NHK札幌放送局

知床に永久凍土が存在か?調査の最前線に密着

オホーツクチャンネル

2022年11月10日(木)午後4時29分 更新

日本は永久凍土の分布の「南限」に位置し、大雪山国立公園や立山など高山帯の限られた場所で確認されています。希少な日本の永久凍土ですが、世界自然遺産の知床にも「永久凍土が存在する可能性が高い」と道内の研究チームが突き止めました。(NHK北見放送局カメラマン・前川フランク光)

(アラスカの地中で見つかった永久凍土(光を反射している部分))

年間を通して凍ったままの土壌「永久凍土」に世界の研究者たちが注目しています。北半球を中心に広く分布し、世界の陸地の4分の1を占める永久凍土は、コンクリートのように硬く地上の地形を支え、動物や植物に必要な水分などをもたらし、自然環境を支える役割があります。

(地平線まで永久凍土が広がるアラスカの大地)

一方で、永久凍土は地球温暖化によって大規模な融解が世界中で進んでいます。
凍土の中には大量の有機物が貯蔵されており、凍土が解けることによって空気中に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが大量に放出されるおそれもあります。 
地球温暖化によって永久凍土が融解し、地中から温室効果ガスが放出され、さらに温暖化が進んでしまう「負のスパイラル」が懸念されます。
日本は永久凍土の分布の「南限」に位置し、大雪山国立公園や立山など高山帯の限られた場所で確認されています。日本では希少な永久凍土ですが、「知床にも永久凍土が存在する可能性が高い」と北見工業大学の研究チームが突き止めました。

世界のなかでも最もとけやすい環境にある日本の永久凍土は、より北の地域の温暖化を予測する「環境変動のセンサー」ともいわれ、研究が進んでいます。

【永久凍土とは?】
「永久凍土」とは、2年以上連続して0度を下回り、凍ったままの土壌を指します。主に北半球の高緯度に分布し、中には数万年凍ったままの永久凍土も存在します。日本では北海道の大雪山系や本州の富士山、それに立山など限られた場所にしか存在しないとされてきました。

(アラスカの地中で見つかった永久凍土)

永久凍土はコンクリートのように固く凍っているため、周辺の地形を維持します。また、地中の保水力を高めて、動植物に必要な水分をもたらすなど、自然環境の根幹を支える存在です。

【地中から目覚める温室効果ガス 
  懸念される“負のスパイラル”】

寒冷地でしか存在できない永久凍土は、地球温暖化の影響により世界中でとけはじめています。現在のペースで温室効果ガスの排出が続くシナリオに基づいて将来予測をおこなったところ、2100年には永久凍土が20~50%ほど減少する予想です。

(水色の箇所が永久凍土の分布域)
1枚目は1971年

(水色の箇所が永久凍土の分布域)
2枚目は2100年の予想分布

永久凍土は大量の有機物を貯蔵しているため、凍土が融解した際に二酸化炭素やメタンなど、温室効果ガスが大量に放出されてしまう恐れがあります。つまり、温暖化によって凍土が融解し、地中から温暖化効果ガスが放出され、さらに温暖化が進んでしまう “負のスパイラル”が起きてしまいます。このため、永久凍土の融解は重要視されています。

【永久凍土は“環境変動のセンサー”】

地球規模の環境変動にさらされている永久凍土。その中でも、日本は永久凍土の分布の「南限」に位置し、重要な意味を持つと専門家は話します。

国立環境研究所 横畠徳太主幹研究員
「世界の中でも、永久凍土の分布の“端”で貴重な観測をすることができます。温暖化が進むと、南から凍土はとけていくので、日本の永久凍土は特に影響が受けやすい位置にあります。世界に先んじてとけていく日本の凍土の状況は、将来の北極圏の状況を予測する手がかりになります。」

こうしたことから日本の永久凍土は地球全体の環境変動を見極める“センサー”として捉えられています。横畠さんの研究チームは、気温データを用いて国内で永久凍土が存在する可能性がある場所を推定してきました。

(研究に基づいた永久凍土の分布の詳細データ
写真は北海道・大雪山国立公園における分布予想
永久凍土の存在確率が青色は25-75%、水色は0-25%)

日本国内で永久凍土が実際に確認されているのは、北海道の大雪山系、富山県の立山と、富士山で、いずれも高山帯です。この他にも研究チームは北海道の日高山脈や知床連山、本州では北アルプスと南アルプスにも永久凍土が存在している可能性があることを推定しました。

【世界遺産・知床に永久凍土が存在か】

横畠さんの研究チームの研究は、気温データなどに基づく予想です。実際の永久凍土の分布を知るためには、気温のほかにもその場所の地形や風の動きによって決まる積雪の状態、地面の下の水分や温度の状態を、詳しく山の上で現地調査する必要があります。
知床連山で永久凍土の調査を続ける北見工業大学の大野浩先生を訪ねました。

北見工業大学 大野浩准教授
「知床の自然環境は、地球温暖化の影響がいち早く現れ、非常に環境変動に脆弱だと考えられています。そうした繊細な環境で永久凍土があった場合には、実際に知床の山岳区域の環境がどのように変わっていくのか現地調査によって把握できます。」

地球全体の温暖化を予想するだけではなく、世界遺産・知床の自然環境を守るためにも、知床連山での永久凍土の調査は重要だと考え、大野先生の研究チームは2019年から調査を開始しました。
永久凍土の存在を立証するためには、地中の温度が2年以上連続して0度を下回っている必要があります。永久凍土を探すために地面をいきなり掘削することはできないので、地表面温度の計測や、気温風速、積雪のデータを収集しました。

(将来的には山の気象データは麓にも送られ、登山者が参考にできるようにする予定)

調査ポイントの年間平均気温はマイナス1度。そのほかの基礎データも活用し、3年がかりで知床連山・サシルイ岳に掘削ポイントを絞り込みました。地表から5.5メートルを掘削し、地温センサーを導入しました。

(地中にパイプとセンサーを導入し、地中の温度を継続的に計測する)

掘削時には、1.2メートル付近から地面が凍り始め、薄い氷のレイヤーがありました。実際に地中から取り出した土には、粒状の小さな氷が含まれており、永久凍土の立証を目指す場所としては良いスタートとなりました。

(地中から取り出した凍土)

【凍土は夏を生き延びたか?】

山の地面が年間で一番暑い時期は9月です。調査開始以降、凍土がとけずに存続したか、9月末に確かめに行きます。

調査ポイントまでは、往復10時間の道のり。大野先生の調査チームは夜明け前に麓を出発しました。黄色く紅葉する白樺類の林を抜け、高度を上げていくと赤く染まった知床連山が見えてきました。知床には200種以上の高山植物が生えています。地面を赤く染めているのは、チングルマやウラシマツツジ。地面の上に生きる小さな命が織りなす秋の絶景です。

標高は1500メートルほど、ハイマツ帯を超え調査ポイントにたどり着きました。
大野先生はこの場所の植生も永久凍土を見つけるために参考にしました。

「この場所を選んだ理由は、風衝地であること。風が強くて、雪があんまりつかない場所で、植生も乏しい。そういうところは凍土が発達する典型的な場所です。加えて、ここの植生は地衣類がマットみたいになっている。こうしたマットは、夏場は熱気を遮断し、冬場の冷気はしっかり地面に伝える。私が以前アラスカのツンドラ地帯で、永久凍土の調査をやった所も同様の環境が多く、観測ポイントとしました。」

実際にセンサーを取り出し、温度を確認します。

「深さ50センチ、5.9度ですね。
 次が深さ1.5メートル。もう0度ですね。
 2.5メートル、マイナス0.3度。
 3.5メートル、マイナス0.4度。
 4.5メートル、マイナス0.4度。
 5.5メートル、マイナス 0.3度。
 つまり、1.5メートルより下は現時点でも凍っている。
 この夏を生き延びたと言う事は言えるのかな。」

今回観測された凍土が、このまま2年間連続して再来年の8月までずっと凍っていれば永久凍土となります。一番暑い時期を地面が凍ったまま存続したことが今回の結果で示され、永久凍土の証明に一歩近づきました。

【これからの継続調査が重要】

知床連山にも永久凍土が存在する可能性が高いといえる結果を受け、大野先生はこれからの研究が大切だと話します。

「まずは2年後に永久凍土の証明をするのが大切ですが、その後ですよね。永久凍土があったとして、じゃあ今後どうなるのかと言うところが大切。そのためにはちゃんと継続的に調査していかないといけない。
永久凍土と生態系は深く結びついています。永久凍土は地中の水を通さないで、植物が必要とする水分を保持する。もし、永久凍土がなくなると、植生は変わる。植生が変わるとその周りに生きている生き物も当然影響受けますよね。
さらに地形も変わってしまうかもしれない。永久凍土っていうのがカチカチのコンクリートみたいなものですから、それが溶けてしまうと地滑りなども場合によっては起こるでしょうし、山の姿が長い時間をかけて変わるってしまいます。この先5年、10年と長期的に見続け、凍土が衰退していくのか、あるいは予想を裏切り成長するのか。そうした可能性を検討しながら調査を続けたいです。」

長い時間がかかって地球が大きく変化してゆく。
その変化は足下の見えない地中から始まっているのかもしれません。知床の自然環境をこの先も守り続けるためにも、私たちひとりひとりが環境に配慮し行動を起こすことが求められています。

(北見局カメラマン・前川フランク光)

2022年11月10日

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