭川市内では、おととし(2021年)夏にも、多くの人が集まるJR旭川駅や市民の憩いの場「常磐公園」の周辺でクマの目撃や痕跡の発見が相次ぎ、市や警察が対応に追われました。

旭川市内でクマが出没したとき、最前線で対応にあたる旭川市環境総務課の橋口城児さんは「クマが少しずつ街に近づいてきている」と行動の変化を感じています。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「クマは基本的に人がいるところには積極的に近寄らない生き物だが、まわりを山に囲まれている旭川市は、街に複数の河川が流れ込んでいて、クマが河川敷の茂みなどを通って人の存在を感じず中心部にまで侵入してしまう」


2021年の対策 自己採点は20点

橋口さんの指摘どおり、おととし(2021年)最初にクマのフンが見つかったのは美瑛川沿いの林でした。同じ日にはJR旭川駅に近い忠別川の河川敷にもフンが。旭川市は4日後に河川敷を封鎖しますが、その後も市内各地でクマの痕跡が見つかりました。

この年の対策、橋口さんの自己採点は…。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「評価は20点くらい。対応が後手にまわってしまった。専門家によると、クマの移動距離はオスであれば1日数十キロも動く可能性がある。つまり、旭川の端から端まで移動できるということ。専門的な知見を生かすことができず、私自身も想定が甘かった」

おととし(2021年)はクマに精通している人材も不足していました。クマの痕跡を識別できる職員はハンターの資格を持つ橋口さんだけだったのです。

クマ対策の定石は痕跡を見つけてその行方を追うこと。痕跡から個体の特徴を把握し、居場所を特定していくのです。橋口さんは真夏の炎天下、クマの痕跡を追い求め河川敷を歩き続けました。しかし、熱中症でダウンしてしまいました。結果、市は有効な対策をとれず、河川敷の封鎖を半年近く続けざるをえませんでした。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「『クマが市街地にいるかもしれないし、いないかもしれない』という不安な状況が長期にわたって続いた。札幌市でもクマによるけが人が出ていた時期で、旭川でも同様の事態に発展するおそれがあった」


反省いかし対策強化

おととし(2021年)の反省から旭川市は、去年(2022年)、クマ対策を強化しました。まず、侵入経路となった美瑛川の河川敷に電気柵を設置。そのうえで、河川敷の草を刈って、クマが身を隠せる場所をなくしました。見通しがよい場所をクマは嫌うということで、河川敷が通り道となるリスクを減らすのがねらいです。

草が生い茂る河川敷

草が刈られ、電気柵が張られた河川敷

課題となっていた人材育成も進めました。「このフンはクマのものか、それともタヌキか」。「この木の傷はクマがつけたものか、あるいはシカが角を研いだ跡か」。橋口さんは若手職員2人にクマの痕跡の特徴を伝え、識別ができるようになるまで育て上げました。

こうした対策が功を奏し、8月にあらわれたクマは見失わずにリアルタイムで追跡ができました。クマの行き先を想定して先回りし、市街地に侵入しないよう爆竹を鳴らしたり、市の広報車のスピーカーから音を出して巡回したりして、クマにプレッシャーをかけ続けました。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「住宅街にまで入らせないよう措置を講じることができた。前年のことも踏まえて組織としての危機感があって、全体的にかなり進化したと思う」


ことしは市街地に寄せつけない!

ことし(2023年)の橋口さんたちの目標は「クマを市街地に寄せつけない」。

効果を期待しているのが「ヘア・トラップ」です。クマが興味を示すにおいをしみ込ませた「くい」を有刺鉄線で囲んだもので、体をこすりつけてきたクマの毛を採取できます。その毛からDNAを分析。一頭ごとに個体を識別して、行動エリアの特定につなげます。

また、あわせて設置された自動カメラがクマを撮影。画像はすぐに職員に送られ、ただちに現場にかけつけることができます。

さらに、橋口さんは人間や市街地に近づかないようクマを“教育”できないか、対策を検討しています。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「クマは学習能力が高い生き物。『人間は怖くない』、『人間はおいしいものを作ってくれる』と“学習”していることが出没の背景にあると考えられている。だからこそ、その学習能力の高さを逆手にとって、『人に近づくと痛い目を見る。これ以上先には行かないでおこう』と“学習”してもらい、人里に降りてこないようにしていきたい」

クマと遭遇したとき、冷静でいられる人はいませんが、それはクマも同様です。パニックを起こした結果、人に危害を加えるおそれがあります。突然、鉢合わせすることがないよう、橋口さんは「人間とクマが暮らす場所をすみ分けることが大切だ」と話しています。

旭川市環境総務課  橋口城児さん
「豊かな自然に恵まれた旭川は、すべての生き物にとって住みよい場所であってほしい。クマも人間も不幸な事故が起きないよう対策を進めていきたい」


取材後記

取材で印象的だったのは、橋口さんがおととし(2021年)夏に河川敷を調査した際の話でした。バーベキューで使われたとみられる食材など、クマを呼び寄せる可能性のあるゴミが多く散乱していたということです。

「両手に持ったゴミ袋が河川敷で拾ったゴミでいっぱいになった」と当時を振り返る橋口さん。変わらなければいけないのは旭川市のクマ対策だけではありません。私たち市民の意識も変わっていかなければいけないのではないでしょうか。


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