利尻島の滞在2週目を迎えました。 滞在8日目、ローカルフレンズの梅村みゆきさんに、島の子どもたちに関わる、ある男性がいると聞き、利尻町に向かいました。
出会ったのは、廣瀬諒(ひろせ・りょう)さん29歳、去年の春から小中学生に向けた塾を開いています。

廣瀬さんは、4年前に東京から利尻島に移住してきて、地域おこし協力隊として、島の高校生に勉強を教えていました。去年、協力隊を卒業しましたが、島の子どもたちの役に立ちたいと利尻島に残り、塾を開講しました。
実は島には小中学生向けの塾は廣瀬さんの塾を含め2つしかありません。
ただ廣瀬さんが営む塾は一般的な進学塾とは違うんです。
廣瀬さんの塾のモットーは「やりたいことを見つける」。
そのため何を学ぶかは自分で決めるんです。国語、数学、英語をやってもよし、プログラミングでも、自分の興味のあることを調べるもよし、なんでもありなんです。

この日行っていたのは、「なぜなぜ授業」と呼ばれる授業。子どもの知りたいこと、気になることを調べ、発表する授業です。子どもたちが持ってきたテーマは“なぜ金縛りは起きるのか”“指の関節の音はどうして鳴るのか”とさまざまです。
廣瀬さんはこうした自身で選んだテーマを深堀りすると、物事の調べ方、自分の興味のあることが分かったり、逆に興味のないことがわかったり、それが総合的な学習になると考えているんです。
他にも子供たちが授業中にボードゲームで遊ぶのも授業の一環。対戦相手にどのように勝つのかを考える思考力、仲間と協力するゲームであれば、コミュニケーション能力が身につくと考えています。こうした授業を通して、子どもたちの可能性を引き出しているんだなと感じました。
廣瀬さんが利尻町で塾を始めるにあたって相談したのが高橋哲也さん。利尻生まれ利尻育ちで、現在はバーや商店を経営している、マチの兄貴的な存在なんだとか。
高橋さんは子どもたちのために教材に必要な道具を貸し出すなど、廣瀬さんの活動をバックアップしている一人。「子どもたちに楽しみながら勉強を教えるってとても大切だよね。そこに共感して応援することにしたんだよ」。
笑顔で話す高橋さんから、廣瀬さんには長くこの島で頑張って欲しい・・・。そんな思いが感じられました。

滞在10日目。
その廣瀬さんが、フレンズの梅村さんを誘い、子どもたちにある体験会を開きました。
それが「ほっけのかまぼこ作り体験」です。
ほっけのかまぼこは、島で古くから親しまれている家庭料理で、梅村さんは島に来た時に食べて感動したんだそうです。
実は梅村さん、料理が好きで、その味を島外から来た人にも知ってもらおうと、かまぼこ作りの体験会をこれまで開いてきました。島の漁師さんから、「今の子どもたちは、ほっけのかまぼこを作ったことがないのでは?」と聞き、今回、子どもたちに作り方を教えることにしました。
ちなみにこの日はホッケが大漁!船に足場がないくらい取れていました。

集まったのは小学生6人、地元の子はもちろん、島外から転校してきたという子も。島の子どもでも「魚をさばくのは初めて」という声があったのが意外でした。

実際に挑戦するとうろこのぬめりが嫌だと話す子も多く、梅村先生に任せる子もいました。しかし皆が2匹目に挑戦すると・・・徐々に慣れてきて嫌がらず触れるようになり、楽しんでさばいていました。

中でも、周囲が驚くほどの成長を見せたのが、小学6年生の大平青空(おおひら・そら)くん。
最初は魚に触るのも嫌そうで、特に内臓を見ることすら怖がっていましたが、包丁の扱いになれてきてからは3匹目、4匹目と積極的にチャレンジしている姿が印象的でした。

実は僕もホッケさばきを体験しました。恥ずかしながら僕も魚をさばくのは初めて。
先生はなんと青空君!「こわがっちゃだめだよ(笑)」なんて言われながら、手取り足取り教えてくれました。あんなに最初は嫌がっていたのに、短時間でその楽しさを知り、こんなに成長するなんて改めて感心しました。

廣瀬さんは「何にでも挑戦出来る大人になってほしい。子どもたちがまた一つ楽しいと思えることができてよかった」。これだけ島の魅力を体験しながら育てば、これから先もずっと“ふるさと利尻島”が大好きな大人になるんでしょうね。
廣瀬さんから学んでいる子供たちが、数年後どんな大人になっているのか。子供たちが大人になったらまた会いに行きたいです。
「子どもたちにはもっともっとたくさんの島の魅力を知ってもらいたいな」。帰り際に梅村さんがそう話しているのを聞いて、完全に利尻島の人になっているんだな、そう感じました。
2022年5月19日

