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大冒険は地図の裏に ~野村良太 北海道分水嶺ルート63日間の記録~

  • 2023年5月31日

大縦走中、一日の行動が終わって眠りにつくまでの時間に毎日日記を付けていた野村さん。 「言葉」に対するこだわりについて伺った。 

番組の中で大縦走の間に書いた日記が取り上げられていますが、言葉にするまでもないかもしれない感情を丁寧に記していらっしゃる姿が印象的です。
言葉を紡ぐこと、書きつける行為はご自身の中でどんな位置付けなのでしょうか?

普段から日記をつける習慣は皆無なのですが、山に入ると言葉に敏感になるタイミングはある気はします。番組に使われることを前提に書いていたわけではないですが、せっかく書くなら齟齬のないように伝わってほしいなという気持ちはありましたね。

ポリ袋に入れて保管していた63日分の日記

地図の裏に記された日記

地図の上にも過去に登った時の振り返りが記されている

山の上ではラジオが唯一の娯楽、というエピソードがありましたが、テントの中で相撲中継を聞きながら力士が戦う様子をご自分の挑戦に重ねていらっしゃるシーンがとても印象的でした。
数年前の別の登頂時に相撲中継をラジオで聴いていた時もあったとのことでしたが、他の人の言葉や頑張る姿を自分事として取り込むことは多いのでしょうか?

しょっちゅうですね。
むしろ、自分だったらどうだろうという視点で見てしまうので、色んな出来事を自分だったらどうだろうという視点で見てしまうんですよね。
すごくうまくいっている人を見ると、「どうしたら俺はそうなれるんだろう」と嫉妬すらも混じるような感覚になることもあります。
高校野球を聴いていた時もあって、高校野球のひたむきな、がむしゃらな気持ちが自分にもあるだろうか、もっと自分を奮い立たせないといけないなと。
ただの娯楽というよりは、自分の感情をコントロールするためのきっかけとして聴いている気がします。

工藤英一さんの『北の分水嶺を歩く』のあとがきを読んで「これ自分のことにならないかな」と思ったとおっしゃっていましたが、言葉を自分事として引き付ける力が印象的でした。
周りの人の言葉が常に自分の言葉になっていくという感覚でしょうか?

そんなに毎回うまくはいきませんが、そうしたいなと思っている自分はいますね。
疲れていて「もういいや」と思ってしまう時もありますが、色んな人の言葉の中に「自分だったら」を探す作業を繰り返している気がします。

野村さんに影響を与えた『北の分水嶺を歩く』『果てしなき山稜 襟裳岬から宗谷岬へ』

「強くなりたい」という想いについて、ご自身の中ではどのように捉えていますか?

ちょっとでもマシな自分になりたい、という感覚ですね。「あの失敗をした自分よりはマシになりたい」という積み重ねが結果的に強くなることに繋がるのかなと。自分で「強くなった」と思える日は来ない気がしますが、周りから見て「あいつ強くなったな」という瞬間はあるのかもしれませんね。

赤線部「山に分け入るほどに」の部分は吹雪で停滞となった日に小屋の中で一人、ご自身に向き合っている言葉ですが、改めて振り返っていかがですか。

4月2日 吹雪により小屋に引き返し、停滞した日

この部分は「上手く文字になったな」という感覚はあります。
強くなりたいと思っていても弱さが見えないと克服すべき課題も見えてこない。
強くなる過程には弱さを自覚する過程がきっと必要だろうと思っています。
弱さが見えるというのは、強くなるプロセスの一つだと思います。
進みさえすれば弱さが見えてくるけれど、それを乗り越えるまでにあと2パワーくらい必要になってくるんですよね。

青線部「僕だって」についてはどんな想いが込められているのでしょうか。

4月2日 停滞の日こそ思考を巡らせる

上手く書けないからごまかしたんだと思いますが(笑)
山は常にどっしりと構えている様子が見えていて、それに比較して自分の感情だけはいつも上下していて。どうやったら山みたいにどっしりと振舞えるんだろうなと。ちょっとくらいは自分も山みたいにずっしりと、でんと構えた人間になりたいな、ということですかね…。

山を歩いている際、足跡のトレースがあればそれは誰かが先に歩いて踏み固めた道で、山小屋さえも誰かが作ったものだと気付いた、という言葉が印象的でした。

計画している段階ではそんなことに思い至らなかったので、行ってみないと分からなかったことですね。こんな立派な山小屋に守られていて、単独踏破と呼べるのか、という気持ちになりますが。
そこで思い出したのは、角幡唯介さんの本に書いてあった言葉です。
如何に自分の力でやり遂げるか突き詰めた時に、今の社会には障壁が多すぎることに気付く。小屋があるのに(他人が作った)小屋を使わないという選択をする、GPSという技術があるのに使わない、といったことにがんじがらめになってしまう。こういった今までピンと来ていなかった描写が急に腑に落ちる、という瞬間がありましたね。
そんな中でも自分だけでできることを増やして納得感を得る。その上でやはり誰かの助けを借りるとなった時に弱い自分を受け入れる作業が始まるんですよね。
(今回、人の助けを借りた部分については)今思えば防げたミス、準備段階気付けなかったミスということも多々あります。

北海道分水嶺ルートの大縦走のきっかけとなった本をめくる

それも次の挑戦に生かせてはじめて成長したと気付くことの一つでしょうか?

そうですね。3年前のミス、1年前のミス…過去のミスは今振り返ればお粗末なミスもありますが、前に進んではいると思います。

前編 「強くなりたい」を裏付けるもの ~野村良太 北海道分水嶺ルート踏破を振り返って~


【ご案内】
6月2日(金)、NHK札幌放送局と北海道大学は北海道大学クラーク講堂にて野村良太さんをゲストにお迎えした講演会を開催します。
北海道大学ワンダーフォーゲル部での活動、休学中に考えていたこと、北海道分水嶺ルート踏破中に自分と向き合った時間について、番組担当ディレクターとの対談を通して紐解いていきます。踏破中に書きつけていた日記と、当時の写真を振り返りながら野村さんが山の上で過ごした挑戦の日々をたどります。在学中に抱いた目標を実現していく野村さんの姿を後輩学生に見てもらうことで、進路や生き方に悩む学生の背中を押すような時間にします。どなたでも参加できます。当日参加も可能です。

野村良太さんご本人よる振り返りはこちらから
野村良太 本人寄稿 一年が過ぎて

北海道道 『白銀の大縦走を語る 北海道の稜線670キロの旅』」をNHKプラスにて配信中です。
配信期限は6月11日(日)午前2時6分(土曜深夜)です。
あわせてご覧ください。

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